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デートは修羅場のはじまり その六

「美味しかったですねー!」

「トマトの甘さが引き立ってたよな!」

「パンケーキの話をしているんですけど」


 あの後、きちんと注文をし直した美緑は無事パンケーキを食べ、大満足の様子だ。あの店員さんの様子がおかしかったのには理由があり、どうやら俺たちが帰った後、店長さんにものすごく怒られたそうだ。今回会計するときに強面の店長直々に謝罪をされた。その時、美緑はまたも訝しむような視線を俺に送り付けてきたが、古い知り合いと言って何とか誤魔化した。


「ていうか雄二さん、あんな怖い人とどうやって知り合ったんですか」

「昔、ハワイで困っているところを助けてやったんだよ」

「ハワイ?」

「ああ、そうだ。店長がビーチで靴を失くしたらしくてな。海で遊んでいる間に誰かに取られてしまったらしかったんだよ」

「それは、災難ですね……」

「ああ、そこで、数分前にたまたまビーチに転がっていたサンダルを拾った俺があの人にそのサンダルを上げたんだ。するとなんとビックリ、そのサンダルはサイズがぴったりどころか、柄やメーカーまで瓜二つだったんだよ」

「絶対それその人の奴ですよね?勝手に雄二さんが盗んだだけですよね?」

「そこで、感謝をされた俺はあの人と仲良くなったんだ」

「マッチポンプ甚だしいですね。それに気づかない店長さんも凄く頭悪いですけど」


 作り話にしてはよくできているんじゃないか?これならだれもが信じてしまうだろう。


「ところで、これからどこ行きます?」


 今日の予定などは特に決めていなかったので、この後はノープランだ。なんか、海行きたくなってきたな。


「サンダルでも探しに行くか」

「今の話の後だと万引きでもしないか心配になります」


 俺のことを一体何だと思ってんだ。


「冗談ですよ、早く行きましょう!」


 俺の腕を引っ張り先を急ぐ美緑。いつも通り楽しそうだ。パンケーキ屋へ行くと分かった時はどうなることかと思ったが、意外とどうにかなるもんだな。その時だった。


「あっ……」


 その声と共に唐突に立ち止まる美緑。今の今まであった楽しそうな笑顔も鳴りを潜めている。


「美緑?」


 俺のその問いかけにも答えず、ただ身を竦めている。しかし、俺には美緑がそうする理由には心当たりなどない。これほどまでに緊張した様子の美緑は見たことがない。婆ちゃん家に行く時ですらこうはならなかった。

 俺がどうしていいか分からずあたふたしていると、前方から声が聞こえてきた。


「あれ~?もしかして美緑ぃ?」

「っ……!」


 声をかけられた瞬間さらに身をこわばらせる。そこには六人くらいの男女グループ。割と派手目な外見をしていて、俺とは真逆のタイプの人間に見える。つまり悪者だ。俺は正義のヒーローだからな!と、冗談は置いといて……知り合いか?


「久しぶりじゃ~ん、何してんのこんなところで」

「えっと、あはは……」


 一応顔見知りではあるらしいが、あまりいい関係性を築けているとは思えない。しかし、俺はそれよりも気になることがある。なんでかな、後ろにいるあの男、俺どっかで会ったことある気がするんだよな。まあ、でもどこにでもいそうな顔をしているだけ、かな。


「雰囲気変わってて最初全然誰か分かんなかったわ~」

「そう、かな?」

「なに、大学デビューってやつ?」

「……」

「なんとか言えよ」


 おう、なんとも言葉遣いの荒い女だな。にしても、美緑が大学デビューだっとは。言われてみれば確かにリア充っぽい見た目に反して好きなものだったり、俺との会話の内容だったりが陰気味だったのは少し気になってたんだよな。


「もしかして、そいつ彼氏?」

「彼氏でーす!」

「テメェには聞いてねぇよ」

「マジか……」


 俺には聞いていなかったらしい。テメェとか言われちゃったよ。


「そう、だけど……」

「デート中?ウケるんですけど」

「ははっ、それな」

「アンタふざけてんの?」

「マジか……」


 どうやら俺はふざけていたらしい。アンタとか言われちゃったよ。テキトーに相槌は打ってはいけないんだ。また一つ賢くなってしまったぜ。


「この女は止めといたほうがいいわよ」

「……」

「……聞いてんの?」

「あれ、俺?」


 どうやら俺に言っていたらしい。二回も怒られてしまったから、黙っていようと思ったんだけど、今回ばかりは悪手だったみたいだ。目の前の女はどうしてか、額に青筋を浮かべて、こちらを見てくる。何をそんなに怒ってんだ?


「もしかしてデートの邪魔しちゃったことに怒ってんの?」


 怒ってんのはそっちだろ。


「でもね、アタシは親切心で言ってあげてんのよ。この女はあんたの思っているような女じゃない。この女はね」

「やめて!」

「っ!……へぇ、口答えすんだ」

「多分口答えではないと思うぞ」

「やめて、お願いだから」

「そんな事言うんだ?」

「……」


 とうとう、俺はいないものとして扱われてしまった。しかし、先程から聞いていると、どうにも美緑の立場が弱いような気がする。どう考えても昔何かあったのだろう。だけどそれ、今関係あるか?

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