それが出来たらお小遣いをあげるからね?
「よーい、スタート!」
「せ、制限時間はどれくらいですか?」
「ん~……ま、とりあえず頑張ってね! セタくんの主夫っぷりを見ててあげるからね!」
ユイさんはこの前二人で行った海水浴でのナンパ以来、内心穏やかな気になれずにいたらしく、鬼嫁度が日に日にパワーアップして来ている。
だけど言葉も態度も優しくて、やっぱり可愛い。
恋する僕を試すようなことを言うようになって来た。それでも全然怖くないけど。
「うへぇ……」
「汚い所は後回しでいいからさ、まずはユイの下着をポイポイと洗濯機に入れちゃお?」
「し、下着……セ、セクスィです」
今日の鬼嫁試練は、とてつもなく汚部屋と化した……ではなく、わざわざ汚しまくった部屋をピカピカにするということ。
僕の部屋に上がり込んで来ているユイさんは、僕の部屋に来るたびに綺麗~! だとか、何にもないよね。などと褒めて? くれていた。
ユイさんの部屋には行ったことが無いし、呼んでもくれないのは残念な所だけど、ユイさんはお部屋を見せてあげられないけど、再現をさせてあげるからと言って僕の部屋をわざわざ汚くした。
「ほ、本当にこんなに至る所に下着を放り投げてるんですか?」
「ここまでひどくないけど、そんなもんだよ。セタくんは鬼嫁のイメージを舐めすぎなんだよ」
「で、でも、飲みかけの容器とか菓子パンの食べかけは置きっぱなしにはしませんよね?」
「うん。それはさすがにね」
「えええ? じゃあ、誇張しちゃったんですか!?」
「その方が綺麗のし甲斐があるでしょ? すごーく綺麗にしたらお小遣いをあげるね!」
な、何という鬼嫁っぷり? 汚くさせて綺麗にさせるなんて、落として上げるアレのことなんだ!
しかもお小遣い! 何といういい響き!
不思議な感じがするのは、僕自身の部屋を汚しておきながら以前よりも綺麗にすること。
これもお嫁さん【仮】の優しさと慈愛なのかもしれないと思うと、涙を流して笑顔が出てしまいそう。
「うううっ……」
「そこに玉ねぎを沢山置いちゃった。洗って食べれるから、後で食べてね!」
「あぅっあぅっ! う、嬉しいです」
一番最初に手にしたのはユイさんの純白な下着。そこからむき出しの玉ねぎ、そして食べかけの色々。
汚くした部屋をまた綺麗にするだけなのにお小遣いをくれるだなんて、なんて優しい女性なんだろう。
でも結構な量のゴミを散らかしてしまったせいで、まだまだ時間がかかりそう。
「時間かかり過ぎ~! セタくん、手を出して?」
「あ、はい」
「はい、お駄賃だよ」
「……え? か、鍵……!? ど、どこの?」
「ユイのお部屋の鍵なの! 明日、ユイのお部屋に入って来ていいからね!」
「えええええ!? ユ、ユイさんのお部屋に!」
お金じゃなくて、お駄賃は鍵! それも愛しのユイさんの!
「ユイさんは何時に部屋にいますか?」
「いないよ?」
「ほへ?」
「一日中いないから、綺麗にお部屋を掃除していいよぉ」
「は、はひ……」
その為の予習をさせてくれたということは、やっぱり優しい!
あれ、鬼嫁さんに近づいて来ちゃってる感じかな……