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デートは修羅場のはじまり その一

 今日は日曜日。例のデート当日。今日は結構なハードスケジュールだが、これを乗り切れば明日から二日間は完全にフリーの日だ。気合い入れていくぞ!


「っしゃおらあああ!!」

「な、なに?」

「離れよう、危ない人だよ……」


 あまりの気持ちの入れ方に、声が漏れ出てしまったようだ。現在待ち合わせ中の俺は一人だ。そんな男が急に叫びだしたら、それは怖いだろう。だがな。


「俺は危なくねぇ!」

「ひぃっ」


 俺を危ない認定してくれやがった男に向かって吠えると、そいつは尻尾を巻いて逃げだした。ふっ、造作もないことよ。


「一体、なにしてるの?」


 振り返ると、最近ではすっかり見慣れてしまった女。高畑朱音がそこにいた。毎週会っているからそこまで新鮮味はないが、それでも嬉しく感じてしまう。それは相手が彼女だからだろう。うん、俺の彼女。まあ、三人いるけどね!


「俺のことをバカにしやがった奴らに喧嘩を売っていただけだ」

「そんな人たちがいたの?許せない。文句言ってくる」

「待て待て待て、もう追い払ったから大丈夫だ」

「流石だね!」


 どの辺が流石なんだ。俺はその辺の人間に喧嘩をすぐに売るような男だとでも思われているのだろうか。

 こうやって、三人とデートを重ねていると、それぞれで個性が見えてくる。今の反応一つをとっても、おそらく美緑や紫帆さんでは全く違った返しをしてきただろう。それで言うと、朱音は大分頭のおかしな奴だということが分かる。騒がしい従妹を思い浮かべながら朱音の顔を見る。若干似てるな。顔とかじゃなくて性格が。


「ねぇ、今他の女の子の事考えてた?」

「俺の頭はいつでもお前一色だよ」

「もう、ヤダっ……」



 たったそれだけで頬を赤らめ、今の会話を終わらせる。ふっチョロいな。


「今日は時間もあんまりないし、早く行こ!」


 俺の手を取り、速く速くと急かしてくる。今日のスケジュールは大雑把に分けると、朝昼、昼夕、夕夜で分かれている。

 今は朝。今日の行動範囲は、最近出来た大きな複合施設。ここにはいろんな店が入っているので、一日いても待ってく困らない。今日一日ここで過ごすつもりだ。そして今から向かうのは、朱音が食べたいパンケーキがあるとかで、その店。


「あ、あれじゃない?」

「なんじゃありゃ……」


 店構えがものすごい。ファンシーというか、もう、俺一人だったら絶対に入れないような、すごい。うん、すごいんだ。

 実際、客はほとんどが女子で、ちょこちょこ俺たちのようなカップルがいるくらいだ。その彼氏さん達も皆、居心地悪そうに顔が強張っている。その気持ち、大いにわかる。

 しかし、俺は朱音の彼氏だ。あんな情けない面を晒して溜まるか。今日はデートなんだ。一生懸命彼女を楽しませるのが彼氏の役目だろうが!


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 席へ案内されると、そのまま案内してくれた店員さんが声をかけてくれる。


「あ、トマトスパゲッティで」

「ありません」

「ないの!?」

「ありません」


 店員さんはその笑顔を崩さずノータイムで答えた。これがプロというものか。


「もう、雄二君ったら。ここはそういうお店じゃないよ」


 おかしそうに笑う朱音はもちろん可愛いが、それでも俺のことをバカにしたことだけは許さねぇ。


「じゃあ朱音は分かるのかよ。正解が」

「ふふん、もちろんわかるよ」


 得意げに鼻を鳴らし、自信満々だ。


「たこ焼きで!」

「ありません」

「それはトマトスパゲッティよりねぇだろ」

「あれ!?どうして!パンケーキと同じ粉ものじゃん!」

「パンケーキって正解分かってんのにどうしてたこ焼きに行ったんだよアホなのか?アホなんだろ」

「ムキー!私はアホじゃないもん!雄二君より頭いいし」


 確かに、こいつの通う大学は俺よりもはるかに賢い大学だ。


「すまんかった。確かに俺の方がアホだ」

「あ……私の方こそごめん。私の方がアホだよ……」


 申し訳なさそうな顔をする朱音。


「そうだお前はアホだ!あーほあーほ」

「ムッキー!今の一瞬の反省を返してほしいよ!」

「ごめん、言い過ぎた。やはりアホは俺の方だったよ」

「あ、私の方こそ……」

「でもお前もアホだ」

「そうだね、私もアホだね!これでお揃いだ!」


 朗らかに笑う朱音。やはり朱音には笑顔が一番似合う。


「あの、早く決めてもらってもいいですか?」


 心なしか、店員さんの笑顔がさっきよりも細い気がする。


「店員さん、痩せました?」

「この一瞬で痩せるわけないでしょ!あなた達に呆れていたんですよ!」

「おい、朱音呆れられてるぞ」

「えぇー雄二君だよー」


 そして俺たちがまたいちゃつき始めると、店員さんが笑顔を崩し始めて。


「あと五秒で決めてもらわないと出て行ってもらいますよ」

「や、やばいよ雄二君!早く決めないと!」

「ふっ……朱音もまだまだ甘いな。たかが一バイトにそんな権限あると思うのか?」

「た、確かに!流石雄二君だね!」


 焦る朱音に俺がドヤ顔で解説をしてやると、尊敬の眼差しで俺のことを見る。


「店長ー!こちらのお客様おかえりでーす!」

「「え……?」」


 奥から出てきたのはおおよそ堅気の仕事をしているような顔には見えないお兄さんで、俺たちは丁重に席を立ちその場を後にした。まあ、店のマナーはきちんと守らないとね。

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