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デートは作業

「はぁぁぁああ」


 ソファにドカッと座り、大きな、それはそれは大きな溜息を吐く。


「どうしたのさ、そんなにも大きな、それはそれは大きな溜息なんかついて」


 そのわざとらしい溜息に健三はきちんと反応してくれた。かたや、親父は趣味のプラモデル作業に没頭中だ。典型的なダメ親父を目にしている気分だ。


「聞いてくれよけんぞ~」

「はいはい、分かったから。兄ちゃんにそんな甘い声出されてもキモいだけだから」


 優しくしているように見えてかなり辛辣じゃないか弟よ。


 あれから、数日が過ぎた。紫帆さんが散乱させた台所も、俺と健三、そして親父にも手伝わせ何とか事なきを得た。お婆ちゃんにも伝わっていたはずだが何も言われなかったところを見ると、結構気に入られているらしい。


 だから、俺を今悩ませている原因は別にある。


「最近の俺休む暇ないんだよ~」

「ああ、確かに。デートとバイトばっかしてるよね」


 そうなのだ。俺は今週四でバイトをし、週三でデートをしている。それもそのデートは全員別人だし、そうなると金もなくなるからバイトはしないといけないし、自分の時間を作れないでいる。ペース的に週一のデートを休もうと試みたこともあるが、


「何か予定でもあるの?」

「週一でも少ないくらいなのに……」

「あれだけバイトしてますし、お金がないわけではないんですよね?」


 と、俺を休ませてくれる様子はない。


「贅沢な悩みなんじゃないの?世の中にはしたくてもデートできない人たちなんていっぱいいるわけだし」

「毎日違う女の子だぞ」

「はは、クズ男だね」

「お前が言うのか?」


 最初こそ申し訳なさそうにしていた二人だが、今となっては他人事だと思って楽しんでやがる。今も、スマホ片手に話半分に聞いている様子だし。


「親父は何か言うことはないのか」

「お前相変わらずクズ男やってるのか?」


 そのあまりの発言に俺は無言で近づいていき、目の前でプラモの箱ごとゴミ箱に捨ててやった。


「バカ野郎!切り分けた後の細かいパーツとか入ってたんだぞ!」

「細かいこと気にすんなよ」

「え、俺の息子ってこんなサイコパスだっけ?」


 おかしい、俺は笑顔で言ったはずなのにどうして恐れられているんだ、実の父親に。


「ちょっとお前のことが心配になってきた。きちんと周りとうまくやっていけているのか?なあ、悩みでもあるなら父さん聞くぞ?」

「さっきから言ってんだけど」

「ごめん、聞いてなかった」

「……」


 相手にしていられないので、元の位置に戻り健三に相談する。


「どーしよ」

「あれ、無視?無視するの?悲しいよ。これって親子の形として正しいのかな?」


 なんだか可哀そうになってきたので、すかしっぺを手渡してあげた。


「わーい、おならだー」

「どういてしまして」

「っているか!んなもん!そしてお前臭過ぎだろ!何喰ったんだよ!くっせ!」

「ちょ、こっち来んなよ!匂いが移る」

「元々お前のだよ!」


 どうしてこうなったんだ。健三は我関せずで、一切こちらに目を向けない。お前は家族にもう少し興味を持て。

 親父は疲れ切った様子でトイレへ向かった。どうやら、もらい便をしたらしい。途中から匂いが露骨になったし、顔もすごいことになっていた。しかし、それを悟られていないと思っているのがなんとも滑稽だ。我が父親ながら可哀そうだ。次からはもう少し優しくしよう。


 改めて、健三に悩みを相談し直す。


「どーしよう健三」

「三人一緒にデートすればいいじゃない」

「お前はバカなのか?」


 親が親なら子も子だ。まともな回答を期待した俺が馬鹿だった。三人一緒にデートなんてしたら修羅場以外の何物でも……いや、意外とありか?


「お前、やっぱ頭いいな」

「え、本気で言ってる?」

「ああ、三日に分けてやっていたことを朝、昼、晩の三つに分ければ一日で消化できる!」

「デートを作業化している時点でかなり最低だよね」

「そうすれば二日分も猶予ができるぞ!」

「それにそれってかなりリスキーなんじゃ」

「そんなの、きちんと時間にゆとりをもって計画を立てれば問題ないさ。ふははっ、俺は天才かもしれない」

「僕はどうなっても知らないからね?」


 よし、そうと決まれば早速予定を立てるぞー!


 それから、次の週の日曜日にデートへ行くことが決まった。それぞれの終了時刻と待ち合わせ時刻には一時間のゆとりを持っている。それぞれが知り合いでもないため、近くですれ違っても何も分からないだろう。


 一応保険も用意してある。どこから情報が洩れるか分からないので、それぞれに口封じをしてある。秘密にしておくと長続きするんだ。お前とは長く一緒にいたい。とか言ったら顔を真っ赤にして受け入れてくれた。


「やっぱり兄ちゃんって最低最悪の男だよね」


 例えばどこかで何かしらがあってもこれで大丈夫だ。うん、大丈夫だよね?


 しかし、この時の俺は知らなかった。この時の浅はかな俺の考えで訪れる修羅場を。念のためかけておいた保険が早速仕事をしてくれるということを。すぐに後悔することになる。


 そして、来る運命の日曜日。

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