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夏祭り その二

 待ち合わせ場所に行くと、一人だけ見知った人間がいた。


「ちわっす」

「あ、栄君、遅刻だよ」

「すんません」


 この人は俺のバイト先の先輩で原さんだ。いつもニコニコしていて、基本的にはなんでも肯定してくれるので、俺もよく甘えてしまう。俺より少しだけ背が高くて、そのほんわかした空気と整った容姿からさぞかしモテるのだろうということがわかる。


「そんなことより、今日って俺ら二人だけなんですか?」

「まさか、ほら、噂をすれば」


 原さんが俺の後ろの方を指さしながら質問に答えてくれる。促されるままに後ろを振り向くとそこには浴衣を着た二人の可愛らしい女の子がいた。


「あっ!遅いよ!栄くん!」


 川名望、年齢は俺と同じだが、バイト歴としては一年ほど長くいる。身長が結構低く、お客さんにもよく中学生などと間違えられる可愛らしい人だ。肩より少し長いくらいの髪は、お団子状にまとめてある。そしてもう一人。


「雄二さんが時間を守ることなんて滅多にないですし、仕方ないですよ」


 八田美緑。周りには俺たちが付き合っていることは話していないため、今の発言は少し危うい。


「あれ?美緑ちゃんいつから、栄くんのこと名前で呼ぶようになったの?」

「え、それは」

「今日からだ」

「今日から!?今初めて名前で呼んだの!?すごい距離の詰め方だね!?」

「あ、はい、そうです」


 川名ちゃんが驚愕の顔で美緑のことを見ている。それに対して俺の彼女はというと、肩をビクッとさせながらも肯定を示した。川名ちゃんはアホなのでこんな言い訳でも信じてくれる都合のいい人間なのだ。


「むぅ、なんか今栄くんに失礼なこと考えられた気がする」

「そんなことより、二人とも可愛いな。よく似合ってる」


 普段とは違い、上げられた髪。必然的に見えるうなじ。誰に気つけてもらったのか、しっかりと帯が占められている中、鎖骨がチラチラと見え隠れしている様は、なにやらエロティックな部分を刺激される。いつもとは違うその姿に、ドキッとしてしまったことは事実だ。


「えへへ、そうかなぁ」


 川名ちゃんがダラしなく顔を緩めまくっている横で、美緑はこちらに気づかれないようにひっそりと頬を赤らめていた。多分気付かれていないと思っているな。可愛い奴め。


「でも、褒め方が原さんとほぼ同じでしたね。デートの教科書にでも載っているんですか?そのセリフ」


 そう思っていると、美緑は頬が冷めやらないままに、俺にダメ出しをしてくる。

 まさか、原さんと誉め言葉が被るなんて……チラッと原さんの方を向くとニコニコとした笑みでただこちらを見守っていた。相変わらず何考えてるか分からんなこの人は。


「じゃ、これでそろったね」


 話に一段落つくと、この中で最年長である原さんが切り出してくれる。どうやら、今日はこの四人だけのようだ。まあ話は急だったし、そんなに集まるとは思っていなかったけど。


「またいつもの四人だねー」

「なに、川名ちゃん不満なの?じゃあちょっと俺帰るわ」

「え!そんなことないよ!帰らないでよ!」


 歩き出した途端、川名ちゃんがそんなこと言うもんだから俺は踵を返して家に帰ろうとする。


「落ち着いてください、あれ雄二さんの冗談ですから」

「え、そうなの?も~栄くんひどいよ!」

「いや、マジで帰るけど」

「またまた~冗談なんでしょ?」

「マジで帰るっつってんだろ」

「ひぇっ、栄くん?」

「まったく、のぞみさんには冗談が通じないんだからやめてくださいよ。本当に怖がってるじゃないですか」

「仕方ねぇなぁ」


 川名ちゃんの反応が可愛くてついからかってしまったが、美緑に窘められてしまったので、許してやるか、とばかりに歩を合わせる。


「ありがとう!」

「のぞみさん?今のは怒るところですよ?どうして雄二さんが許してやるか、みたいな雰囲気出してるんですか」

「ははは、元気なのはいいことじゃないか」

「本当ですね!はーっはっはっはっはっは!」

「ちょ、恥ずかしいんでやめてくださいよ。どうしていつもそんなに声が大きいんですか」

「なんだかみんな楽しそうだね?わたしも!あーっはっはっはっはっは!」

「のぞみさんまで!?ええい、じゃあ私も……って何やらせようとしてるんですか!」


 思いっきり俺の背中を叩いてくる美緑は少しだけ息を切らしている。なんだかいつもよりテンションが高い気がする。


「祭りではしゃぐなんてまだまだガキだな」

「お面つけて、綿菓子とりんご飴両手に持ってる人にだけは言われたくないです」


 ジトっとした目で美緑は言ってくるが、この場にはそれに該当する人間が三人いるということに気づいているのだろうか。


「え、わたしのこと?」

「もしかして俺かな~?」

「いや、俺だよな?」

「どうして、みんなしてそんな欲しそうな目で見るんですか!」


 先程からツッコんでばかりいる美緑は、既に若干の疲れの色が見える。祭りはこれからだというのに、祭り以外のところで体力を使ってしまっている。


「まったく、祭りだからってそんなにハシャイでたら最後疲れて花火を見る前に寝落ちするぞ」

「子供ですか!」

「まあ、小さい頃の俺だな」

「私これでも十八歳なんですけど……」

「わたしはこれでも二十歳だよ!」


 周りの人間が一斉にこちらの方をぎょっと見る。まあ、中学生にしか見えないような人が二十歳とか言ってたらビックリするよな。しかし、その視線には気づいていないのか、川名ちゃんは未だにない胸を張ったままドヤッている。


「それに、祭りだからはしゃいでるわけじゃないです……」

「は?じゃあなんだよ」


 思ってたのとは違う発言に、一瞬言葉が悪くなってしまったが、そのまま美緑の次の発言を待つ。すると、暑さのせいか恥ずかしさのせいか分からなかったが、頬を紅潮させて、こう言った。


「み、みなさんと遊びに行ったことなんてなかったので……それで」

「え?」


 予想外の内容に反射的に聞き返してしまった。


「だ、だから、みなさんとこうして外で遊びに行ったりすることなんてなかったので、た、楽しみにしてたんです!なにか悪いんですか!」


 言うとさらに恥ずかしくなったのか、元から赤くしていた頬をさらに赤くしてそっぽを向いてしまった。


 いや、可愛いかよ。

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