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プロローグ:ドラゴニエル・ウォー

挿絵(By みてみん)

 地球ではない場所で。

 岩山に囲まれた荒れ地には、砂塵を巻き上げる猛風が吹き荒れていた。

 空には鉛色の雲が渦を巻いている。

 そこに一人、少年が倒れ伏していた。


「シンガ」


 少年――一双深我(いっそうしんが)、十七歳の地球人――は、名前を呼ばれ、どうにか首を上げた。

 そこには、巨大な――あまりにも巨大な生物が、長い首をもたげていた。


「シンガ。ゲートを使い、地球へ帰れ。お前の故郷へ」


 深我がかろうじて応える。


「何を……言ってる。できることとできないことがあるってことを」


「お前だけでも逃げるのだ。我らのことなど捨てて、地球で生き直せ」


「弱気な、ノイエル! ドラゴンの言葉とも思えないな!」


 深我は、全身の力を振り絞って立ち上がった。すぐ右隣に、巨大な――生物というよりも、建造物のような規格の――純白のドラゴンがいる。

 ノイエルと呼ばれたドラゴンは、全長十五メートルはあろうかと見える。

 そして、深我とノイエルの向こう正面には、更に巨大な、闇色のドラゴンがいた。深我の記憶では、確か東京タワーがあれくらいの高さではなかっただろうか。

 闇色のドラゴンとは、距離にして百メートル近くは離れている。だが、お互い攻撃の射程距離に入っていた。ただ、あまりにも攻撃能力には差がある。まさに彼らは、それをまざまざと見せつけられた直後だった。

 勝ち目はない。どう考えても。


「飲み込め、シンガ。我らは、ここで奴と刺し違える」


 敵はこの世界を滅ぼさんとする狂神竜。だが、その力も地球までは及ばない。地球へ逃げれば、深我だけは助かる。それは確かだった。


(だからと言って! 仲間にも敵にも背中を晒すようなことが!)


 狂神竜の周りには、ノイエルを含めて十二体の、色も形も大きさもまちまちの「ドラゴン」が陣取っていた。だが、十二体はどれも傷だらけだった。それに対して、狂神竜には目立つ傷もない。


「聞き分けるのだ。我ら霊域十二竜、そのどれもが、お前の死を望んでいない。ここまで一緒に旅ができて……楽しかった。驚きだ。ドラゴンである我らが、人間にこのような、……な」


「やめろ、ノイエル! 俺は最後までお前たちと一緒に――」


「ヴェルヴェッチ=アルアンシー! ゲートを!!」


 ノイエルが深我に構わずに呼んだのは、いくつも受傷して血をしぶかせながら空を舞っていた、ピンク色のドラゴンだった。いわゆるトカゲ型ではなく、ネコ科の猛獣のようなフォルムで、地球で言えば大型バスくらいの大きさがある。

 その体躯に似つかわしくない優しい声と共に、ヴェルヴェッチが舞い降りてくる。


「承知しました、ノイエル。さあシンガ、()どもが地球へお送りします。ゲートを開きましょう」


「俺はやめろと言ってるんだ、ヴェルウィ!」


「シンガ、我らはこの地で誕生し、この地でいずれ消えていく。だがお前には元いた世界に家族も知己もいるだろう。そこへ帰るのが『自然』なことなのだ。同じ生き物、同じ国、同じ言葉、同じ肌の色、だからこそ同じ思いを抱いて共に生きていける。この世界がそうであるように。お前のように、ドラゴンと共に生きようとする者こそ異端なのだよ。それが自然に帰るだけだ」


 深我は、そっと顔を寄せてくるヴェルヴェッチから身をかわす。


「やめてくれ。違う。俺は、俺はだめなんだよ。地球に、会いたい家族なんていないんだ。学校も家も嫌いだった。学校にいる奴も家にいる奴も嫌いだった。俺は、ずっと一人で生きていくと思ってたんだ。だから空手を習って、勉強も頑張ったよ。強く、一人でも生きていけるような人間になりたくて。それがこの世界に来て、お前らと出会って……やっと分かったんだ。俺は一人だったんじゃなくて、お前らと出会っていなかっただけなんだって」


「人間の友も、こちらでできただろう?」


「それとこれとは!」


「ドラゴンと分かりあえる者が、人といて孤独になるものか」


「なるんだよ! 人間はクズだ、バカなんだ!」


 深我の視界の端で、狂神竜がさらに猛り狂っている。何体かのドラゴンがかろうじてその攻撃をかわした。

 こんなことをしている場合じゃない。深我は、狂神竜に向かって、人間の、あまりにも小さな一歩を踏み出した。

 それに合わせるように、今度は有無を言わせない勢いでヴェルヴェッチが深我の体をくるりと取り巻く。


「ヴェルウィ!?」


「ごめんなさい、シンガ。お別れです。身どもも、あなたに会えて良かった。今なら、夢や願望ではなく言えます。人間にも、ドラゴンと……」


 深我の体が、眩い光に包まれだした。


「やめてくれ! 俺は残るんだ! 俺は皆と!」


「さらば、シンガ」


「さようなら」


 一瞬、深我は十二体のドラゴンに視線を巡らせた。ほんの一時、その全てと目が合った気がする。

 そして気が付いた時には、深我はいよいよ激しい光に飲み込まれ、その体は地球への帰還を始めた。


(ノイエル――ノイエル=シュヴァイエン! ヴェルヴェッチ! イエリャヴィク! ……)


 霊域十二竜。十二の友人。その名前が、深我の脳裏に明滅する。


(アギ=ア……イカツチ……スノウアーチローダー……)


 だが、最後まで思い浮かべる前に、


(ガンズドロウ……皆……俺を……)


 深我の意識は途絶えた。


(俺を一人に……しないでくれ……そんなの、一緒に死んだ方がましなんだ……)

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