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デートは修羅場のはじまり その三

「なんだかこの映画、ものすごく」

「ああ」

「「つまらなかったな(ね)」」


 俺たちは映画を見終わった後二人して微妙な顔をして出てきた。その原因は謎のポップコーンの味や店員などではなく、その映画の内容だった。

 あまりにもクソ映画だったこともあり、直前に会った恐怖体験などすっかり忘れて溜息を吐く。


「期待していただけに何とも残念だ」

「本当そうだよね」

「ああ、でも王子がヤギを助けに行くシーンだけはよかったな」

「確かに!最低な王子が唯一かっこよく見えたシーンだったよ」

「……それなぁ!」


 最低という言葉が自分に向けられている気がして反応が若干遅れてしまった。


「急に大声出してどうしたの?あ、ごめん。いつものことだよね」

「その納得のされ方は誠に不本意なんだが」


 俺はこいつの中で急に大声を出すキャラになっているのだろうか。だとしたら、そんな奴が彼氏でいいのか。


「あ、もうそろそろ時間だ」

「もうそんな時間か」


 俺たちが約束をしていた時間は朝の十時から十四時までの四時間。元々朱音にも予定があったらしく、その時間ですんなりと決まった。一時間待てば、俺はもう一人の彼女とデートをすることになる。なんとも完璧なスケジュールだ。


「私もうそろそろ行くね!バイバイ!」


 本当に時間がなかったのか、こちらを振り向きながら勢いよく走り去っていく。そんなギリギリだったのかよ。

 これから一時間も待たなくてはいけないのか。


「……この時間無駄じゃね?」


 早速自分の立てたスケジュールが完璧ではないことに気が付いた俺は、気を落としながらも、一足早く集合場所に向かう。

 一時間を一足というのかは分からないが、俺様の一歩はデカいのだ。なんたって俺は足が長いからな!


「あはははは!」


 自分の足の長さに浮かれていると、周りの人間はどんどん俺から離れて行く。ははっ、歩きやすくなったぜ。なんか、最近避けられることが増えてきた気がするな。


「とーちゃーっく!」


 集合場所へたどり着いた俺は、元気よく到着の知らせを告げると、周りの人間は一段と俺と距離を置くようになった。なんだ?俺の路上ライブでも聞きたいのか?

 仕方ねぇな、ちょこっとだけだぞ。


「おーれーは!脚ナッガマーン!」


 人々が俺から距離をとる中、一人の少年が前へ躍り出た。

 あの時のバッティングセンターと言い、俺はガキに好かれる性質でも持っているのかもしれない。その少年は、目をキラキラさせながら、近づいてくる。


「サインでも欲しいのか?」

「え、いいの!」


 え、本当にサイン欲しいの?

 より一層目をキラキラさせている様を見ると、今更そんなものはありませんとか言えないんだけど。まあテキトーでいっか。


「よし、じゃあその帽子に書いてやろう」

「あ、この帽子はちょっと」

「そうか、じゃあその靴に」

「靴もダメ!」

「えっと、服」

「絶対にダメ!」

「じゃあどこならいいんだよ」


 思った以上に注文の多い少年は少しだけ悩んだ挙句、ポケットティッシュを渡してきた。しかも中身だ。つまりティッシュ一枚だ。

 しかし、サインを頼まれた以上書いてやらねばならんだろう。それが大人というものだ。


「ほれ」

「ありがとう!」


 感謝の言葉と共に俺のサイン付きティッシュを受け取る少年。


「ところでお兄さんはどういうヒーローなの?」

「脚が長い」

「それだけ?」

「それだけだ」

「ふーん」


 興味なさそうな返事をしつつ、受け取ったティッシュをぐしゃっとポケットにしまう少年。お前それ、絶対ズボンと一緒に洗濯するだろ。


「バイバイ」


 俺に手を振り別れを告げる少年。そこには、初めのようなキラキラした目はもうなく、ただ、無駄な時間を消費してしまったと言わんばかりの無表情があった。

 子供って、大人以上にシビアなんだな。

 仕方ない、さっきの続きをやるか。


「おーれは!」

「一体何をしているんですか……」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには待ち合わせ相手の俺の彼女、八田美緑がいた。


「周りの人ドン引きですよ?何を考えているんですか?知り合いだと思われたくなくて一瞬声かけるか迷っちゃったんですけど」


 怒涛の畳みかけにより、俺の脳みそは処理落ちした。


「おーれは!脚ナッガマーン!」

「わわわ、どうして続けるんですか!恥ずかしいからやめてくださいよ!」


 強制的に中断させられた俺は、美緑とともにフードコートへと移動した。どうやら、周りからの視線がかなり痛かったようだ。


「私が来なかったらずっとやっていたつもりですか?」

「うん」

「まったくこの人は……」


 頭を抱える美緑と、それを眺める俺。いつもの光景だ。


「いつもどうしてそんな周りをドン引きさせるようなことをしているんですか?頭おかしいんですか?」

「多少は、な」

「どうしてかっこつけているんですか?カッコいいとでも思っているんですか?少しでもカッコいいと思っているんだったらかなり異常ですよ」

「なんか今日アタリ強くない?」


 いつもより少しだけ辛口の美緑が、二人目の相手だ。

 こうして、日曜デート第二幕が始まった。

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