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デートは修羅場のはじまり その四

「いつもいつも、全く……」


 いつもよりテンション高めで怒った様子の美緑だが、俺は先程から気になっていることがある。


「待ち合わせ時間って十五時だったよな?」

「そうですけど?」

「まだ三十分前なのにお前早いんだな」

「なっ……」

「そういえば、いつも俺より早く来てたけどこんな早く来てたのか?」

「えっと、それは」


 先程までテンション高く俺に怒鳴り散らしていたのに、今は狩られた後のウサギのように静かだ。


「それ、死んでるじゃないですか……」

「地の分にツッコミを入れるのやめてほしいんだけど」

「あー!そうですよ!いつもいつも楽しみで集合よりも三十分も早く着いてしまうんですぅ!今日だって、先に先輩がいたのもすごく嬉しくて少しテンション高くなっちゃったんですよっ!悪いですか!?」

「恥ずかしいからもう少し声抑え目で頼む」


 開き直ったのか、聞いてもないことをペラペラと大声で暴露し始める。推理途中で自供し始める犯人のごとく。


「はぁはぁ」

「そんなんで息切れすんなよ、運動不足なんじゃないのか?」

「今の私の発言を聞いて最初に出てくる言葉がそれですか」

「残念、最初に出てきた言葉は『はずかしい』でした」

「子供ですか!?この人は!」


 誤魔化してはいるが、内心は口元がゆるゆるになってしまわないよう取り繕うので精一杯だ。相変わらず可愛い奴だな、こいつは。

 美緑は一人だけ恥ずかしそうに俺とは反対方向を向く。


「そんなに恥ずかしいならあんな叫ばなくてもいいのに」

「あ、いえ、そういうわけではなくて」

「?なんだよ」


 よくわからず首を傾げていると、後ろからさっきの少年の声が聞こえた。



「あ、アシナガマンだ!」

「アシナガマン?」

「そうだよ」


 どうやら友達といるらしい。俺のサインをもらったこと、自慢してもいいんだぞ?


「脚が長いだけのヒーローなんだって」

「え、全然長くないじゃん。僕のお兄ちゃんの方が絶対長いよ」

「そうだよねー。さっきサインもらったんだけど、鼻くそ取るために使っちゃったよ」

「…………」

「……私、知り合いだと思われたくないので」


 あいつ、家に持ち帰るまでもなく捨てやがった……!しかし、仮にも俺は正義のヒーロー。こんなところで癇癪を起すほどガキじゃないんだ。


「お母さんが言ってたんだけどね、ああいう人は中二病っていう病気なんだって」

「可哀そうな人なんだ……」

「お前らいい加減にしやがれー!」

「うわ、アシナガマンが襲ってきたぞ!」

「逃げろー!」

「ちょ、やめてくださいよ!子供相手に大人気ないです!しかも、全部事実じゃないですか!」


 美緑の必死の止めにより、ガキどもは逃げることに成功した。


「次会ったらタダじゃおかねぇ」

「どこまで子供なんですか……」


 いつの間にか、先程の気まずかった空気はなくなり、いつものように会話をすることができている。結果的にはよかったのかもしれない。


「じゃ、気を取り直してデートの続きでもするか」

「はい!」


 先程までの怒りはどこへやら、満面の笑みを浮かべて了承をする。


「私、今日行きたいところがあって」

「そんなこと言ってたな」


 行き先は聞いていないが、美緑には行きたいところがあり、そこが今日のデート地だ。


「どこなんだ?」

「ふっふっふ、ついてきたら分かりますよ」

「なんか偉そうだな……」

「いつもの雄二さんの真似してみたんですけど」


 マジか、俺っていつもこんなに偉そうな喋り方してんのかよ。大分イタイ奴だな。

 しばらく談笑しながら歩いていると、何やら見覚えのある景色な気がする。少しだけ嫌な予感を覚えながらも、そのまま歩いていくと、


「ここです!」

「おお……」

「雄二さんは知らないかもしれないですけど、ここは」

「パンケーキ……」

「あれ?知ってたんですか?」

「あはは、まあ、たまたま、ね」


 そこは、俺が数時間前に訪れたパンケーキ屋さん。そして、何も口にすることなく店を出た場所だ。


「それじゃ、早速行きましょう!」

「あ、ちょっと待って」

「どうしたんですか?あ、もしかしてパンケーキ嫌いでした?」

「いや、そういうわけじゃないだけど……」


 むしろ大好物だし、朝食べられなかっただけに、めちゃくちゃ食いたいんだけど!

 俺ってここ、出禁じゃない、よね?


「ここすごく有名なんですよ」

「うん、知ってる」


 さっき聞いたからな。そう語る美緑は期待に目をキラキラと輝かせている。こいつが、こんなにもパンケーキが好きだったとは驚きだ。


「じゃあ、いいじゃないですか。行きましょう!」

「ちょ」


 いつもと違いかなり強引に俺の腕を引っ張り中へ入ろうとする美緑。そんなにパンケーキ食べたいかよっ!

 俺の抵抗も虚しく、店内へとその足は進んでいく。そして、最悪の偶然はまだ続く。


「いらっしゃいま……せ?」


 不幸にも、出迎えてくれた店員さんは午前中俺たちの対応をしてくれたその人だった。

 彼女は俺の顔を見て、美緑の方を向き、そしてもう一度俺の顔を見る。

 その顔はどういうことだと混乱している様子だった。


 そら、そうなるわな!

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