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第13話 スパイの足音


 翌放課後。佐々木様々と不壇通さんが取り返してくださった屋上で、俺達はようやく個々人の成果報告会を行うこととなった。


「今日は部活の忙しい中、集まってくれてありがとな!」

「別に、今日はラクロス部はお休みだし。河飯君も終わり次第来るんでしょ?」

「そのようね」

「よし、じゃあ先に始めるか!報告会!じゃあ、成果がある人―!挙手!」


「「…………」」


 あっれ~?おかすぃなぁ~?手が挙がらないんですけどぉ~?

 ひょっとして――ヤバくね?


 と思いながら首を傾げていると、見かねた藤吉がちょい、と胸元で手をあげる。


「……こんなことだろうと思ったわ」

「藤吉先生!!」


 俺は縋るようにその手を握る。


「わっ!下神は相変わらずテンション高いわね。本当にオタク?」

「俺は光のオタクだから!」

「まるでわたしが闇のオタクみたいな言い草はやめて」


 呆れたようなため息を吐いた藤吉は、鞄からスケッチブックではなく、メモ帳のようなものを取り出す。


「下神と制香は、メンバーを集めてこの拠点を掃除して確保した……ってことでいいんじゃない?で、わたしの方だけど――」


 ごくり、と喉が鳴る。


「SNSの校内選挙用のアカウントを作って、校内販促用の腐アカから人を流しておいたわ」

「おおお!」


 校内販促用の腐アカってワードは聞かなかったことにしよう。うん。


「新刊の進捗とか、常日頃思っていることをチュイチュイ呟くアカなんだけど、実は結構な数フォロワーがいてね?ウチの学校の人向けに作ったアカなんだけど、ウチの生徒以外の人も結構いるのよ。校内の人物がモデルの作品を描くと、『文化祭行ってもいいですか!?』ってDMがよく来るわ」


「…………」

「?」


 よし。制香ちゃんは意味がわかってないようだ。よかった。幼馴染の腐敗は進んでいないようだな。

 で、俺は仕事が増えた。文化祭までに河飯用のSPを用意した方がいいだろう。


「でも、校外の人が選挙アカに流れて何になるんだよ?投票権無いだろ?」

「ちっちっち……甘いわね、下神」


 ピッ〇さんみたいにゆびをふる藤吉。だが、そのにやりとした眼差しは可愛いフェアリータイプなんかじゃなかった。


「外野からのヤジとかでアカウント自体が盛り上がれば、選挙はお祭り状態。そんな楽しそうなイベントに参加したくてもできない外野と、参加できちゃうウチの生徒の間には『イベント参加券格差』が生まれるのよ」


「「『イベント参加券格差』??」」


 すまん。藤吉の言っていることは次元が一個上でさすがの俺にもちとわからん。


「なんだそれ?」

「考えてみて?特に興味の無い2.5次元の公演が当たったとして――」


『制香。宝塚か劇団四季だと思えばいいから』

『うん?うん……』


 耳打ちすると、幼馴染は疑問符交じりに頷く。


「周りの人が『行きたい!』って言ってるのに行けない。けど、自分はそれを持っている。これって、とんだ優越感よね?行かなきゃ損!って思うわよね?」


「「なる、ほど……?」」


「とにかく!わたしはこの校内選挙用のアカウントを盛り上げていくことに今後も力を注ぐわ。校内で無配ペーパーとか、エサはいくらでもあるわけだし。で、選挙を題材にした新刊を描く」


「おおお……?た、頼りになるような、ちょっとこわいような?まぁ、18禁配布して教師に捕まるのだけは勘弁な?」


「そんなヘマ、わたししないから。あと、選挙の応援ポスターも描き下ろす」


「それそれ!そういうのを待ってたんだよ!さすが藤吉先生!」


「ま、噂によると教師の中にもわたしの作品の愛読者がありがたいことにいるらしいから、判明したら引き込みましょう?」


 そう言うと、藤吉はくつくつ、と闇のオタクっぽい笑みを浮かべる。

 その様子を見て、あろうことか藤吉を膝に乗せて撫で始める制香。

 どうやらイタズラ好きな子どもが『トリックオアトリート』でも企んでいると勘違いしているようだ。うん。制香ちゃんは今日も平和。安心ですね?


 ここ数週間にしては思いのほかしっかりやってくれていた藤吉に感謝していると、遅れて河飯が現れた。


「ごめん!遅くなった!」


「いいって。部活あったのにごめんな?」


「いいよ。下神は恩人だし、僕も選挙に勝ちたいからね?放課後ビューロランドの為に。で?何話してたの?」


「ここんところの成果の報告。俺と制香は拠点確保。藤吉は販促――じゃない。選挙宣伝用のアカウントとその他もろもろやってくれてるって話だ。河飯の方は進展あったか?」


 尋ねると、河飯は手帳を見せてきた。拍子が黄色い、ほもふむフリンちゃんの絵がプリントされた可愛らしい手帳。河飯愛用のだ。

 河飯は今月のページを開いて俺達に示す。


「えっと、ここ二週間くらいでデートしたのは15人――」


「15人!?!?」


「えっ、そんなおかしかったかな?」


 いやいやいや!


「一日ひとり以上じゃねーか!?計算合ってんのか、ソレぇ!?」


 あまりの格差に、思わず声が裏返る。

 河飯はそれがさも当たり前であるかのように話を続けた。


「昼休み、放課後、休日……下神に言われてから結構積極的に誘いに乗ってたせいか、声を掛けられる頻度が増えてね。『目の保養をしたいからデートだけでも』とか言われて付き合ってたらこんなことに……」


「「「ああ~……」」」


 納得の俺達三人。


「で、選挙の話をして興味を持ってくれたのは3人。ビラ配り程度なら手伝ってくれるって」


「おお!」


「『もし僕が出たら投票してくれる?』って聞いたら全員、頷いてくれたよ?」


「おおお!さすが河飯!」


 やっぱイケメンパワーは女子特効がやべーな!


「って、待てよ河飯?お前出るのか?出てくれるなら票も集まるし、そりゃありがたいけど……」


「うん。僕、勝つためなら何だってするから」


 温和な性格からは想像もできない、あつい闘志。思わず気おされてしまいそうだ。

 藤吉の筆が走る。チラ見すると、そこには『河飯は攻めも可』の文字が。


(…………)


 何はともあれ、河飯は、フリンちゃん――もとい、『可愛いものの為なら何だってする』イケメンだった。


「えっと、じゃあ希望のポストは?」


「うーん、書記……かな?会計って専門的な知識が無いとダメそうじゃない?」


「まぁ、あくまで学生の生徒会だから、プロ並みの会計知識は要らんだろうが、できるに越したことは無いよな。いざとなったら俺、勉強するし。河飯はその辺自信ない感じ?」


「うん。数学は苦手な方。だから、票集めの為に立候補するなら書記で。副会長はその……上木さんなんでしょ?」


 遠慮がちに、いかにも『ふたりの邪魔しちゃダメだよね?』的なオーラを出す河飯。相変わらず、こいつの気遣いさんには感服する。そしてナイス判断だ!

 その視線に、制香も顔を赤らめた。


「うん。こないだ約束したし、ね……」


 ちらちら。もじもじ。毛先くるくる。

 はぁ~、可愛い!俺の制香ちゃんてばほーんと可ぁ愛い!


 思わずデレデレしていると、河飯は思い出したように口を開く。


「そうそう。あとね、成果になるかはわからないんだけど、週末に生徒会の人とデートすることになってて……」


「「えっ?」」


 声をあげたのは、俺と藤吉。


「生徒会の人って……現行メンバーか?」


「うん。役職はわからないけど、そうだって」


「ちなみに名前は?」


「A組の愛染(あいぜん)さん」


 その言葉に、藤吉が跳ねる。


「愛染って!不動のマブダチじゃない!生徒会では書記をやってる……眼鏡美人の……」


「うん。確かに眼鏡美人だったかも?赤ブチ眼鏡が可愛い子だよね?」


「眼鏡は、この際問題じゃないわ……」


「藤吉?青ざめた顔してどうしたんだ?」


 『愛染』の名を聞いた途端に深刻な表情を浮かべる藤吉。

 しかし、次の瞬間恐ろしいことを口にする。


「ねぇ、河飯?もしかしてそれ……『スパイ』なんじゃないの……?」


「「「え?」」」


「愛染は不動を支える生徒会メンバーのひとり。不動とは昔馴染みで信頼もあつい。お互いを想う心もアツい……」


(藤吉?百合がイケんのは初耳だぞ?)


「だから、ひょっとするとそのデート、わたし達の現状を探ろうとしてのことなんじゃないかしら?」


「それってちょっと……マズくない?え?僕どうしたらいいの?行かない方がいい?」


 その瞬間。俺の脳にはヒュゴウっとアイデアの彗星が落ちてきた。

 慌てる河飯の両肩を掴み、俺は告げる。


「オトせ――河飯」


「え?」


「そのデートで、逆に愛染を陥落させてやれ。不動が二度とスパイなんて姑息な真似する気が起こらないように、完膚なきまでに惚れさせて、返り討ちにするんだよぉ!!」


「え――」

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