ハートに火をつけて①
休日、俺は近所にある公園のベンチで一人黄昏ていた。
「やっちまった……」
あ、あっこで子供遊ばせてるママさんパンツ見えてる。
シースルーか……大胆なの穿いてんね、嫌いじゃないわ。
「やっちまったなあ……」
「兄ちゃん兄ちゃん、何をやっちまったの?」
小走りで寄ってきた少年が俺に声をかけてくれた。
しょぼくれている俺を心配してくれたのだろう。
上京してきて良かった、優しい子に会えて。
「いや、数日前に状況とか性癖に流されて特に好きでもない子と……ね?」
「控えめに言ってクズでは?」
殺すぞクソガキ。
まあガキのことは置いといてだ。
何かノリにノリにノってガンガン、無双乱舞しちゃった俺氏。
精神異常のデバフでも撒かれたのかってぐらい興奮して夜通しパーリナイトよ。
朝起きた時、隣で俺と手を繋いで寝てるアンヘル見た時は心臓止まるかと思ったわ。
「坊主も気をつけろよ」
「僕は兄ちゃんみたいなクズじゃないから大丈夫だよ」
「そういう奴に限ってヤっちゃうんだよなあ」
皆、口ではどうとでも言えるんだ。
ニュースでもさ、何か事件が起きたらまさかあの人が……とか言ってんじゃん?
人間なんてどいつも一皮剥けばクズなんだよ。
いや、俺は違うけどね?
「ホント、マジで気をつけろよ。ガチで焦るからな」
焦ってついつい悪戯(意味深)しちゃったよ。
「クズなのでは?」
だって朝元気になるのは生理反応だし……動揺してたし……しょうがなくね?
途中で目を覚ましてからも、何戦か槍を交えちゃった(意味深)んだよなあ。
夜の時とは打って変わって、俺に主導権を渡してくれるもんだから……ねえ?
俺としてもついついリビドーのままに頑張っちゃったよ。
「普通嫌がるだろう、ちょっと変態なリクも笑顔で受け入れてくれるんだもん」
そらホイホイ釣られますわ。
例えばそう顔を太ももで挟んでくれたのよ。これがまた極楽でねえ。
あの幸せプレスを前にすれば理性なんて夏場のアイスより早く溶けちまうっての。
ああでも、理性があずき●ー並に硬い奴だと分からんな。
けど俺はソフトなんよ、まったりふわふわソフトクリームなんよ。
「やっぱりクズなのでは?」
「違うよ。仮にクズだとしても、それは言うことを聞かない俺の股間がクズなんだ」
股間は重要部位だけどカール・ベルンシュタインの一部でしかない。
総合的に見ればクズじゃない部分の方が多いので俺はクズじゃない。
「はい、証明終了」
ううむ、この見事な論法。
ひょっとしたら俺には論客という道もあったのかもしれない。
ジーニアスな男は進路が多くて困る。
つーかマジでどうすっかな。
いや、分からんでもないよ?
あの子にとっちゃ俺は一筋の光も見えない絶望の中で手を差し伸べてくれた唯一の男だもん。
しかもその男がジーニアスなイケメンとくれば、そりゃ惚れるわ。惚れない方がおかしい。
ただ、今は別に恋愛したいとかそういう気分じゃないんだよなあ。
それに……何か引っ掛かる。
想いが重いのもキツイけど、俺はまだ何かを見落としてるような気がするんだよ。
「何なんだろうなあ」
ああ、考えてもわかんねーや。
つか嘘や隠しごとなんて生きてりゃ誰でもやってるんだし無理に暴き立てるのもな。
俺は藪を突いて蛇を出すような間抜けとは違うんだ。
「よし、プラスに考えようプラスに」
都合の良い女になります、あの言葉に嘘はないように思う。
「何でも付き合ってくれるSSRのフレンド(意味深)が出来た――今はそういうことにしとこう。な?」
「ねえ兄ちゃん」
「ん?」
「僕、兄ちゃんみたいな大人になっちゃダメだと強く実感したよ。ありがとね、反面ティーチャー!!」
そう笑ってクソガキは去って行った。
一瞬、パンツごとズボン剥ぎ取ってブランコに吊るしてやろうと思ったが……止めた。
寛容という言葉の代名詞たるこの俺がそんなことをするわけにはいかない。
「暇だしスラムにでも遊びに行くかあ」
麗らかな日差しを浴びながら午後の公園で読書に勤しむ。
ああ、実に絵になる光景じゃないか。
だが偶にはハメを外すのも悪くはない。
そういう意味でスラムは打ってつけの遊び場だ。
治安は悪いが、俺はあそこがどうにも嫌いになれない。あの渾然とした空気が何か好きなんだよなあ。
「よろしければどうぞー」
「あ、どうも」
スラムへの道すがら、DR教のシスターに呼び止められ一枚のチラシを渡される。
どうやら今度の日曜に教会主催のフリーマーケットが行われるそうだ。
(欲しかったカースをゲットできてたら、寄付がてら金落としに行ってやっても良かったんだがな)
前世で最大勢力を誇っていた宗教はナザレのあの人を救い主とするあの宗教だが、
流石に異世界まで布教の手を伸ばしているということもなく影も形もない。
主神オーディエンスを崇めるDR教、それがこの世界の主流宗教である。
カースを与えてくれるのもオーディエンスなのだが、この神様は兎に角懐が広い。
他宗教の人間だろうが平気でカースをくれてやるのだから驚きだ。
教義も当たり前の倫理道徳を謳っているだけだし、すげえ穏当なんだよな。
だが俺に欲しいカースを与えなかったのは許さん。
なのでシスターさんには申し訳ないがフリマに行くのは遠慮させて頂きます。
「ん?」
スラムの入り口までやって来たところで、ふと足を止める。
一瞬、甘い香り――もっと具体的に言うと散々嗅いだアンヘルの匂いが鼻を擽ったのだ。
だがキョロキョロと周囲を見渡してみても、それらしい姿はどこにもない。
「……気のせいか」
ま、そりゃそうだわな。
貧乏人か血の気の多いアホでもなければ好き好んでこんな場所を訪れるわけがない。
あ、俺は例外な。粗と野にすら風情を見出す風流人だから俺。
帝都の前田慶次とは俺のことよ。
にしてもアンヘルの顔がよぎったせいか、ムラムラしてきたな。
あの日、帰り際に忙しくなるから少し来れなくなると言ってたが次はいつ会えるんだろう?
今度はどんなことしてもらおうかな。
「おい兄ちゃん、ここはアンタみたいなのが来る場所じゃねえんだぜぇ……へへへ」
パイ……――いや、そんな残酷なことはさせられんわ。
腕のない者に溺れそうな人を助けろと言うような趣味は俺にはない。
「ってゴルァ! 無視してんじゃねえぞ!!」
「お、おいアンタ止めとけって。その兄ちゃんは……」
いやだが待てよ。
大きな胸でしか出来ないことを小さな胸の者がやろうとする……それはそれで趣があるのではなかろうか?
こう、何て言うのかな? 利休だよ利休。
奴さんの逸話にこういうものがある。
ある時、時のエテ閤――あれ? 関白だっけ? どうでも良いや。
兎に角秀吉だ秀吉。秀吉に茶会の誘いを送ったのだ。
朝顔が綺麗なので茶会に来ませんか、と。
秀吉は満開の朝顔が咲く庭を眺めながら茶をシバくのはさぞ風流だろうと誘いを承諾。
だが利休のところに向かってみると庭の朝顔は全て切り落とされていたのだ。
テメェ、どういうことだと秀吉が茶室に乗り込むと一輪の美しい朝顔が生けられていたという。
そう、利休はこの一輪を輝かせるために他の朝顔を――――
「おいテメェ! 聞いて……」
「うるせえぇええええええええええええええええええええ!!!!」
誰かの手が肩を掴んだ瞬間、俺は振り向きもせず裏拳を放っていた。
めきょりと嫌な音が響くが俺は気にせず拳を振り抜く。
「カスが! 誰に喧嘩売ったか教えてやるよ!!」
壁に叩き付けられたチンピラの下まで歩み寄り――手刀でパンツごとズボンを切り裂く。
そして遠巻きにこちらを見ている連中に向け、叫ぶ。
「採点の時間だオラァ! テメェら、コイツに何点つける!?」
「やっぱやべーな股間・ザ・リッパー……20点」
「いやそれは流石に厳しくね? 34点」
「いや、あれが勃起したとしても……うーん、28点かな」
「待てよ、70点はくれてやっても良いんじゃないか?」
「ははぁん、お前のサイズと似たりよったりなわけか――22点」
「バッ……ち、ちげーし!!」
「29点。その歳で毛が生えてないバンビがスラムでイキってんなよ」
「24点」
「19点ありゃ良い方だろ」
「流石にそれは21点」
一通り評価を聞き終えた俺は呆然とする男の肩に手を置き最終結果を告げる。
「平均すると29点ぐらいか? 残念だったな赤点くん」
「だ、だ、だ、誰が赤点だァ!!!!」
顔を真っ赤にしてキレるチンピラ。
力関係は理解しただろうに中々骨があるじゃねえか。
股間が根性と連動してたら良かったのにな。
「スラムに来ると、こう……世の無常ってやつを嫌でも実感させられるよな」
「わ、訳わかんねえこと言ってんな! 大体、偉そうに言ってるテメェはどうなんだ!?」
「あぁ!? 誰にもの言ってんだテメェ!!」
上等じゃねえか……!
「だったらとくと見晒せ、これが俺の100点満点だァ!!!!」
勢い良くズボンをズリ下ろし空を抱き締めるように大きく手を広げる。
「で、でけえ……」
「ってか何であの人のアレ元気になってんの?」
「エロいこと考えてる真っ最中だったからだ!!」
「う、うわぁ……アイツ、恥というものを知らないのか……?」
ったく、萎える真似しやがって。
これ以上、赤点に付き合ってても折角の休日が無駄になるだけだと、
そう判断した俺はズボンを穿きその場を後にする。
「やれやれ」
思うにあのチンピラ、流れ者だな。
前からここに根を下ろしてる奴らなら俺を知らないわけがない。
一ヶ月ぐらい前に、ド派手に暴れてド派手に大勢の男の尊厳を奪ってやったからな。
あの事件で俺もスラムの顔の一人に数えられるようになったんだよな。
いや、顔ってよりスラムに出没する妖怪みたいな扱いか――俺、何やってんだろ……。
「あー! カール兄ちゃんじゃん! 遊びに来たの!?」
「カールだカール! お菓子みてえな名前しやがってよー!!」
「カールさん、昼間から働きもせずブラブラしてるのはどうかと思います」
「カール! 俺もカールみたいになりたくて練習してんだけど全然ズボン切れねえぞ!!」
とある一角に足を踏み入れると、沢山のガキどもが俺を迎えた。
やいのやいのと騒がしいガキどもをあしらいつつ近くのゴミ箱に腰を下ろし俺は口を開く。
「おい、誰だ俺の名前を菓子みてえだって言った奴は」
絶対に許さんぞ。
だが俺の憤怒なぞ知らぬとばかりにあしらったガキどもが再度わちゃわちゃと寄ってくる。
あんまり気は乗らないがしょうがない。
相手をしてやらねば、いつまでもこのままだ。
俺は一度深く溜息を吐き、立ち上がる。
「オラァ! 今から鬼ごっこすんぞ!
俺に何かして欲しかったら三十分、逃げ切ってみやがれ! 場所はスラム限定! 百数えるから散れ! 散れ!」
俺がそう叫ぶとガキどもはキャーキャー言いながらこの場から逃げて行った。
が、一人だけ逃げずに残っている者がいた。
「どうした庵、お前も遊んで欲しいんじゃなかったのか?」
少し離れた場所で俺を見つめる、おかっぱ頭の童女に語りかける。
「……私では逃げ切れそうにはありませんから」
「ふむ」
その言い回しからするに、何か願いはあるわけだ。
かなり深刻な表情をしているところを見るに……あー、面倒だな。
面倒だが、あんな顔してるガキを放置するのもなあ。
「――――しゃあない」
前々から訳ありな子だとは思っていたのだ。
俺含めこの国は白色人種ばっかなのに、庵は郷愁を感じさせる黄色人種だもん。
今着ている和服もボロボロではあるが、元はそれなりのもんっぽいしさ。
確実に厄介事だろう。が、話を聞くだけならタダだ。
「庵、鬼ごっこ終わるまで待ってろ。話、聞いてやるよ」
予定では普通に鬼ごっこをするつもりだったが予定変更。許せガキども、また今度だ。
「よろしいの、ですか?」
「ああ。今回だけ特別だ。話聞いてやっから後でパンツ見せてくれよ」
「…………それは、私の気を少しでも楽にしようという冗談ですよね?」
「いやマジだよ」
「…………そうですか」
そうなんです。
半目の庵から視線を外した俺は大声で数を数え始めた。
ガキども、俺の声が聞こえるか?
このカウントが終わった瞬間から、貴様らはこの俺に狩られる憐れな子兎に成り下がるのだ。
「きゅーじゅーきゅー……ひゃぁああああああああああああああああくっ!!」
数え終わると同時に体内に気を巡らせ身体強化を行う。
全身を覆うオーラにパチパチと弾ける紫電、
初めてこの状態になった時はテンションクソ上がりしたが今では慣れたものだ。
――――っし、行くか!!
「オラァ!」
「嘘だろ!?」
「無駄ァ!」
「お、大人げないにもほどがある!」
「ドラァ!」
「わ、わわわ私女の子だよ!?」
スラムはかなり広い。
だが、気を用いたレーダーを使い強化された肉体で走り回ればガキどもの所在など直ぐに割れる。
知らない子供だともう少し手間取っただろうが、幸いにして鬼ごっこに参加していたガキどもは全員顔見知り。
どんな気をしているかはバッチリ覚えている。
結果、五分と経たずに鬼ごっこは終了。
「永遠に見上げ続けろ! あの月と俺をな! ハーッハッハッハッハッハ!!」
「あ、あんな大人げない真似しといて本気で高笑いしてやがる……!」
「信じらんない、あの人……」
「って言うか月なんざ出てねえよ。今昼間じゃん」
「クッソ! カールの癖にカッコ良い……!!」
「え?」
「じゃあなガキども! 時間があればまた後で遊んでやらあ!」
「わわ!?」
庵を抱きかかえ、壁面を蹴り付けて建物の屋上へと躍り出る。
深刻な話だろうから気を利かせたのだ。
こういう細かな気遣いがモテる秘訣なんだよな。
「なあ?」
「……き、気を遣うなら……も、もうちょっと優しく……」
「あ、悪い」
「まったく……でも、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる庵。
小学校五、六年ぐらいの年齢だろうにしっかりしてるよな。
俺がこれぐらいの時分は迸るような馬鹿だった気がする、前世も今世も。
「良いよ。それで、何なんだ?」
「カールさんは……一ヶ月後に行われる天覧試合のことを知っていますか?」
「まあ、一応」
帝国は世界最大の魔法国家である。
皇帝からして皇族の中で最も強大な魔力を持ち、最も巧みに魔法が操れる者ってのが即位の条件だしな。
そんなだから魔法関連のイベントが兎に角多い。
魔法の腕を競ったり研究発表会だったりが頻繁に行われていて、
肉弾戦闘をメインとする者が主役を張る機会がどうにも少ない。
その数少ない機会の一つが今庵が口にした天覧試合である。
これは魔法が絡まない純粋なる武の大会で、皇帝やら他の皇族も観戦に来る一大イベントだ。
栄達を願う者。
天下に己の力を示したい者。
純粋に己を試したい者。
様々な目的を胸に秘めた武芸者たちが集う武の祭典、俺も興味がないわけではない。
一応、格闘家の端くれだしな。
ただなー、チケットがなー、取れそうにないんだよなあ。
俺じゃチケット取れても精々、来週から始まる予選のどれかだろう。
「しかし天覧試合がどうしたよ?」
「……」
「庵?」
無言で俯く庵。
無理に聞き出せる空気でもなくどうしたものかと迷っていたが、
少し間を置いてから庵は意を決したように顔を上げ口を開いた。
「――――仇」
…………え?
「私の母様を殺した憎き男が天覧試合に出場するのです」
え、あの……ちょ……。
「本当はこの手で八つ裂きにしてやりたい……!」
待って、待って。
「……ですが、私は明日の糧すら満足に得られぬ矮小な小娘」
予想外、予想外だってこれ。
ここまで重い話題は想定してなかった。
ちょっと、どうリアクションすれば良いか分からないんですけど。
「この命を賭しても傷一つつけられないでしょう」
噛み締めた唇から紅い血が流れる。
詳細を知らぬ俺にすら伝わる口惜しさ、その胸中はいかなものか。
いや、ホント分からないんで勘弁してください。
どうするの? どうすりゃ良いの? 空気的に逃げ出すわけにもいかねえしよォ!?
ってかさ、ってかさ。これ、話の流れ的に――――
「……俺に代わりにそいつを殺して欲しいとかそういうあれ?」
「……」
何か言ってよ!?
いや、確かに試合中なら殺っても問題ないだろうけどさ!
でも、そいつ天覧試合に出場するんだろ?
無数の猛者を退け天覧試合に出られる実力とか……ちょっと、手に負えないです。
「…………貧民窟の小娘には、頼れる伝手などありません」
「私にとって、頼れるのはカールさん……しか……いないのです……」
「無茶なことを言っていることも、カールさんに話を受ける義理がないことも百も承知」
「でも、でも……!」
〈どうか、どうか出場すると”だけ”言ってくださいませ!!〉
堪え切れず零れ出た涙が地面を濡らす。
今にも崩れ落ちてしまいそうなのに、それでも庵は膝を折らない。
その健気な姿を見ていると俺の胸に宿る正義の心が疼かないでもないが……。
(俺、こういうの苦手なんだよなあ)
ジーニアスでパーフェクトに近い俺だが、そんな俺にも弱点があるのだ。
何て言うのかなあ。
怒りであれ、憎しみであれ、哀しみであれ、他人だけを理由にすると最後まで持続しないんだよ。
最初はやってやらぁ! って思っても、途中で何かもう良いや……ってなるのだ。
「願いを聞き届けて頂けるのであれば私の全てをカールさんに捧げま――――」
「やる」
「え」
「やります。やらせて頂きます」
小汚いので分かり難いが庵はかなりレベルの高い美ロリだ。
真っ当な手段じゃ人生何週してもこんなロリにだよ?
全てを捧げるとか言われたらそりゃ……ねえ?
「任せろ、庵の母さん殺したクズ野郎は俺が地獄にボッシュートしてやる」
いや、事情知らないから一概にクズとは言えんけどさ。
庵の味方をすると決めたのなら、実際はどうであれクズってことにしとこう。
後腐れなく殺るためにもその方が良い。
「あ、あのぅ……」
「安心しろ。流石に今直ぐにとは言わねえよ。
俺がキッチリ殺ったのを確認してからで構わない。
ただし! 前払いってことで俺のことはこれから兄様と呼んでくれい!!」
「い、いえ……そうではなくてですね……」
「ん?」
「自分で言っておいて何ですが……私、数えで十二の子供ですよ?
その、カールさんは……そういう情を抱けるのでしょうか? 相応の年齢までは普通に丁稚か何かとして……」
「全然イケるわ。ってか、むしろそれが良い」
だって俺、ロリコンだし。
いや、正確にはロリにも並々ならぬ情熱を注げるタイプ――かな?
七つの性癖の一つに列席してるからな、ロリコン。
ああ、これならいける。最後までモチベを維持できるだろうて。
これぞ正に性癖に火をつけて! ってか、ウワハハハハハハ!!
「ほ、本気です……この方、本気の目をしています……!
義侠心とかそういうものは遥か彼方に追いやって純然たる下心で意気を燃やしています……!!」
問題はどうやって殺るかだな。
いや、それ以前に予選突破しなきゃ意味ないか。
予選開始までの一週間。日課の軽い鍛錬じゃなく、本腰入れて修行するかな。
どこまでやれるかは分からんが、二つの意味でやると決めた以上、出来る限りを尽くそうではないか。
「庵、仇の情報やらは予選を突破してから教えてくれや。今は予選突破に集中したい」
「は、はあ」
「それとガキどもに忙しくなったから遊べなくなったって伝えてくれ! そんじゃあばよ!!」
「あ、ちょ……か、カールさーん!?」
庵に別れを告げ、屋上を飛び出す。
とりあえず帝都の外に出てモンスター相手に技の確認でもするか。
あんま真剣にやってなかったけど殺しに使えそうな技も幾らかあるしな。
問題はジジイと違って俺のは実用に耐えないことだが……いや、それは後だ。
まずは技の確認をしつつ、実用段階にまで持ってけるかどうかを試してみよう。
やる前から無理なんて諦めるのは男のするこっちゃねえぜ!
「――――あれ、カールくん?」
スラムの入り口を飛び出たところで聞き覚えのある声が。
咄嗟に足を止め振り返ると、日傘を差したアンヘルが俺を見つめていた。
「あ、アンヘル……こんなとこで何を?」
「私? 散歩してたの。カールくんは? 気のせいか少し殺気だってるように見えるけど」
おっと、自覚はなかったが俺は殺気だってたのか。
燃える正義の心が溢れ出ていたようだ。反省反省。
拳士たる者、拳は熱く、心は冷たくを心がけねばな。
「怖がらせたか、悪いな」
「ううん、大丈夫。それより何かあったの?」
「あー……ちょっと天覧試合への出場を目指すことになったんだ、義によってな。
そんで今から修行がてら帝都の外に出てモンスターでもブン殴ろうかなって」
本当は人間で実験するのが一番確実なんだけどな。
でも、未熟とはいえ万が一もあるし殺し技は打てん。
そもそも肉体の構造が人のそれと異なるモンスターに通じるのか不安だが、
こればっかりは試してみないと何とも言えんしまずは行動あるのみだ。
「そっか」
「ああ、そういうわけだから俺はこ――――」
「そういうことなら手伝おうか?」
笑顔でそう提案するアンヘル。
いや……いやいやいや、流石に都合の良い女になるって言っても限度あるだろ。
俺が女の子をサンドバッグにするような鬼畜野郎にでも見えたのか?
「ううん、そうじゃなくて」
ふるふると首を振りアンヘルは俺の言葉を否定した。
そしてほんの少し躊躇いつつ、こう続ける。
「気付いてるかもしれないけど、私、ちょっと良いところのお嬢様なんだ」
だろうな。
何気ない所作にも品があるし、何よりアンヘルの身に降りかかった悲劇だ。
無差別な悪意の犠牲になったとは考え難い。
狙われるに足る立場にあったことはまず間違いないだろう。
何よりあれだ。アンヘルが自身の身に降りかかったことを把握していて、
尚且つ口封じや幽閉もされずある程度自由に動き回れる時点で普通じゃない。
だって、よくよく考えれば精神寄生体や人格を生成する魔法とか国家機密レベルだろ。
有用ではあるが倫理的に完全にアウトだもん。
もしアンヘルが庶民や、木っ端貴族の娘ならばだ。
国はモルモットにするか幽閉するか秘密裏に処分するだろ普通。
国は把握していない? あり得ない。
ならどうやってアンヘルの家族は娘を救おうとしたのか。
非合法な組織を頼ったという線もなくはないが……可能性は低い。
諸々の状況証拠だけでもアンヘルが普通の家の生まれじゃないことは推測できる。
大方、有力な大貴族の娘ってとこだろう。
ん? そんな娘に手を出して大丈夫なのかって? 問題ない、多分大丈夫だ。
それにも根拠はあるのだが……ま、今は置いておこう。
しかしそんなお嬢様なアンヘルが一体何をしてくれると言うのだろうか?
「私、こんなもの持ってるんだ」
そう言ってどこからともなく取り出したのは鎖がジャラジャラ撒き付いた分厚い本。
何か見るからに曰くつきって感じなんだが……。
「この魔道書には沢山のモンスターが封じられていて、尚且つそれを使役することができるの」
「……ほう」
それはそれは、野良モンスターを使わなくて済むってことか。
安全なサンドバッグを確保できるのは大きいな。
「あと、鍛錬するなら強い人と手合わせをした方が良いと思うんだ」
「道理だな。……ひょっとして心当たりが?」
「うん。飛びっきりの人がね」
「ふむ」
そういうことならアンヘルにも協力してもらおうではないか。
出来ることは何でもする、その言葉に偽りはない。
(俺は義のためにも負けるわけにはいかんのだ)




