いつも元気なやつが静かだと心配になるよね その三
肩に力を入れていたせいか、ものすごく疲れた、ソファに放置していたスマホを持ち上げると、すごい量の通知が溜まっていた。そのすべてがグループだ。今度から切っとくか。
バイトの方のグループに祭りへ行けることを伝えると、まだ通知が溜まっていることに気が付く。
「珍しくサークルの方も動いてんだな」
中身を見ると、こちらも同じ内容だった。サークルのみんなで遊びに行こうというもの。元々気まぐれな人間が多い中で、こういった風に集まってどこかへ行こうというのは珍しかった。しかし、やはり気まぐれな人間が多いというのと、それまでの日数もそんなにないということで、集まれる人間はあまりいないみたいだった。
まあ俺もたった今予定が入ったので行けないが。そう、祭りの日と全く同じ日取りだ……まさか祭りじゃないよな?
「あ、丁度朱音さんから連絡だ」
「滅茶苦茶タイムリーだな。てか、同じ大学だからってどこで知り合ったんだ?」
「サークルだよサークル」
「朱音ってサークルなんて入ってたっけ?」
「えぇ、知らないの?放課後ブランチタイムだよ」
「どうして頭のいい大学のはずなのにそんな頭の悪い名前なの?」
放課後なのにブランチというあまりにも矛盾した名前に、健三が即座にツッコミを入れる。お前は早く課題を終わらせたらどうなんだ。
「一応聞いておこう、どんな活動してるんだ?」
「えっとね、みんなでお菓子作って、みんなで食べて解散」
恐らく朱音へ返信しているのだろう。スマホをポチポチしながらこちらのことは一切顧みず、言葉を返してくる。そしてその内容は、あまりにも予想通りだった。恐らく、京子なんかは食べるだけなんだろうな。
「京子ちゃんは食べる専門だね」
俺と同じことを想ったのか、ペンを握りながらそんなことを言った。だから、お前は課題に集中しろ。
「失礼な!ワタシだって卵割ったりするんだから!みんなそれだけで喜んでくれるからあったかい場所だよ」
サークルののメンバーのことを想っているのだろう、目線を上に上げて頬を緩めている。卵割っただけで褒められるとかマジか。俺も入りたいそのサークル。
「あ、そこ使う公式違うよ」
目線を下に下げた京子は健三の課題を指摘している。それを見ると、本当にこいつは頭がよかったらしいと認識させられる。
「ところで、さっきの朱音からの連絡は何だったんだ?」
「ん?ああ、みんなで夏祭り行くことになったんだ~」
「へー、そりゃよかったな」
本人は隠しているつもりかもしれないが、頬がゆるゆるになって酷い顔になっている。大学入ってから初めての夏休みだ。楽しみにするのも分かる。ん?夏祭り?
「それってもしかして週末にあるやつか?」
「そうそう!あー、楽しみだな~」
いや、大丈夫だよな、うん。今回は俺と美緑二人ってわけじゃないし。もし鉢合わせたとしても、バイトのみんなでいれば問題ない。うん。大丈夫なはずだ。
でも一応保険は必要だよな。
「京子、お前に頼みがある」
「頼み?はっ!ワタシは絶対に彼女にならないからね!」
「誰がんなこと頼むかよ!」
「じゃあなにさ」
身を捻らせて自身の体を守りながら、俺に訝しげな目を向けてくる。俺はどれだけ信用がないんだ。
「俺もその夏祭りにバイトのメンツで行くことになってな、そこに美緑もいるんだよ。分かるだろ?」
「え!美緑会いたい!」
「そうじゃねぇよ!」
さっきまでの怯えはどこへやら、美緑の名前が出た途端に目を爛爛と輝かせて身を乗り出してくる。
「朱音と美緑が鉢合わせたらなんか変な感じになるかもだろ」
「え?あ~、なんかこの前修羅場ったんだっけ?」
修羅場を勝手に動詞化しないでほしいんだが、概ねあってる。これが今時女子というものか。もしかしたら、これから多用するかもしれない。俺も使っていこう。
「だから、お前にはその時の調整役を担ってもらいたい」
「なんかめんどくさそ~」
ぐへぇっとうめきながら顔を歪ませる京子。
「今度飯でも奢ってやるから頼む」
「仕方ないな!従妹のために一肌脱いでやるとしますか!」
そのあまりの変わり身の速さに一瞬たじろぐが、こういう奴だったと思い出す。こいつそんなに金に困っているのだろうか。少し不安に感じてきた。
「具体的にはそもそも俺たちが会わないように連絡を取り合おう。もし会ってしまった時はいい感じになんかフォロー頼む」
「なんかよく分からんけど分かった!いい感じにすればいいんだね!」
こいつのポンコツ具合を知っているだけに不安にはなるが、まあいないよりはマシ程度に思っておこう。
何より、京子の表情からは、祭りを本当に楽しみにしているのだということが伝わってくる。あまりこちらの事情に巻き込んでやるのもかわいそうだろう。俺は呑気にそんなことを考えていた。
この時の俺は考えてもみなかったんだ。この祭りでどんな悲劇が待ち受けているかなんて。
俺は後悔する、この時京子に協力を仰いでしまったこと。
されども時間は過ぎ、来てしまうのだ。
運命の日というやつは。




