いいやつ、マトーくん
「どちらかを選べばいい、と、たぶん誰でも言うけど。
そんなに単純でもないよな。」と、マトー君は優しい。
稔くんにちょっと似ている。
「うん。どっちを選んでも、かわいそうな人が出てくるもの。
お姉さんの方は、都会に出てからあんまり手紙も来なくなったから
忘れてるんじゃないかな。」
マトーくんは「それでいいのか?」と。
真面目な奴だ。
髪はきれいにオール・バックで
メタルフレームの眼鏡。
やさしい顔立ち。
グラハム・ボネットみたいに。
僕は「いいって事もないけどさ。でも、お姉さんは大人だから。
そのうちに、立派な青年が現れて。」と。
「そういう人なのかな。」と、マトーくん。
僕は「わからないけどさ。僕みたいな貧乏人より
似たような人で、普通の青年だったら
そっちの方が無難だよ。
わざわざ苦労することないもの」と。
マトーくんは「・・・そうかもしれないな。」
夕陽が、マトーくんの眼鏡に映ってきれいだった。
僕は、少し落ち着いた。
マトーくんも、優しい。
僕の事を気遣ってくれる、友達。
みんな、いい奴だ。
僕らは、夕暮れの中を下校して。
マトー君の家の前で別れて。
僕は、バイトを休みにしちゃったけど
今からなら、6時は出られそうだから
休みを撤回しようかな、なんて思った。
マトーくんの家の裏は、バイク屋さんがあるから
そこの前を通ると・・・。
きれいな黄色いガソリン・タンク。
2気筒の集合マフラー。
ちょっとアップハンドルだけど、CB400Fに似ているデザイン。
CJ250Tだった。
「かっこいいなぁ」と、僕はちょっとそれを見ていて。
250なら車検もないし。
「CJでもいいかな」と、お店のおじさんに
「すみません、カタログありますか」と、言うと
お店のおじさんは、カブのパンクを直していて
返事しない。
カタログ掛けにあるホンダのカタログを手に取ると
おじさんは「ないよ」
「いつごろ来ますか?」と聞くと
「あれはな、うちらが買うんだよ!」と
大嘘(笑)
そんなこと高校生だって知ってるよ、といいたかったけど
まあ、いいか。
高校生だってバイク買うのになぁ(笑)
なんで意地悪するんだか。
ここの店では絶対買ってやんない(笑)と思って
自転車、ブリジストン・アスモに跨って、すいすいと走った。
スポーツ自転車のようにサドルを高くしているので
結構不思議に見えるスタイルだった。
その代わり、走るのは楽だった。
スピードを出して、家に帰って
かばんを置いて、着替えてすぐバイトに行った。
ちゃんこ鍋のお店は、歩いてすぐだから。
バイトに入っていいか分からないから、キッチンの入り口から顔を出して
「あのー、お休みにしちゃたけど、バイトしていいですか?」と言うと
板前のおじさんは、微笑んで「いいよ。」と。
あーよかった、と。
僕は別棟のロッカールーム・休憩所に行って
自分のロッカーから、仕事着を出して着替えた。
体操着の白い上と、父がはいていたニットの白いゴルフズボン。
それに、和服みたいな上着、帽子、エプロン。
よくあるバイトの皿洗いスタイル。
ロッカーの名札のところに
”C H I P S”
白バイ野郎 ノリ&タマ
なんて、僕が紙片に鉛筆で書いたのが
さしてあった。
「ノリちゃんと、いつか
白バイごっこできたらいいな」なんて思った (笑)
本物の白バイ警官になろうとはまあ、思わなかった。
そんな腕前もないし、大体750の免許もない。
それも、高校にいるうちに取ろうと、ノリちゃんも言っていたから
僕も行く気だった。
試験場に行って、まず倒れたバイクを起こし、スタンドを掛ける試験。
押して歩く試験。
事前審査と言われていた。
当時、暴走族が750ccに乗っているから、と言う理由で
400ccから上は、こういう免許試験で
取り難くしてあった。
だから、750ccに乗ってるのは誇れたんだけど
少し後、誰でも教習所で取れるようになった(笑)
それで、ステータスでもなんでもなくなった。




