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夏祭り その五

 美緑は辟易とした様子で俺に近寄ってくる。そして、屋台の方を向いて一瞬動きを止めた。


「あれ?」


 そして、その声にバカっぽく焼きそばを食べ続けていた紫帆さんが顔を上げる。


「ん?」


 そして、二人が見つめ合う中、若干の気まずさを感じている俺は、一言も話せなかった。お互いに黙って対峙する中、先に口を開いたのは紫帆さんだった。


「どこかで会ったことある?」


 いや、憶えてないんかーい!

 あそこまでそれっぽい反応しといてそんなことあるか?紫帆さんは顎に手を当て、どうにか思い出そうとしている。


「いや、この前会いましたよね?日曜日に」

「あー!あの時の!」


 どうやら美緑は憶えていたようで、それを聞いてようやく合点がいったと右手を左手のひらにポンと乗せる。


「ただのバイトの後輩だ!」


 それに対して、美緑は頬を引くつかせながら言葉を返す。


「そういうあなたはただのサークルの先輩でしたね」



 目の前で、なぜか、いや、何故かはわかっているんだけど火花をバチバチと散らせながら睨み合う二人。その二人を見て、我関せずと無言を決め込む荒畑先輩。


「ねえ、雄二?」

「はい?」

「もしかしてこの娘と二人で祭りに来てたの?」

「いや」

「そうですけど!なにか!」


 ちょ、俺まだ何も言ってないんだけど。というか、今回はガチでバイト先の人たちと来てるんだけど。正直それは予想外だったのか、聞いた本人である紫帆さんが混乱している。


「え、あ、え、え?」

「そちらはどうやら、祭りの屋台を開いたはいいけど、何の屋台か全く客に伝わらなくて閑古鳥が鳴いているようですが?」

「こんなの、私だって好きでやってるわけじゃないわよ!」

「こんなのとか言うな、こんなのとか」


 先程まではこの屋台を企画したサー長に文句を言っていた荒畑先輩が、あまりにもな言い草にボソッと誰に言うでもなくこぼした。


「え、ていうか本当なの?雄二」

「なにがですか?」

「その、この娘と二人で祭りに来たって言うのは」

「ああ、それ嘘ですよ。バイト先のみんなで来ました」

「あんた嘘ついたわね!?」

「そういうのは騙されるのが悪いんです。そんなことも分からないなんて、雄二さん検定三級にも受かりませんよ」


 美緑が自分は悪くないとばかりにそっぽを向く。そんな検定ないだろ。


「うっ……私はまだ四級しか持ってない」


 え、あるの?そんな検定あるの?というか、持ってるの?四級だとしても持ってるの?俺知らないんだけど。本人非公認の検定ってなんだよ。

 すると、ついでとばかりに荒畑先輩が、


「ちなみに俺は二級を持っている」


 とこぼした。その声は二人には聞こえていない。え、何ですか?それはボケなんですか?せめて聞こえるように言ってくださいよ。じゃないとガチっぽく聞こえるから!


「じゃあ問題です。雄二さんのここ一カ月の平均睡眠時間は!」


 いや、そんなの俺ですら知らねぇよ。


「七時間!」

「くっ、正解です……」

「何で分かるんだよ!」


 当てる紫帆さんもおかしいが、その正解を知っている美緑は一体何なんだ。どこに答えが書いてあるんだよ。え、もしかして俺盗聴と化されてないよね?


「ちなみに、この情報は弟の健三さんから頂きました」

「あいつ、あとで帰ったらぶっ飛ばしてやる」


 そんな状態がしばらく続き、何故か俺ですら知らないような情報を二人で問題として出し合っていた。そこまで俺のことを知っておいて、どうして三股がバレていないのかが不思議でならないのだが。


「やるわね……」

「あなたの方こそ……」


 何故か問題を出し合った二人は、どこか幾度も戦場を共にしたライバルのように見えなくもない。


「ところで、原さんと川名ちゃんはどうしたんだ?」


 先程から気になっていたことを聞く。結構の間、ここで話していたはずだが、二人はいつまで経っても追いついてこない。


「ああ、それなら「二人で楽しんできてね」って言って、どっか行きました」

「どっか行きましたって……」



 あの二人は本当に自由だな。俺を置いてどこか楽しいところへ行くなんて許せん。


「ねえ、雄二?」

「ん?」

「二人は本当に何にもないのよね?二人で楽しんできてって、まるで……」


 紫帆さんが、眉根を寄せて、不安気に俺に身を寄せてくる。荒畑先輩や、美緑には聞こえないくらいの声量で聞いてきた。

 確かに、そこの部分だけ効くと、俺たちがまるで付き合っていて、それに気を遣ったみたいだ。いや、実際付き合ってはいるんですけど。


「大丈夫ですよマジでなんともないんで」

「雄二さん?」

「ん?」

「なんだかやけにお二人は距離が近い気がするんですけど」


 視線をやると、頬を膨らませた美緑が不満気にこちらを見ていた。


「え、いや、まあ」

「雄二?」

「雄二さん?」


 隣からは紫帆さんが不安そうに見てきて、目の前では美緑が少しいらだった様子でこちらを見てくる。荒畑先輩はというと、このあまりの気まずさから「俺トイレ行ってくる」と数分前に行ってから戻ってきていない。

 え、これどうすりゃいいの?

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