怠惰①
20XX年、人々は楽を求めて世界を発展させ自分の本能に従って生きるようになった。そんな時代の中で一部の人間に何もない掌からお金を出現させたり、自らの意志で炎を操れたり、数多の人間を魅了させ操ったりと科学的に不可能な力に目覚めたものがいた。
現れた当初は、老若男女関係なく力の大きさに法則も分からなかったが人間の罪である7つの大罪のどれか一つに従って生きていたものに発現することが明らかになった。その力に目覚めた者を「悪徳(ディヤ―ブォル)」と呼んだ。そこから世界が混沌に陥るのは、早かった。大罪に従えば従うだけ強い力を得られるのだから。
しかし、欲求が蔓延る世界に調律をもたらすかためなのか「美徳」が現れた。美徳も悪徳と同じような力を使えた。そして、美徳による悪徳の「粛清」が起こり悪徳は数を減らし、平安の世へと戻った。そして今、美徳が支配する世界となった。
[怠惰]
「今の日本は、枢要徳の管理する善行あふれる世界になりました。とさ」
向かいの一人用のサイズのソファに座っていた黒髪に灰色のメッシュの入った短髪の高身長でガタイの良いイケメンの男が最後の一文だけを口に出し、パタンと本を閉じた。
「欲求は、人間の本能であり価値でもある。欲求を持たないものなどロボットと同じだ。
嶲よ。お前は、どう思う?」
「・・・どうでもいい
・・・それよりも15時35分にこの家に悪徳がくるよ」
「あと15分後か。隹は、俺の強さに見惚れているがよい」
「・・・おk」
二人用ソファに寝そべって天井のシミを見つめていた私は、のそのそと部屋の片隅に置いてあるハンモッグに移動する。そして、部屋全体が見える姿勢でハンモッグに横たわる。
私は、古鳥 隹 。このナルシストあふれるメッシュ男である名都葦 夐とともに暮らしている。
この日本でも過去、悪徳が蔓延り首都である東京は一気にスラム街と化した。しかし、美徳に平定され、東京は過去同様に戻りつつあるものもいまだのスラム街のような場所が残っている。そこで悪徳は美徳に隠れて過ごしている。この新宿もいまだスラム街と化したままである。そんなスラム街にあるマンションの3階の一室に私たちは住んでいる。
そして、なぜ悪徳が私たちのもとに来るのかというと
突如バァンと玄関が蹴られた音が聞こえた。
いつの間にかソファから立っていた夐は、玄関からこの部屋に入るための扉の前にて仁王立ちで瞳を閉じて立っている。
「ふむ、ここで構えておけばかっこよく待ち受けているように見えるよな!隹(`・ω・´)」
キラキラとした声色とドヤ顔で私に問いかけてくるが正直どうでもいいため無視する。夐は、無視されてもあまり気にしていないようだ。
すると扉が開きガタイの良いツーブロックの男が部屋に入ってきた。
閉じていた瞳を開いて敵を確認した夐が口を開く
「よく来たなわが城へ。堂々と入ってくるということは、男のほうが傲慢の悪徳か。まぁ、確認せずとも俺が最強だ。」
と満足気に行っていることから本人の中では、かっこいい登場が出来たらしい。
「その通り、俺が傲慢の悪徳だがそれは貴様も同じであろう。」
なぜ、傲慢の悪徳はこうも高圧的でガタイがいいのか。というか夐と相手の傲慢の悪徳は、性格が似ている。私からしたらどちらも煩わしい。ただでさえ一人でもウザいのに1+1=2どころではない。早くご退場いただけないだろうか。
そんなことを考えていたら夐が腕を振り上げながら相手に向かっていった。
ドゴォ―ンと大きな音をたて壁に相手が沈む。夐の高笑いとともに壊れた壁が崩れる音も聞こえる。
一応、私も力を発動しつつも、相手は一人なので傍観することにしよう。
「やってくれるな。流石、美徳の粛清に対抗して生き延びた悪徳は違うな。だがその力を手に入れ美徳を滅ぼしてやる」
殴られた男は、片腕をプラプラさせながら立ち会がり、今にも負けそう発言をしている。というよりも夐の今日のプレイスタイルは、脳筋らしい。
目の前では、夐に殴られながら男は、強化された腕で防御に徹している。決着がつくのも時間の問題だろう。
そんな中、私の脳裏に知らない女性が玄関側から部屋に入り夐の体に触れ、夐が倒れる姿が映りこむ。
私は、ため息を着きながらスウエットのズボンのポケットに入れているサバイバルナイフを取り出し、手にもつ。そして静かにハンモッグから降りると玄関に向かって走り出す。
急に走り出した私に気づいた相手の傲慢の悪徳が私に対して殴りにかかろうとするが夐に邪魔されているようだ。そして、隠れている女に向かってサバイバルナイフを投げる。
ストンと隠れている女の頬をかすって壁に刺さる。
「キャッ」
「春名 くそぉ」
「お前の相手は、俺だろうがよっ!」
女の声に男が反応して助けにいこうとするが夐に邪魔されている。夐の声色の限り少し不満が混じっている。あとでめんどうくさいことになりそうだ。
私は、彼女の意識がナイフに向いた瞬間に右手をグーにし彼女の喉を殴る。
「~~~~!」
彼女は、声にならない音を出し頭を下げる。その隙に斜め下45度の角度で首チョップを入れる。
バタンと彼女が倒れる。そして、私は意識がないことを確認してから彼女の服を脱がし始める。すると右脇腹にゴブリンの痣を発見する。
(やはり、彼女は、強欲の悪徳。あの未来で夐が倒れたのは意識を奪ったのかな)
彼女の上に乗りサバイバルナイフを片付けながら、夐と強欲の戦いを見守る。
すると夐が。男の頭をつかみ取り
「他の悪徳は、いないな。なら終わりにしようか。強化(睡魔)」
すると男は、前のめりになって倒れた。
夐は、男の右手の甲についているグリフォンの痣を見付けると夐の背後からグリフォンの幻影が現れ強欲の男を喰う。いつみてもあまりキレイなものではないなと思いつつも見つめる。
男を喰らいつくしたグリフォンは、
「ピィェェェェ」
と一声鳴くと夐の痣がある左足の甲に消えていった。相手のグリフォンが対抗出来なかったということは、悪徳になって日が浅かったのだろう。
この「吸収」という現象のおかげで悪徳が私たちのもとに訪れる理由の一つである。我々は同じ欲求の悪徳を吸収することで元の力が強化される場合と新たに力を手に入れることが出来る。
自分以外の同じ悪徳を喰らいつくしたとき悪魔が蘇るなど言われているが詳細は、明らかになっていない。ただ、悪徳はやるかやられるかの世界なので同じ悪徳に対して容赦がない。それに力が強くないと美徳にやられてしまう。
「隹。怪我はないか?ひとまずその女も貸せ。」
そう言われて頷きながら女の上から動くと、夐は先ほどと同じように力を使い確実に意識を奪い取った。そのまま先ほどのハンモックに戻った。
夐が暴れた部屋の片づけをしながら話しかけてくる。
「あの時は、助かった。未来では、どうなっていた?」
「・・みた。意識を奪う力だった。それで夐が倒れた。」
「なるほど。こいつは、あいつに渡しておくか。」
と言いながら、私の頭に撫でたあと掃除に戻る。
彼は、決してお礼を言わない。それは、傲慢の悪徳だからである。彼は、私が知る限りでは、3つの力を持っているが今回は、傲慢の悪徳の証である強化しか使っていなかった。彼の強化は、チート並みに強い。今回の敵のような傲慢の悪徳の強化であれば自分に対する強化のみが普通であるが、彼は、同胞をだいぶ喰らっている為、睡魔を強化させたよう現象に対しての強化や自分以外への強化が出来る。
弱弱しいのは、貴方らしくないと思いつつ考える。きっと圧倒的な差で勝ちたかったのだろうから己の強化だけを使っていたのだろう。だが、私に助けられたのが嫌なのだ。彼は、私を自分のものだと思っているから守るべき対象なのだろう。めんどうくさい。
「・・・今日のラスボス感あってかっこよかった。・・・それに圧倒的な差を相手に見せつけていたよ。」
「ほんとか!俺にかかればあんなの赤子をひねるようなものだ。これからも俺の後ろにいればよいぞ」
と高笑いをしながら掃除を続ける。機嫌が直ってよかった。私には、他人に攻撃する力を持たない。そのため彼の存在がなければここまで生き残れない。
「今回、怠惰はいなかったか。まぁ全体的に怠惰は少ないから仕方ないのか。それにしても玄関や壁が壊れてしまったな。ひとまず修理しておくか。居場所がばれてしまえば隹も怠惰ですごせないから引っ越すぞ。」
これに拒否権はないためいつも通りの言葉をはく。
「・・・おk」
私は、今日も惰性で生きる。
悪徳(ディヤ―ブォル)ファイル①
[怠惰]
名前 古鳥 隹
性別 女
年齢 19歳
身長 155㎝
体重 42㎏
力 透視(未来)・?????
容姿 腰まである黒髪を雑に一つに結んでいる。髪のせいで顔がよく見えない。
目は、一重でちょっとネコ目。不健康そうな体系でがりがりである。
痣の位置 うなじ
家族構成 両親(故)
表情筋が死んでおりほぼ変わらない。基本的にめんどうくさがりで考えていても口に出すことは少ない。実は、よく夐に対して「・・・おk」と言っているが了承の意味ではなく、「・・・お前にまかせた。夐」の略であったり「・・・お帰り、夐」などおから始まるときに言っていたりする。