ときめき島津メモリアル~四兄弟攻略RTA~④
1.攻略完了
俺、何で生きてるんだろ?
いや人生の意味を見失ったとかそういうことではなく物理的にね。
マジでやべえ。見通しが甘かった。四兄弟がやべえだろってのは想像がついてたけど他も十分やばい。
何か途中から怒りとは別の意味でやる気満々になった連中の攻撃は痛いなんてものじゃない。
見ろよこの有様。サンタでもここまで赤くねえぞってぐらい酷いカラーリングじゃん。赤い屍じゃん。通常の屍より三倍の速さで棺桶に入れるわ。
「あー……えーっと……こっちか」
ぼたぼた血で城を汚しながら当主である義久が居るであろう場所へ向かう。
あとで掃除大変だろうけど勘弁な。
「邪魔するぜ」
襖を蹴り飛ばし中に入ると――おや? あの凛々しい兄ちゃんが義久なんだろうが幽羅と竜虎コンビも一緒か。
幽羅は相変わらず胡散臭い笑みを浮かべているが竜虎コンビは信じられぬものを見た、ってな顔をしている。
ひょっとしてあれか。幽羅の遠見か何かで全員、見てたのか? まあ良い。
今はこの三人より義久だ。
「島津家十六代当主、義久に御座る」
「超征夷大将軍カール・YA・ベルンシュタインだ」
「す、すーぱー……? 何ですそれは?」
「一々説明するのも面倒だ。手前で勝手に想像しな――じゃなくて」
こんないっぱいいっぱいの状況でべジ●タゴッコやってる余裕はねえだろ。
さっさとカタに嵌めなきゃ俺がやばい。死ぬわ。
肉体的にもそうだが精神的にもやばいんだよ。
禁術――ジジイにやられた心の調整を自分でやってみたけど今にも正気を失いそうだ。
耐え難い殺戮衝動を堪えながら誰一人として殺さぬようにするとかもうね。ザリザリメンタル削れるわ。
「来いよ」
「いいえ、やりませぬ」
「は?」
いやそうか。逆鱗逆撫でしまくって無理矢理巻き込んだが島津側からすれば俺に付き合う理由なんてどこにも……
「――――島津家は御身に絶対の忠誠を捧げましょう」
「は?」
俺の前に跪きそう宣言する義久に俺は唖然とする。
え、いや……まだ終わって……。
「どんな理由で我らを欲したのかは分かりませぬが見るべきものは見ました。
我が首を御所望と言うのであれば喜んで斬り落としましょうとも」
「……武家の当主として、軽率な発言じゃねえか?」
心からの協力を得るために俺はこんな無茶した。
島津の気質的にはこのやり方が一番効くだろうって。
だが、幾ら何でも……。
「言ったでしょう? 見るべきものは見たと。あなたは“間違え”ない」
「買い被りだ。俺は――――」
「万人に通じる正しさではありません。己の信ずる正しさを、ですよ」
あなたの正しさは島津に害成すものではない。
そも、そんな気があるのならばこのような狂気の沙汰に打って出るわけがない。
義久はそう断言した。
「心より我らを評価し、心より我らを求めた。であるがゆえの美しき愚行」
「愚行……いやまあ、否定はせんけど」
「正しさで以って人心を掴むならまだしも、愚かさで以って人心を掴むというのは――ああ、我らは得難い経験をしているのかもしれません」
楽しそうだなお前。
でもまあ……そうか。これで終わりか。
「なら将軍として最初の命令を下そう」
「御随意に」
「飯の準備を頼むわ。それと風呂」
「ハッハッハ! 御任せあれ」
「あと、弟――義弘の手当てもな。アイツだけはマジで死ぬかもしれん」
「御配慮、感謝致します」
大きく息を吐き出し、座り込む。
(全部終わったんならもう良いだろう)
溢れ出る気を全て活性に回し、傷口を塞ぎ禁術を解除する。
これまで以上の疲労が心身に圧し掛かった。
このまま寝てしまいたいが――いや、逆に眠れんな。疲れ過ぎて逆に目が冴えてる。
「幽羅……傷は治したから血を頼む……」
気で傷は癒せても失った血までは補填出来ない。
このままだと死ぬので幽羅を頼る。
コイツにだけは事前にやることを教えていたので対策はしてくれているはずだ。
「ではこれをどうぞ」
幽羅に手渡されたのはサイケデリックな色彩の液体が入った小瓶だった。
明らかにヤバイクスリにしか見えないが、効果はあるのだろう。
俺の利用価値がある現状で幽羅が俺を殺すとも思えんし。
「う゛」
瓶の先を指で斬り飛ばした瞬間、刺激臭が鼻をついた。
だがそれも一瞬のこと。直ぐに嗅覚が麻痺した。
どんだけやべえんだと思いつつ、俺は中身を一気に飲み干した。
「――――」
ドクン、と大きく心臓が跳ねたと思えば目、鼻、耳、口から鮮血が噴出した。
しかもこれ、止まらない。次から次へと溢れて来る。
「お、おい……これ……」
「過剰に血が生産されとるだけなんで大丈夫大丈夫。ご飯が出来る頃には落ち着きますわ」
「そ、そうか……あの義久、ごめんね。部屋汚しちゃって」
「お構いなく。しかし大丈夫なのですか? 殿下の肌が熱したように赤く……湯気も立ち上っていますが」
ああうん。身体が焼けるように熱いよ。
血液が凝固するんじゃね? ってぐらいにね。
でもまあ幽羅が問題ないと判断したのなら問題はないのだろう。
「そうですか。ああ、昼餉はもう少々御待ちください。どうも皆、かなり張り切っているようでして」
「へえ、そりゃ嬉しいな」
しかしアレだな。穴からドバドバ血ぃ流してる奴見ても平然としてるって島津はやっぱ島津だわ。
頼もしさと若干正気を疑いたくなるあたりが実に面白い。
などと考えていると廊下から騒がしい音が聞こえ、外で伸びていた弟三人がやって来た。
包帯などを巻いてはいるがやはり褌一丁。コイツらは一体何を考えてるんだろう。
「おお! 良かった、殿下生きてるっすよ!!」
「良かったよぅ。ホントに良かったよぅ」
「こらお前達。恐れ多くも将軍殿下の御前だぞ。もう少し言葉遣いを改めなさい」
恐れ多くも将軍殿下の御前やぞ。もう少し服装を改めなさい。
ってのはともかくだ。
「いや良い。楽にしてくれ。どんな事情があれ先に無礼かましたのは俺だしな」
「それを帳消しにして余りあるものを見せて頂きましたし気にしていませんよ。ねえ、兄上」
「そうだな。これほどまでに心奮えたのは生まれて初めてだ」
「やべえよぅ。殿下、本気でやべえよぅ。これまでのどんな戦場よりも燃えたよぅ」
「っすねえ。いやぁ、一撃でのされちゃったのが嬉しいやら悔しいやら」
おぉう、好感度高いな俺。
改めて俺の島津攻略法が正しかったのだと実感したわ。
「それよか義弘、お前大丈夫か?」
「問題ありません。三途を渡りかけましたが御先祖様に蹴り帰されましたよ」
ハッハッハ、と笑っているが笑い事じゃねえな。
「お前さえ良ければ幽羅に治療させるが……」
島津攻略が成ったとは言え信を勝ち取ったのは俺だ。
いきなり幽羅に治療させるのもどうかと思ったんだが、
「おぉ……お心遣い感謝致します。遠慮なく甘えさせて頂きます」
「……即答か」
「殿下を信じておりますから」
「そうかい。じゃ、幽羅よ」
「はいはい」
幽羅の治療の傍ら、俺はいい加減目を逸らせなくなった疑問を投げかける。
すなわち何でお前ら褌一丁なの? と。
すると、
「いや……生で感じないと勿体ないかなって」
「だよぅ。服や甲冑越しだとなぁ」
「然り然り。いやぁ、堪能しましたよ。それこそ天にも昇るほどの心地でした」
ハッハッハと笑う三人。やっぱり文化が違うんだなって。
2.先祖が受けた恩もまとめて御返し致しましょう
「ふぅー……食った食った。ごっそさん。美味かったよ」
メインはさつますもじなるちらしずしに鶏飯。
おかずは地鶏の煮しめ、鳥刺、薩摩芋のてんぷら、豚の丸焼き、キビナゴの田楽焼き、壺漬け、芋がらの酢の物、さつま汁等々。
デザートの両棒餅も美味かった。うん、余は満足じゃ。
普段ならドン引くぐらいの量があったけど、消耗し切った今の身体にはありがたい量だった。
「お気に召して頂けたようで何より。この後は昼寝でもしますか? 良い場所を知っていますが」
「魅力的だが……生憎と、そうもいかん。お前らも話を聞きたいんだろ?」
俺に配慮してだろう。食事中、談笑はあったが核心に迫るような話題は一切出されなかった。
ありがたいことだが、これ以上甘えるのも申し訳ない。
「つーわけで幽羅。道中デケエ港町あったろ? 虎子と竜子連れてちょっと遊んで来い」
「……ほんま、どんどん遠慮なくなるわぁ。まあよろしおす。ほな、行きましょか」
ぶつくさ言いながら幽羅と竜虎コンビは出て行った。
義久も俺に倣うように近習や侍女を下がらせる。
これで部屋の中は俺達五人だけになった。うん、心置きなく話せるってもんだ。
「で、我らは一体“何”と戦えばよろしいので?」
いきなりぶっこんで来たな。義久も内心、かなり気にしていたのだろう。
ってかこの口ぶり……コイツ、分かってるな。
「察しが良いな」
「あのような真似をしてまで我らの忠誠を得ようとしたのです。
たかだか“人間”相手だと考えるのは楽観が過ぎるというもの。神仏と戦うと言っても驚きませんよ」
神仏相手ね。
「勘が良いな。正にそれだ。俺は“神”を殺すためにこの国に来た」
「ほう」
三男四男は驚きを露にしているが長男次男は平然としてるな。
神仏と戦うと言っても驚かないってのはマジだったらしい。
「順を追って話そう」
この国に来た経緯を包み隠さず打ち明ける。
長い話だったが四兄弟は黙って耳を傾けてくれた。
そして話終え喉の渇きを潤そうと茶に手を伸ばしたところで、
「「「おいは恥ずかしか! 生きてはおられんご!!」」」
「何で!?」
いきなり着物を肌蹴、切腹をかまそうとする次男三男四男。
俺は茶を放り捨て、咄嗟に気弾を撃って切腹を阻止した。
「まあまあ落ち着けお前達。殿下は我らの力を必要としておられるのだぞ。死んでどうする」
「何でお前もそんな落ち着いてんの!?」
弟が目の前でいきなり腹掻っ捌こうとしたんだよ!?
ギョッとする俺に義久は言う。
「いや、私にも気持ちは分かりますので。
憐れな女子に犠牲を押し付け安穏を貪り続けて来た。これを恥と言わずして何と申すのか。
知らぬことと開き直る者も居るかもしれませんが我らはそのような恥知らずではありませぬ。
世には命よりも大切なものがありまする。それを失ってまで生きることに何の価値がありましょうや」
極々自然に命よりも矜持を優先する姿勢。俺には誰よりも武士らしく見えるよ。
でもそれはそれとしてやべえとも思う。
「なるほど。でも、お前は案外冷静だな」
「いえそうでもありませんよ。ただ毎回毎回、弟達が先に感情を爆発させるので機を逃してしまうというか……」
弟達が居なければ私が止められる側だったと義久は笑う。いや笑えねえよ?
「見苦しいとこを見せて申し訳ないっす」
「……ですが、これで得心が行きました。だから帝は殿下を御認めになられたのですね」
「だねぇ。どんな目的であれ葦原が繋ぎ続けて来た呪いを断ち切ろうってんだぁ。そりゃ帝や陰陽寮も協力するよぅ」
「無謀だと。徒に葦原という国を危険に晒すだけだとは思わねえの?」
俺がそう問うと、
「我らの個人的な信条をさて置くとしても、勝ち目があると思ったから帝は協力なされたのでしょう」
「兄上の言う通りです。これを逃せば永劫、この国は呪いより脱せられないと判断した。ゆえにこそ殿下に賭けたのでしょう」
「気持ちは分かるっすよ。実際に神の切れ端を倒したとかそういうんを抜きにしても」
「お天道様よりも眩しく、凄絶なその意思の光――信じたくなるってもんだよぅ」
重い重い。信頼が重い。
ホント、心を許したらどこまでも一途だなコイツら。
これでコイツらが女の子だったら……つくづく惜しいぜ。
「改めて問うが……」
「その必要はありませぬ。島津の男は一度口にした言葉を翻すような真似は致しません」
忠誠を捧げると誓ったのだから地獄まで一蓮托生。
あなたが神に挑むと言うのなら我らも神に挑む。
義久の言葉に弟三人も大きく頷いた。
「先祖が受けた恩も含め島津一同、死力を尽くして戦う所存」
「ホント、頼もしい奴らだ」
「何の。命を捧げるに値する主と大義ある戦場あってこそに御座います」
話を聞けば兵達も皆湧き立つだろうと義久は笑うが、
「一応言っておくが……」
「無論、殿下が天下の趨勢を定められるまでは胸の内に秘めておきますとも」
「ん、そうしてくれ」
この段階で情報が拡散しまくると面倒だからな。
「ついでだ。こっちでも色々調べてるんだがやっぱ現地の人間じゃなきゃ分からんこともあるからな」
九州で頼り甲斐のある味方になりそうな奴は居るか?
そう問いを投げると義久はそうですな、と少し間を置いてから答えた。
「肥前の龍造寺、豊後の大友」
「待て待て前者はともかく後者は……」
「いえ、宗麟本人ではなくその家臣の立花道雪や高橋紹運のことです」
あ、俺の早とちりか。
しかし、主を裏切るのかね? その二人は。
「通常であれば難しいでしょう。しかし、宗麟がおかしくなっていると言うのは私も耳にするところ。
それが単なる変節ではなく邪神に関わるものであれば御家の存続と引き換えに宗麟の首を差し出す可能性は十分にあります。
龍造寺もそうですがその気質的に八俣遠呂智の存在を認めはせんでしょうし、殿下個人に対しても好感を抱くはず。
とは言えいきなり話を持って行っても受け入れはしないでしょう。殿下が我らにやったようなやり方も通じはしないかと」
いや俺も島津以外にあんなやり方するつもりは毛頭ないよ?
「ですが殿下主導の下、天下の趨勢が定まれば多少の衝突の後、頭を垂れるかと」
面子を保つためにプロレスやれってことね。
面倒だがまあ畑違いの俺がどうこう言うことではないか。
「従属させてから話を持ちかけろってことね」
「はい。帝の意向を受け実際に天下をまとめて見せた御方の話ですからね。断る理由がありませぬ」
帝の意向か……やっぱ味方につけといて正解だったな。
だがまあ、意向だけでは意味がない。実際に天下を統一して可能性を見せ付けてこそ。
帝の援護射撃を活かせるかどうかは俺の頑張り次第ってわけだ。
「他はどうだ?」
「他……ですか。うーむ……」
「パッとしないのか」
「いや面倒な手合いが多いのは確かです。基本ここらは魔境なので」
自分で言うか。
「ただ我らがそれらを吸収し肥え太った方が御役に立てます」
「断言するな。だが良し。そう言うなら任せるよ」
「お任せあれ」
島津の精強さは身を以って思い知らされたからな。
雑兵でもレベルがダンチだし、他の勢力を吸収して島津化させた方が良いってのはその通りだ。
島津が俺に好意的だから面倒が少ないって利点もあるし。
「ちなみにこれからどう動くんだ?」
「まずは王手をかけている三州統一。以降は北上しつつ大友や龍造寺にも食い込もうかなと」
その方が俺への援護射撃にもなるだろうと義久は言う。
「分かった。なら俺も幾らか援助させてもらう。金や武器って形でな」
「忝のう御座います」
「水臭いこと言うなよ。気分良く殺し合った仲じゃねえか」
自分で言ってて何だがイカレてるよな。
「俺はこれから将軍の威光を高めるために動くつもりだから、それも上手いこと利用してくれや」
「はっ」
「他に……何かあったかな? 細かいことは幽羅に任せてるからパッと思いつかんのだが……ああ、何か俺にして欲しいこととかある?」
頼むばかりではなく、頼みを聞くこともしなきゃな。
官位とか欲しいなら融通するぜ。
「では一つよろしいでしょうか」
「ん、言ってみ」
「盃を頂戴したく」
「盃って……」
ヤクザかよ。いや別に良いけどさ。
計測終了。タイムは京都を出てから二日。多分これが最速だと思います(走者並のコメント)




