鬼嫁さんと僕
特に難しくしていくつもりのない新作です。
一話1000文字程度でサクサクと。
「う、うわあああああ!? ちょっ、ちょっとユイさん、何をするんですかー!」
「思いやりだよ? これはね、ユイが独自に編み出した思いやりというやつなのだよ。もう一度、ううん、納得するまで何度でも入れなおしてもらうからね?」
「ううっ……完璧だと思ったのに、まるでエンドレスゲームみたいだ」
「うーん……ゲームかぁ。そうじゃないよ? これはユイが目指す理想の鬼嫁さんなのですよ! そういうわけだから、もう一度キャリーバッグに荷物を入れなおしてね、セタくん!」
あぁ、可愛い……可愛い僕のお嫁さん【仮】は勘違いをしている。
こんなやり取りをするようになるなんて、引っ越して来た初日からの展開が猛スピードすぎた。
僕が恋するユイさんは、僕が借りているアパートの管理人さんをしている。引っ越しをして来た初日に挨拶をした時、勢い余って告白をしてしまった。
「か、かわかわかわ……」
「うーん? どうしたの? ユイの顔に何か付いているのかな?」
「け、けけけ、結婚したいです!!」
その日、彼女は告白をすんなりと受け入れ、僕の”お嫁さん候補”になった。
「年はいくつかな? ユイは23なの」
「ぼ、僕は大学を卒業するまでは……えっと、自立を目指して安いアパートで一人暮らしを……あっ」
「そっか。安アパートで自分探しってやつかな? それがまさかまさかのお嫁さんを見つけちゃったんだ~!」
「はうっ、ごめんなさい!」
本当は自分探しとかでもなくて、安い所に住んで何となく生きていければ、なんて思ってた。
年上のお姉さんには昔から惚れやすくて、親戚や近所のお姉さんなどなど、僕は告白をしまくっていた。
もちろん本気にされることなんてなくて、そのまま受け流されて来た。それがまさか、受け入れられただなんて、しかも可愛いお姉さんが僕のお嫁さんに!
「ふぅん……頼田くんね。ユイはね、ユイだよ! セタくんは今日からユイの旦那さん~! 頼りまくるからね?」
「だ、だだだ、旦那さん! え、でも手続きとか式とか、書類とか……え、あれ」
「それは後回し! まずは、新婚旅行! それが最優先事項なんだよ~」
「え、えええ? で、でも、僕はお金に余裕が無くて……」
「ふっふーん! そうそう、だからまずはユイも鬼嫁さんを目指すよー!」
鬼嫁さんを目指す……? 何かの聞き間違いなのかな?
そう思っていたけど、ユイさんは可愛い口調のままで、僕に最初の試練を与えて来た。
「ほい! これ!」
「はい、キャリーバッグですよね?」
「うんうん、まずはセタくんの駄目っぷりを見せてもらおうかな~」
「えっ?」
「ユイが納得出来るまで、所帯じみたことを完璧にこなしてね? それが出来るまで新婚旅行はお預け!」
「ええええっ!?」
早まったのだろうか、なんて思えないくらいユイさんは可愛い。
だけど、ユイさん……鬼嫁さんって目指すものじゃないです。
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