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デートは修羅場のはじまり その五

 交互に俺と美緑の顔を見比べる店員さん。恐らく俺であることは確信しているのだろう。彼女がこんなにも混乱している一番の理由は俺と一緒にいる美緑だ。どうして数時間前と違う女を連れているのか、どうしてあんなことがあった当日にまた来れるのか、彼女の頭の中はその疑問でいっぱいだろう。しかし、美緑からしたら彼女は、ただのおかしな挙動をする店員さんでしかない。


「あの人、大丈夫なんですかね?」


 本人に聞こえないように配慮して、俺の方に顔を寄せ、小声で話しかけてくる。その予想外の顔の近さに一瞬ドキッとするも、今の状況を思い出して別のドキドキが胸の中を支配する。


「まあ人間誰でもそういうことはある。彼女だってそういうお年頃なんだろう」

「なるほど、確かに雄二さんもああいう時よくありますもんね」


 俺のフォローにより、美緑は店員さんを優しく生温かい目で見つめる。落ち着くまで待つようだ。俺は彼女がなにか変なことを口走らないか心配で仕方がない。

 しかし、彼女もプロだ。


「二名様でよろしかったですか?」

「はい」

「ではこちらの席へどうぞ」


 何も言わずに自分のやるべき仕事を再開する。


「ご注文お決まりになりましたらお声がけください」


 失礼します、と言って最低限の仕事をこなした。俺の方を何か言いたげな瞳で見つめてきたが、関わることすらしたくないのだろうか、一切声はかけてこず、俺たちのもとから去っていった。


「ふぅ、危ないところだったぜ」

「一体何があったんですか……そんなことより、これとかすごくおいしそうじゃないですか?」


 美緑がメニュー表を指さしながらこちらへ見せてくる。午前中にもここへ来たはずなのに俺はメニュー表というものを初めて見た。


「こんなものがあったのか……」

「ですよね!こんなパンケーキ見たことないですよ!」


 俺はメニュー表の話をしているんだが。

 それでもすごく楽しそうな美緑を見ていると、こっちまで嬉しくなる。俺は何を心配していたんだ。店員さんだって客とそんなに深くかかわろうとしないだろう。午前ははふざけてしまったが、もう目も覚めてきたし、今回はきちんと普通にパンケーキを頼もう。


「雄二さんどうします?」

「えっと、俺は……」


 その時だった。大きな皿を持って香ばしい匂いを漂わせながら、例の店員さんが近づいてくる。そのまま店員さんは俺たちの机で立ち止まり、


「お待たせしましたー」

「え、私たちまだ何も頼んでないですよ?」


 その皿の上に乗っているものを見た瞬間俺は目を見開いた。


「それは……!」

「トマトスパゲッティです」

「え、ここパンケーキ専門店じゃないんですか?ていうか、私たちまだ注文してないです」

「いえ、そちらのお客様が頼まれましたよ」

「え?」


 店員さんの指差す方、つまり俺の方へと目を向ける。


「どういうことなんですか?」


 単純な疑問なんだろう。その瞳はこちらを問い詰めるような色は一切していない。しかし、どういうことなのかは俺にも分からない。どういうつもりなのか、それを確かめるべく店員さんの方へ目を向けると、


「なんかめっちゃ目泳いでるううう!」


 この店員さんどしちゃったんだ!?展開についていけなくて、テンパっちゃってるのか?だからと言って先程まではメニューにないと断られていたトマトスパゲッティがどうして出てくるんだ?分からない、分からない。


「雄二さん?」


 俺と店員さんは二人で動揺している。この中でただ一人美緑だけが落ち着いている。


「えっと、このトマトスパゲッティは……」



 そうだ、まずはそれを誤魔化さないといけない。店員さんがどういうつもりで出したかは分からないが、俺が頼んだということになってしまっている。


「えっと、これは」

「そ、そちらのお客様がご注文なされました!」

「そうなんですか?でもメニューにないですよね」


 どうしてお前はそんなに元気なの!?


「えっと、あれだ、う、裏メニューだよそれは!」

「そ、そんなものが……」

「そうなのです!裏メニューなのです!」


 なんだなんだ?この店員さんは俺の味方なのか?敵なのか?


「へー!そんなものがあるんですね!でも、いつそんなの頼んだんですか?」

「それは……」

「四時間ほど前ですね!」

「よ、よじかん……?」


 お前やってくれたなあああ!?


「ち、違うんだよ」

「それは分かりますけど、四時間ってこの店員さん変わった人なんですね……」


 店員さんに向けるその目は、まさに俺が道行く人に向けられているものと同じものだった。


「四時間前は店から追い出してしまって申し訳ありませんでした!」

「はは、何を言っているんだか……」

「お客様に対して大変失礼なことをしたと反省しております!メニューにないものを頼んだり、私のことを煽ってきたり、少しだけストレスを感じてしまいました!」

「まだ言ってるよ」


 俺が笑いながら前を向くと、ジトっとした目でこちらを見てくる美緑と目が合った。


「本当に来てないんですよね?」

「ほ、本当だよ?」

「なんだか店員さんの話している内容が妙に具体的だし、なにより雄二さんのやりそうなことなんですよね」

「気のせいだろ」

「そうですか……」


 意外にもしつこく追及してくるので無理やり話を終わらせにかかる。どうしてこう、勘がいいんだ。


「そんなことより食べようぜ!スパゲッティが冷めちまう」

「私、パンケーキ食べに来たんですけど……」

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