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<第一章 地球の異変>2

 今わの(きわ)、死ぬ寸前のトカゲの口から確かに、ぱちぱちと線香花火のような光が散っていた。そんなことができるトカゲがいたっけ、と思っていたところに、少年がまたも大声を出してくる。


「ああっ! こっちへ来てください!」


「ひえっ!?」


 少年が、やおら夏杷の方へ踏み込んできた。反射的に後ずさった夏杷の足が、かかとを何かにぶつけてもつれる。そのまま、後方へ倒れ込んでしまった。



 霊園の通路はほとんどが石造りだ。とっさに後頭部を守ろうと、夏杷は両腕を頭の後ろで組む。


 だが。


 尻もちをついた夏杷の背面が、異様な感触を伝えてきた。ぐにゃり、と冷たく柔らかい。


 その冷たい何かが、確かに蠕動(ぜんどう)した。反射的に、夏杷は半身を起して、振り返った。


 悲鳴は出なかった。目にしたものが何なのか、脳の処理が追いつかなかったせいで。


 少年が素早く夏杷の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。少年の胸に抱かれる形で、もう一度、夏杷は今倒れ込んだ地面を見下ろす。


 息を飲む。やはり、悲鳴は出なかった。


 そこにいたのは、体長三メートルはあろうかという巨大なトカゲだった。確かコモドオオトカゲという巨大な生物が、トカゲの中でもかなり大型だったはずだが、夏杷がテレビで見たことのあるそれよりも一回り大きい。


 それだけなら、叫びながら駆け出せたかもしれない。しかし大トカゲは、ゆっくりと、後ろ足で直立した。夏杷は完全に足がすくみ、かろうじてそこに立ち尽くしているだけだった。


「しゅぅはあっ!!」


 激しく息を吐き、大トカゲに向かって突進したのは、少年だった。爆ぜるような音を立てて踏み込み、右の正拳突きを繰り出す。


 夏杷が聞いたことのないような鈍い衝撃音が響き、少年の拳に深々と突き刺されて、大トカゲの体がくの字に折れた。口から、何色とも形容しがたい液体を吐き散らして、巨体がくずおれる。


「のこのこと地球になんて出てくるから! 下段!!」


 そのまま、少年は大トカゲの頭をかかとで踏み潰した。それから、先ほどまで自分が潜んでいた茂みへ引きずっていき、奥へ押し込む。


「これで大丈夫だと思います。こいつら、死体になるとかなり小さく縮むんで。古新聞みたいになりますから」


「あ、そう……ですか」


 何がそうなのかは理解できないまま、夏杷が相槌だけは打つ。


「しかし、なんで地球にこんなのが出てきたんだろう。ただのスニーキードラゴンですよ、こいつ。最下級の。自分でゲートなんて開けっこないのに。まさか、俺を追って……?」


 そういえばちょっと変な人だった、と夏杷は思い出した。しかしとりあえず、わけの分からない危機から救ってくれた恩人でもあるのは確かなようだった。


 対応に困っていると、少年ががっくりとその場で膝をつく。


「ど、どうしました!? 怪我ですか!?」


「いえ、一撃ももらっていません。怖い目に遭わせて済みませんでした。俺の傍にいると、またこんなことになるかもしれない。早く、帰って……」


 そこまで言うと、少年はぐにゃりと上半身を折り曲げ、とうとう地面に横たわってしまった。


 顔を覗き込むと、目を閉じた顔は、さっきまでよりも更に幼く見える。そしてその口が、小さく動いた。


「腹減った……」

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