えーてぃーえむくん?
「ねえねえ、セタくん」
「はい、何でしょう?」
「鬼嫁ってね、ダンナさんをえーてぃーえむにするみたいなんだけど、知ってる?」
「え、えーてぃーえむ!?」
「どういう意味なんだろうね~」
今日は初めて、ユイさんと街中デートに来ている。
まだどこのお店にも入っていなくて、至って普通のお散歩みたくなっているけど、それでも僕は楽しいし嬉しい。
「セタくん、どこか入る~?」
「あっ、いえ……ユイさんと一緒に歩いているだけで幸せです!」
「う~ん? セタくんだけ幸せなのがひっかかっちゃうな~」
これはもしやユイさんへの愛を確かめられている!?
僕だけが幸せを感じているのは、確かに不平等な気がする。ユイさんを幸せにするためには、僕がえーてぃーえむになるしかないかもしれない。
「ユイさん!」
「うん? どうしたの、セタくん?」
「どこかお店に入りましょう! まずは何かを口にして美味しいものを食べれば、幸せに一歩近づけますよ!」
「……あ、もしかして気にかけてくれているのかな? うん、いいよぉ。でもセタくんと一緒にいられるだけでユイは十分だし嬉しいよ? ありがとね」
どうやらユイさんはお店に入らずに、僕と散歩を続けてくれるみたいだ。
「あぁ……ユイさん、好きです」
「ふふっ、ありがとね。そんな、何もスキップするほどでもないのに、気をつけてね?」
気持ちが通じ合えたような気がして、ついつい浮かれて思わず、慣れないスキップをしてしまった。
「うわっっ!?」
「大丈夫? 派手に転んじゃったね。どこか怪我してない?」
「へ、平気です。スキップで怪我はしないですよ~」
と言いつつ、転んだことでポケットの中に入れていたものが散乱してたので、財布とか携帯とかを拾って事なきを得られた。
だけど、いつもポケットにそのまま入れておいたマネーカードが、どこにも見当たらない。
気になったけど、大してお金を入れていなかったのでよしとしよう。
「あ、そうだ! セタくん、喉乾いているでしょ? あそこのコンビニで何か買って来てあげるね!」
「ほ、本当ですか!!」
少しして満面の笑顔で戻って来たユイさんは、僕に何かを手渡して来た。
「えーてぃーえむくん、これありがとね!」
「ほえっ? あ、それ! え、あれ?」
「セタくん、さっき転んじゃった時に何か失くさなかった?」
「もしかしてユイさんの所に?」
「もう~水臭いな! 何も言わずにユイの手元にカードを投げてくれているなんて、えーてぃーえむくん、流石だよ!」
「い、いやぁ、はは……」
物凄く偶然なことだったけど、ユイさんの懐を痛めさせなかったのは良かったのかな。