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婆ちゃん家(父)その三

「雄二君、お母さん帰ってきたわよ」


 しばし、二人で談笑していると、梨乃さんの呼ぶ声とともに襖が開く。


「!こんにちは、岩塚紫帆です」

「あら、叔母の伏見梨乃よ、よろしくね。お母さん帰ってきたから準備できたらおいで」


 それだけ伝えると部屋を出て行こうとしたが、その直前に俺の耳元で


「綺麗な子じゃない」


 と呟かれてドキドキしてしまったのは致し方ないだろう。


「じゃあ行きますか、お婆ちゃんも待ってるだろうし」


 元をたどれば、この人だ。この人がひ孫を見たいとか言い出したから俺は今こんなにも大変な状況に陥っているのだ。少しくらい文句を言っても怒られないだろう。


 おそらくいるであろう少し広めの部屋に入る前、少し深呼吸をする。よし。


「おい、クソババア!」


 入った瞬間に飛んできた拳を交わすことはかなわずもろに食らってしまう。


「死ぬかい?」

「すびばせんでしたぁ!」


 どうしてこの人分かるんだよ。親父が恐れるのも分かる。この人からは年齢に似合わないその身体能力と筋肉で、教育という名の体罰を受けていたものだ。そして、俺がそれを周りに報告すると皆口をそろえてこう言うのだ。


「ははっ、あんなお婆さんにそんなことできるわけないだろ?」


 俺がそれで何回殺されかけたと思っているんだ。ということで、この家においてお婆ちゃんの言うことは絶対。彼女を作れと言われたら作るしかないのだ。


「で、そっちのが?」

「は、はい!岩塚紫帆です!雄二君の彼女を務めさせていただいております!」


 俺へのパンチを見た後だからだろう。かなりビビった様子で、背筋がピンと伸びたまま固まっている。先程ほぐれたはずの緊張がまたぶり返してきたようだ。

 それに対してお婆ちゃんは紫帆さんを少し観察するように見て、


「岩塚?」


 何か引っかかるところでもあるのか、眉をピクリと動かした。それを見た紫帆さんはさらに身をこわばらせる。


「まあ、そんなに緊張しなさんな」

「いや無理だろ」

「あ?」

「ひぃっ!」


 だが、俺はここで引くわけにはいかない。彼女を守るためにも!


「ほら、紫帆さん、緊張なんて今すぐ解きなさい!」

「ええ……」

「あんたは……ったく」


 梨乃さんからは呆れられ、お婆ちゃんに関してはなぜか頭を抱えだす始末。今頃気が付いたが、健三と親父の姿が見えない。あいつら逃げたな。


「とりあえず、あんたは出てきな」

「え?」

「出てけって言ってんだよ」

「はいぃーっ!」


 やっほーい!これであのババアの呪縛から解放されるぜ!悪いな紫帆さん俺はお先に失礼するぜ!


「え、あの」


 しかし、紫帆さんは俺には行ってほしくなさそうに目で訴えかけてくる。

 栄雄二、いいのか。彼女があんな目で俺のことを見ているんだ。助けなくていいのか?いや、いいわけないだろ!俺が、俺が守るんだ!


「早くしな」

「あばよ!紫帆さん、頑張れよ!」

「えぇ……」


 少しかわいそうだが、ここの家はお婆ちゃん絶対。心が痛いが、この方針に逆らうことはできないんだ……。


 よっしゃぁ!遊ぶぞー!


 家中探しても、親父と健三はいなかったので、仕方なく外へ出ることにした。

 昔少し遊んだ記憶はあるが、あまり憶えていない。とりあえず……縦横無尽に走りまくる!


「ここ、どこだ?」


 結果、見たこともないような場所にたどり着いてしまった。

 早く家から出た過ぎてスマホも置いて来てしまったし、これどうやって帰ろう。財布を持ってきただけ偉いと思う。うん、俺偉い。


「お?」


 それほど遠くない場所から甲高い音が鳴り響く。その音のする方へ歩いてくと、そこにはバッティングセンターがあった。


「神は俺に打てと言っているんだな?ふっ、その挑戦受けて立とうじゃないか!」

「お母さーん。あの人何言ってるの?」

「ふふ、そういうお年頃なのよ」


 おい、ガキになんつう説明してやがる。せめて、見ちゃダメよ!とかの方がよかったわ。

 中へ入ると、何人かいたが、それほど混んでいるということもない。空いている打席を見つけ、そこを陣取る。ここはもう俺のテリトリーだ。どこからでもかかってこい!

 バットをそれっぽく構える。俺は今誰がどう見てもデキる男だ。

 しかし、待てども待てども球は出てこない。


「お兄ちゃん、何してるの?」

「見りゃ分かるだろ、バッティング練習だよ」


 最近のガキはそんなことも分からないのか?先程のガキが俺の後ろからぽけーッと見てくる。


「にしても、ぶっ壊れてんのか?全然来ねぇじゃねぇか」

「コイン入れないと出ないよ?」

「……何見てやがる」

「あれにお金入れるとコイン出てくるよ」


 ガキの指をさした方にはゲーセンにある両替機のようなものがあった。何でも教えてくれるなコイツ。もしかしてチュートリアル用のNPCか?


「礼は言わねぇぜ?」

「どういたしまして!」


 日本語が通じないだと!?本格的にコンピュータ説が出てきたな。しかし、その純粋無垢な目には俺の姿がどう映っているのだろうか。

 言われた通りコインを買い、また打席に立つと、後ろから声が聞こえてくる。


「お兄ちゃん頑張れー」


 まだいやがったのか、あいつ。いつまで見てやがる気だ。ふん、ならしっかりとその目に焼き付けておくことだな。俺の勇姿を。


「あ、球来たよ!」

「っしゃおらあああ!!」


 そして、俺は勢いよくバッタを引き、そのまま思いっきり振りぬいた。そして、盛大な空振りをした。

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