wonderling roses
夕方になって、お母さんが帰って来たので
夕ごはん。
「さあ、お召し上がりになって」と
祥子ちゃん。
エプロン姿も可愛い。
調理実習みたい。
お母さんも「お手伝い、感心ね」と
笑顔。
孝くんは、何かいいたそうだったけど
昼間の事があったから、黙ってにこにこ。
陽子さんは、ちょっと微妙な表情。
「お寿司だ」と、僕。
「わたしが握ったの」と、陽子さん。
祥子ちゃんは「海苔巻きは、私が」
と。
鮪、こはだ、いか。
平目、玉子。
「母方は寿司屋さんです、僕も
跡継ぎに、と誘われて」と言うと
「お口に合うかしら」と。
陽子さんはお淑やか。
お刺身、お澄まし。
山菜の煮物。
生野菜のサラダ。
「サラダ、私が。ドレッシングから」と、祥子ちゃん。
「思い出します。調理実習で
僕もつくったな」と、
微笑みが。
「さあ、お召し上がりに」と
お母さん。
海苔巻きをひとつ。
「美味しいです。」と。僕が言うと
祥子ちゃんは笑顔に。
「じゃ、僕もいただきます」と
孝くんは、山盛りごはんとお刺身。
食べ盛りだなぁ、と
僕も微笑む。
「これも美味しいのよ」と
陽子さんは、グリルから
鮪のかま焼きを出し、ほぐして
分けようと。
「私、やる」と、
祥子ちゃんは、丁寧に菜箸で
骨を外してゆく。
「上手だなぁ、いい奥さんになれそうだね」と
僕が言うと、祥子ちゃんもニッコリ。
お母さんは、微笑みながら
祥子ちゃんの微妙な変化に気づいているようだった。
孝くんは元気に、もりもり食べている。
かま焼きを頬張って。
ごはんをぱくぱく。
「こはだの締め具合もいいですね」と。僕は微笑む。
握りの感じは、ちょっと優しいかな、と思ったけど
それは言わない。
「お寿司屋さんだって、知らなかった」と、陽子さん。
「そう言えば、太田裕美さんもそうなんです」と、僕。
なんとなく、陽子さんに似ている。
でも、ウチの母もそうだが(笑)。
ごはんを賑々しく頂いて。
お風呂に入って。
部屋で涼んでいると、陽子さんが
「入って'いい?」
「どうぞ」と
開いてる入口だからなあ、とも
思うけど。
ちょっと微妙な表情で
何の話か、なんとなく解る。
「祥子の事だけど」と。
「そうだと思った」と、僕は
軽く答えた。
「あの子、真っ直ぐだから。思い込むの。」と。陽子さん。
僕は頷く。
「お姉さん譲りだ」
陽子さんはちょっと微笑み
「まだ12歳だから。傷つけたくないと思うの。あなたが想い人で良かった。」
僕は、なんとなく微笑む。
「いいお姉さんだ」
何を言いたいか、だいたい解る。
「祥子がね、もうすこし大人になるまで、私達は、控えた方がいいと思うの。」
それは、なんとなく
陽子さん自身への自戒のようにも思える。
しあわせになりたいから、進学を
諦めると考えるような気持ちへの。
「良く解る。その方がいいと思う」
僕自身への自戒にも、なるのかな。
祥子ちゃんの気持ちが続いたら
どうしようかな、とも思うけど。
4年経てば、16歳。
充分かな。
「そうだね。」と、僕も微笑む。
12歳の気持ちが、そうそう続くとも
思えない。
「じゃ、そうしよう」と
僕が言うと
陽子さんは、ちょっと淋しそう。
「それでいいと思う?」
沈黙。
僕は
「淋しいけど、仕方ないよね。」
祥子ちゃんが落ち着くまでは。
そう思う。
「優しいお姉さんだね」
と、慰めた。
祥子ちゃんが気付くといけないから
抱きしめたいと思ったけど、控えた。