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第1章 指瀬 この小説の主人公の|指瀬 総司《さしせ そうじ》のある日の行動。

第1章 指瀬 

この小説の主人公の指瀬 総司(さしせ そうじ)のある日の行動。


今日は指瀬 総司の40回目の誕生日だ。指瀬は独身で一人暮らしをしている。結婚を考えていた相手が過去にいたが、その相手と別れてからは結婚したいと思う相手はいない。なんとなく、今はまだ結婚しなくていいと思っているうちに40才になってしまった。結婚したくないわけでもないが、結婚のためにいろいろ努力するのは面倒くさいと思っている。面倒くさいというか照れくさい。若くないから努力しないと女性にもてないが今更女性にもてるためにいろいろ頑張るのは何か滑稽で恥ずかしい。最近では一生結婚しないかもしれないと思う。そう考えると寂しい気持ちもあるし、それでいいと思う気持ちもある。独身男性の40才というのはなかなか微妙な年頃なのだ。


指瀬は午前5時55分に目を覚ました。スマホのアラームは6時にセットしてあるが、最近はなぜかアラームより早く目を覚める。一人暮らしなので部屋には他に誰もいない。ベッドに腰掛けると枕元に置いたスマホを手に取った。アラームが鳴る前に解除して、メールとLINEをチェックする。昨日の夜に大学時代の友人の雨本 礼(あめもと れい)からメールが届いていた。週末に会う約束の確認メールだ。他はダイレクトメールが数件、返事が必要なものはない。

 ベッドから立ち上がるとカーテンを開けて、洗面台に向かった。顔を洗い、寝癖を整えて、ひげを剃る。最近は髪だけでなくひげにも白髪が混ざるようになってきた。鏡に映る顔は知らない間に40才の顔になっている。

 身支度を調えるとキッチンに向かって朝食の準備を始めた。コンビニで買ってきたサンドイッチとカップスープの簡単な朝食だがコーヒーだけは豆から挽くようにしている。ティファールの電動湯沸かし器でお湯を沸かしながら、冷蔵庫から豆を取り出して手動のミルで挽く。「コーヒーの香りを楽しむのならインスタントではなく、豆から挽かなくては。」というのが指瀬のポリシーなのだ。朝食をテーブルに運ぶとテレビのスイッチを入れる。朝の情報番組ではちょうど天気予報をしている。雨は降らないらしい。天気予報が終わって芸能ニュースが流れる頃に朝食を食べ終えた。キッチンに食器を運んで洗うと水切りに並べておく。

 洗面台で歯を磨き、服を着替える。以前は毎日アイロンをかけたシャツにネクタイをしていたが、今の職場では通勤時の服装は自由なのでポロシャツにジーンズで通っている。パジャマをランドリーボックスに放り込むついでに、洗面台のタオルも新しいものに交換して古いタオルをランドリーボックスに入れる。リュックの中を確認してスマホや財布など忘れ物がないかを確認する。先ほど洗った食器をペーパータオルで拭き取り食器棚に片付ける。

 準備が終わるとだいたい午前7時を少し回るくらいになっている。靴を履き、誰もいない部屋に小さく「いってきます。」と言って部屋を出た。


指瀬のマンションは大阪市の北東に位置し、淀川を渡る大きな橋の近くにある。20代の頃から10年以上住んでいる。駐車場がなく、大阪の中心部から離れているためか家賃は比較的安い。1DKで一人暮らしにはちょうどよいが家族で住むには狭い間取りだ。ほとんどが一人暮らしのようだが夫婦連れや子どものいる家族も住んでいる。もっともマンションの住民同士のつきあいはほとんどない。

指瀬は晴れたら自転車で通勤している。指瀬の職場は大阪と京都の中間にあるH市で、電車では地下鉄で1駅乗って、私鉄の京阪電車に乗り換える。乗換えの時間や電車を待つ時間を考えると自転車でも電車でもそれほど通勤に必要な時間は変わらない。それならば、混み合う電車よりも自転車で通う方が気持ちよい。

自転車で淀川の堤防を越え、河川敷に下りる。淀川は川幅も広いし、河川敷もかなり広く整備されている。林のようになっているところや公園もあり、朝早くから散歩を楽しんでいる人もいる。それでも車も通らず、信号もないので自転車で走るのは結構快適だ。

マンションの近くでは遠くに小さく見える観覧車のあたりを通り過ぎると職場も近い。河川敷を離れて、職場の近くのコンビニに寄る。コンビニで昼食用のパンとペットボトルの紅茶を買って職場に向かう。通勤時間は約1時間だ。


指瀬が自分のデスクに着くと同僚の中野 真(なかの まこと)が話しかけてきた。

「指瀬さん、今晩暇ですか?」

「何で?」

「今晩、はるかちゃんと大久保さんと上山田と飲みに行くんですけど、よかったら来ませんか。」

「うーん、今日はちょっとしたいことがあって。」

「はるかちゃんが指瀬さんにも来てほしいって言ってましたよ。」

「じゃあ、行けたら行くよ。」

「指瀬さん、それ多分来ないやつじゃないですか。」

木田(きだ) はるかと大久保 淳子(おおくぼ じゅんこ)は同じ職場のOLである。2人ともまだ20代だったはずだ。同年代の中野や後輩の上山田 琉斗(かみやまだ りゅうと)とは終業後によく一緒に飲みに行っているようだが40才の指瀬はなんとなく距離を置いている。

 指瀬が2回の転職を経て今の会社に入社したのが6年前、32才の中野と同期入社だ。指瀬が大学を卒業してすぐに入社したのは大手の電機メーカーだった。入社して10年間営業の部署で働いた。営業成績はよかったが給料は伸びなかった。不況のためボーナスカットをされ、経営が危ないらしいと言う噂もあったため転職した。2つめの会社は家庭用太陽光発電の会社だった。そこでも指瀬の営業成績はよかった。政策として太陽光発電の普及を目指していた時期でもあり会社の売り上げも伸び指瀬の給料もずいぶんと上がった。会社は何も問題なく発展しているように思えたが、6年前突然社長が会社の金を持って逃亡した。取引先や顧客への支払いはほとんど終了しており残された社員の給料および退職金などがなくなったくらいだったので刑事事件にはならなかったがその当時はずいぶんと大変だった。その後就職したのが今の会社だ。全体で20人くらいの会社で営業部門がなく指瀬も物流の管理を担当している。給料は前の仕事からは減ってしまったが、社内で成績を競い合う雰囲気もなく和気あいあいとしているのでわりと気に入っている。ただ、途中入社のため周囲の同僚たちと年齢が違うのがすこしやりにくい。

 

午前中の仕事が終わり、同僚達はランチに出かけていった。指瀬は自分のデスクに残り、通勤の途中で買ってきたパンを食べた。10分程度で食べ終わると指瀬はリュックからPS vitaを取り出した。ランチに出かけた同僚が帰ってくるまでの間、指瀬は一人でゲームをして過ごすことにしている。今日は昔流行したアクションRPGのリメイク版をする予定だ。

椅子に腰掛けてPS vitaの電源を入れようとしたときに声をかけられた。

「指瀬さん、今日も一人でご飯を食べているのですか?」

指瀬はあわてて、PS vitaをリュックに入れながら答える。40才になってゲームをしているところを見られるのは気恥ずかしい。

「あれ、はるかちゃん。今日はみんなと一緒にランチに出かけたんじゃないの?」

「ええ、今日は家でお弁当を作ってきたから。」

 見るとデスクの上に小さいお弁当箱を広げている。木田は職場の中で一番若くはきはきと明るい。職場のアイドル的存在だ。

(はるかちゃんがランチに行かなかったら上山田もがっかりしただろうな。)上山田はしきりに木田を誘おうとしているがあまり色よい返事をもらえてないようだ。

「指瀬さんは、いつもここでお昼を食べているのですか?」

「うん、そうだけど。」

「あまり、みんなと食事を食べるのが好きじゃないのですか?」

「そういうわけではないよ。」

「じゃあ、今晩暇ですか?中野さんから聞いたかもしれませんけど、わたし達今晩仕事終わりに飲みに行くので指瀬さんも来てくださいよ。」

「いや、今日の夜は…。」

「わたし、指瀬さんともゆっくり話したかったですけど今日は忙しいですか?」

「うん、ちょっとね。」

「そっか、しょうがないですね。でもみんな、指瀬さんとも一度飲みに行きたいって言ってるので、次は絶対来てくださいね。」

「ああ、考えておくよ。」

 指瀬は答えながら(どこの()()()だよ。)と思った。木田はそう言ってくれるが、職場ではともかく飲み会などに行くとジェネレーションギャップを感じてしまう。

その後は木田が最近見ているテレビドラマの説明を熱心に話すのを聞いていると昼休みは終わってしまった。


18時に仕事が終わると中野や木田たちは指瀬に挨拶をして、話しながら出かけて行った。指瀬は10分程度職場に残って、みんなが完全に帰ったのを確認してから職場を離れた。何となく今顔を合わすのは気まずい気がする。

指瀬の職場を出たところに自動販売機が1台ある。そこにベンチと灰皿が置いてあってちょっとした休憩所になっている。指瀬が帰宅しようと職場を出るとその休憩所で上司の渡嘉敷(とかしき)がたばこを吸いながら座っていた。

「指瀬さん、お疲れ様です。」

「渡嘉敷さん、お疲れ様です。」

「指瀬さんは中野君たちと一緒に行かないのですか?」

「ええ、ちょっと今日は私用があるので。渡嘉敷さんはどうされますか?」

「僕は、ほら、妻が待っているので。」

 渡嘉敷は半年前に結婚したばかりで、結婚前は中野たちが飲みに行くときには一緒に行っていたが結婚後はほとんど参加していない。

「じゃあ、早く帰らないとだめですね。」

「そうなんだ。そうなんですけどね。」

渡嘉敷はこの会社での勤務年数が多いので指瀬より上司になっているが年齢は36才で年下でお互いに敬語でしゃべる微妙な関係になっている。

指瀬は渡嘉敷の口ぶりが気になった。はたして結婚して幸せになのか?その質問を口にするのははばかられたので指瀬はそのまま会釈をして駐輪場に向かった。


帰り道の途中で日が沈んで当たりも徐々に暗くなってきた。周囲が明るいうちはランニングや散歩をしている人もいたがすっかり河川敷から人がいなくなった。誰もいない河川敷を自転車で走っていると朝の明るい道と別の様子を呈して、何か別の世界に入り込んだ気がする。

「別に用事ってわけではないけどね。」

自転車に乗りながら指瀬は小さくつぶやいた。今日は誕生日だが別に特に予定が入っていない。誕生日を祝う習慣がなくなったのは何才からだろう。

指瀬はファミリーレストランに立ち寄り普段よりちょっと奮発した食事を食べ、ドリンクバーのコーヒーを飲んだ。その後ゲームセンターに向かう。通信で全国にいる相手と戦うFPS(一人称目線のガンシューティング)をする。今日は調子よく連勝して気分よくゲームを終了した。ゲームセンターを出るとコンビニによる。明日の朝食のパンとモンブランを買って帰宅した。


 鍵を開け、誰もいない部屋に向かって小さく「ただいま。」とつぶやく。冷蔵庫を開けて缶ビールにするかコーヒーにするか少し迷う。結局コーヒー豆を取り出してミルでゆっくり挽く。コーヒーを淹れるとコンビニで買ってきたモンブランを食べる。一人でハッピーバースデーの曲を歌ってみようかとも思ったが寂しくなりそうなのでやめておいた。

モンブランを食べ終わると風呂に入り、パジャマに着替えるとテレビの前に座る。PS4の電源を入れるとゲームを始める。午前2時を回る頃にゲームをやめて寝た。

指瀬総司の40歳の誕生日はそんな1日だった。


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