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夏祭り その三

 美緑の可愛すぎる発言に俺たちは、全員ボケるのもやめてキュンとしてしまった。


「なにそれなにそれ!可愛すぎるよ!美緑ちゃん!」

「俺も、ちょっと今のは効いたかな」


 川名ちゃんは浴衣であることを忘れて美緑に抱き着き、原さんも若干頬を赤らめて頭を搔いている。抱き着かれた美緑は動揺しながらもきちんと川名ちゃんのことを受け止めていた。そして、俺はというと……鼻血を出していた。


「ちょ、雄二さん、鼻!」

「ん?ああ、確かに、お前は花のように可憐で清らかな女だよ。それは今の発言で証明されたようなものだ」

「何言ってるんですか!」


 急いで駆け寄ってきて、俺の花にティッシュを当てる俺の彼女。そう、これが俺の彼女なのだ。先程の奥ゆかしい発言をしたこいつがだ。


「ブフォッ!」

「うわっ、どうしたんですか急に!」


 俺のことを本当に心配しているようで、これ以上ふざけていると可哀そうに思えてきた。

 そして、さりげなく水とか買ってきてくれる原さん、あんたイケメンですか?イケメンでした。川名ちゃんは、どうすればいいのかアワアワしている。働けや!もっと生産性のある動きをしやがれ!……いや、ごめん冗談だから。だから、そんな泣きそうな目で見つめるなよ。川名ちゃんはそれでいいんだ。いつまでも俺のマスコットでいてくれ。


 そうこうしているうちに俺の鼻血はとまり、なんとか祭りを再開することができた。ちなみに鼻にティッシュをツッコんんだままである。


「鼻が暑い」

「鼻が暑いってなんですか、初めて聞きましたよ」

「確かに、内側からの暑さって感じるもんなんだね」


 原さんが冷静に分析してくれている。テキトーに行っただけだからきちんと分析されると恥ずかしいんだけど。そして、川名ちゃんはよく理解できずに首を傾げている。ティッシュってなあに?とでも言いそうだ。流石に失礼か。


「ティッシュってなあに?」

「え?」


 今言った?言ったよね?聞こえたの俺だけじゃないよね?もしかしたら幻聴かもしれないと、美緑と原さんの顔をうかがうと、二人ともどう答えればいいんだと困ったような顔をしていた。やっぱ幻聴じゃない!


「川名ちゃん、ティッシュっていうのはね、今俺の鼻に詰まっているものなんだよ」

「もう!そんなことくらい分かるもん!バカにしないでよね!」


 頬を膨らませてぷりぷりと怒る。あれ?じゃあ俺の聞き間違いか?そう思ったがそうでもないらしい。


「でものぞみさん、今『ティッシュってなあに?』って」

「ああ、あれ!あれ見て!あの看板に書いてあるの!」


 川名ちゃんの指さした先を見ると、確かにその看板には『ティッシュってなあに?』と書いてあった。

 なんとも紛らわしいことをしてくれやがって。屋台の店主に会ったら文句を言ってやる。


「いや、やっぱ我慢ならねぇ」

「え、どこに行くんですか?」


 俺が三人を置いて俺がその屋台の方へ行こうとすると、美緑が気になって聞いてくる。


「決まってんだろ。あんな屋台を出してくれたがった野郎の顔を拝みにだな」

「そんなことだろうと思いましたよ!絶対にやめてくださいね!」


 そう言って、俺の腕を固く握りしめる。

 しかし、今は二人だけじゃないのだ。


「うわぁ、大胆」

「二人は本当に仲がいいね」

「え?」


 美緑はいつものノリで掴んだのだろうが、それは俺たちの関係を知らない人たちから見たらどう映るのか。


「あ、あの!これは!」


 焦りながら弁明を試みる美緑だったが、いい言い訳が思いつかなかったのか、そこで押し黙ってしまう。


「みんなで回りたいからって、男の腕をそんなに固く握るなよ。勘違いすんぞ」

「え、あ、すみません……」


 その謝罪には別の意味が込められているだろう。もちろん、そのことに気づいているのは俺だけだ。周りに付き合っていることを隠している俺たちは、こういう所で若干のやりづらさを感じる。


「まあ、言われてみれば、俺たちバイトの人間で外で会うことって今までなかったよね」

「確かに!特に今年に入ってからなかったかも!」


 俺の機転により、先程の行動は上手く納得してくれたみたいだ。その様子に美緑は安堵しつつ、もう一度俺に『すみません』と目くばせをしてくる。

 俺は『問題ない』と返しつつ、脚を例の屋台に向ける。


「じゃ、そういうことだから、俺は文句言いに行ってくるな!」

「何がそういうことですか!て早っ!」


 美緑が少しだけ気を緩めた瞬間を狙って、急いで人をかき分けると、もうそこは美緑の射程範囲外。彼女の腕は空を切る前に、人に阻まれ、少しだけ迷惑そうな目を向けられることにより、引っ込む。それに落ち込みつつ、他二人に慰められているのが見える。

 そして俺は、そんな様子を見ながら進んでいたため、周りからは鬱陶しがられていた。


「いや~、すみませんね!僕不器用なもんで!」


 そう言うと、周りも仕方ないか、と許してくれた。ような気がした。そして、漸く目的の屋台にたどり着くと、そこには一切客はおらず、一区画だけ避けられているように空間が広がっていた。

 そして、その原因はおそらく店の看板、ではなく、明らかに目つきの悪い人間が店番をしているからだろう。その周りを威嚇するような視線は誰も寄せ付けない。……この人接客する気あんのかよ。

 そして、文句を言いに来たはずが、予想外の怖い人に怖気づいてしまった。でも、ここまで来て話しかけないわけにはいかないだろう。


「あの~」

「あぁ?」

「やっぱ何でもないです」


 話しかけただけでガンつけられたので、その場を即刻立ち去ろうと踵を返した。が、俺の肩を掴んだものすごい力によってそれは阻まれる。


「こんなところで何してやがる」


 何を言っているのだろう。ここにいる理由なんて祭りを楽しみに来たしかないのに。


「俺の頭にある仮面を見て分かりませんか?」

「そういうこと言ってんじゃねぇ、どうしてテメェがここにいやがる。栄」

「わっしょい!」


 思わぬ遭遇に俺も絶賛混乱中でござる。

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