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復讐を果たして死んだけど転生したので今度こそ幸せになる  作者: クロッチ
第二部 葦原動乱

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天下統一⑦

1.西国平定


 毛利、大友の西国内ゲバ祭りには介入せず静観していた久秀と合流したカールは事情を説明し隆元が当主を務める毛利家。

 暫定的に正統毛利家と呼称すると協調路線を取るように指示を出した。

 気分でポンポン方針転換をされても下の人間は困るのが常だが久秀は一切疑問を挟まず即座に動いた。

 それが八俣遠呂智討伐に繋がるとカールを信じ切っているからだ。


『とりあえず殿下は隆元殿と毛利家に向かって崖っぷちに居る彼らの士気を回復させてあげてください』

『分かった。他には?』

『特には。息を吹き返した毛利の次男三男ならこちらの動きに勝手に合わせてくれるでしょうし』


 実際、その通りになった。

 士気が回復するや戦上手の元春と知略に長けた隆景は久秀が元就陣営に仕掛けた数々の嫌がらせに連動。父元就を苛烈に攻め立て始める。

 どれだけの戦上手、謀り上手であろうとも状況は最悪の一言。

 元就陣営はあっという間に追い詰められて行き最後には裸の王様だけが残った。


『パターン入ってんなコレ』


 そしてその王様も特撮のお約束を違えることはなく将軍(ヒーロー)に討たれ悪の毛利家は滅びた。

 正統毛利家への沙汰は後々下すことにして今度は大友討伐やなと準備を整えていたのだが、ここで予想外の事態が起きる。

 宗麟の子を浚い、それを神輿に重臣と共に反乱を起こした立花道雪が島津に龍造寺の領土を手土産に降ったのだ。

 報告を聞いたカールは本当に意味が分からなくなった。


『…………ん、んんん?』


 改めて経緯を説明するとしよう。

 先にも述べた通り大友家の重臣立花道雪は宗麟に見切りをつけ大友家を真っ二つに割った。

 ここまでは隆元らと同じだが、ここからが違っていたのだ。

 外から見れば毛利家と同じく泥沼の内戦状態に突入しているように思えたが……よくよく考えればおかしい。

 立花道雪は智勇兼ね備えた歴戦の将である。それこそ現段階では毛利三兄弟ではどうにも出来ないような怪物だ。

 そんな怪物が何故、反乱以外のアクションを起こしていなかったのか。

 老獪な交渉で大友家存続を勝ち取れる可能性は十分にあったはずなのに何故隆元のように、カールに直接会おうとしなかったのか。

 実際、カールは道雪が直接出向いて存続を願い出ていたら隆元の時とは違い二つ返事で許可を出していただろう。

 島津攻略の際、義久から頼りになる男と聞かされていたからだ。


 だが道雪は本拠地を離れることはなかった。

 カールが起こした波があまりにも大きく、その影響は前代未聞。流石の道雪もやることが多過ぎて手いっぱい。

 直ぐにはカールの下には出向けないのだろうと、誰もが勘違いしていた。

 カールのブレーンを務める者を浅薄とは謗れまい。

 何せ道雪自身がそう勘違いするよう巧妙に新生大友家の舵を切っていたのだから。

 そう、道雪はより良い条件で大友家を存続させるために謀を巡らせていたのだ。


 堂々と錦の御旗を掲げられるようになった島津家は外交と戦争でドンドン勢力を拡大させていった。

 だが、龍造寺と事を構える段になってピタリと動きを止める。

 勝算がなかったわけではない。戦えば相応の被害は出たが勝利を収め龍造寺を降伏させることが出来たはずだ。

 御家を優先すればそっちの方が旨味が良いのにそれを選ばなかったのは何故か。

 義久が――否、島津家がカールへの忠義を優先したからだ。

 八俣遠呂智との戦いを見据えれば島津家の被害は少ない方が良いし、頼もしい味方となるであろう龍造寺も同じ。

 天下の趨勢が決まった後で顔を立てる意味でプロレス気味に一戦交えて従属させるのが一番。

 ゆえに島津家は北進を止め、内政に力を入れだしたのだ。


 が、事情を知らない龍造寺からすれば義久の行動は訳が分からない。

 天下の流れはカールにあり。これは最早、覆らない。

 将軍が自ら口説いたという島津になら降伏しても面子は立つだろうし大きな一戦交えた後で降って口利きしてもらおう。

 そう考えていただけに島津の静観は予想外だった。

 かと言って龍造寺から仕掛けるわけにもいかず、奇妙な睨み合いが始まった。

 とは言え何時までも睨み合っていれば機を逃してしまう。

 自分達を味方にしたいと考えていることなど知らぬ龍造寺は秘密裏の交渉を決断。

 当主隆信は右腕である鍋島直茂と島津の本拠地へ向かう。


 ――――道雪はその瞬間(とき)を狙っていたのだ。


 朝敵認定が発せられた前後で将軍カールが島津家を口説き落とした武勇伝も広まった。

 家中が朝敵認定で混乱する中、道雪だけはその噂に着目し出所を調べさせた。

 すると噂を流しているのはどうも、義久と義弘っぽい。


『……ともすれば島津が馬鹿にされかねん噂だと言うに、よっぽど惚れ込んでおるようじゃな』


 同時に疑問を抱く。何故、島津を口説いた?

 一番最初というわけではないだろうが優先順位は高かったと見て良い。何故?

 武勇伝の内容は実に痛快だ。男子たる者、こうでなくては! と思わせるようなものだ。

 が、上に立つ者がやるようなことではない。一武家の長ならともかくカールは征夷大将軍、以ての外である。


『話を盛った……? いや違う。大勢の目撃者もある本願寺での大立ち回りを見れば、彼の男はやってのけよう』


 周りは何故、止めなかった? それが必要だと判断したからではないか? 何故そうまでして島津を?

 将軍は味方を欲している。それもただの味方ではない。惚れさせれば決して裏切らない頼りになる飛び切り“イカレ”た味方だ。

 そういう意味ではなるほど、島津家は打ってつけだ。では何のために?

 天下統一のため、ではないだろう。そのためだとすれば単純に島津の立地が悪い。

 天下統一の意思はあるだろう。それはあんなやり方で大義を示したことからも間違いはない。ならば島津の力が必要になるのはその先か。


『外国との戦? いや違う。だが……ああ、そうか。そういうことか』


 天下統一の先にある戦いなんてそれこそ外国との戦ぐらいしか思いつきはしない。

 しかし、それはないだろう。だが、葦原にとって重大な戦いであるのは間違いない。

 だからカールは帝の御墨付きを得られたのだ。

 道雪の推測は当たっている。ただ、やはり彼もと言うべきか。天下統一の先にある戦についてまでは思い至らない。

 邪神の走狗などという情報が明かされているにも関わらず、だ。

 だが無理もない。そもそもからして神仏と事を構えるという発想が存在しないのだ。例えそれが邪なる神であろうとも。

 神仏の存在を信じていないか、信じているがゆえか。人の身で神を殺すという考えは異端のそれだ。

 とは言え、事情を知れば道雪も賛同を示すだろう。勝ち目のない戦であれば話は別だが。


『と、なれば……ふむ。宗麟様はもうどうにもならぬが、儂は生かされような。大友の存続も成るだろう』


 直接の面識はないが今ある情報から読み取れる人柄だけでも、カールは自分好みの漢だ。

 そしてカールもこちらを好いてくれるだろう。良い関係を築けそうだ。

 しかし、


『それでは面白くない。どうせならば高く買ってもらわねばな』


 島津を基点とした九州の動きを予想し、それを利用して如何に自分達を高く買ってもらうか。

 そこに方針を定めた道雪はそれを悟られないよう細心の注意を払い、機を待った。

 そして龍造寺隆信が膠着状態に焦れて動き出すタイミングで、遂に牙を剥いたのだ。

 龍造寺もまったく警戒をしていなかったわけではない。とは言え、内乱で他勢力への侵攻の余裕などないだろうと油断していたのも事実。

 道雪からすればそこが狙い目だった。

 自分達の本拠地さえも打ち捨てて龍造寺攻めに全リソースを注いでの電撃戦。

 留守を任されていた龍造寺の家臣達では対処が仕切れず本拠地を始めとして領土の半分を奪われてしまう。

 これは彼らが無能だったわけではない。敵にはもう後がないのだ。

 一兵に至るまで死兵と化した軍を道雪が率いて攻め込んで来たのだ。隆信と直茂が不在のままで凌ぎ切れるわけがない。

 そして本拠地を陥落させると同時に、大々的に島津家への降伏を宣言。


『…………やりやがったあの爺』


 報せを聞いた義久がそう呟いたのも無理もない。

 道雪のイヤらしいところは領土と捕虜とした家臣らを“全て”島津家に献上すると言ったところにある。

 今ならば龍造寺を攻めても最小限の被害で勝てるだろう。

 が、それ以上に上手いやり方も出来る。そっくりそのまま隆信に返してやれば良いのだ。

 そうすることで島津は龍造寺に恩が売れるし一戦も交えず龍造寺を従属させられる。

 何せ戦って奪い返したならともかく無条件で領土を返されておきながら牙を剥くなどすればどうなる?

 ただでさえ道雪の奇襲で落ちた名が更に落ちてしまう。

 となれば龍造寺としては従属するしかない。


 無論、独力で奪い返すという選択もなくはないがその場合は島津が道雪の降伏を蹴るという前提が必要になる。

 降伏を受け入れたのならば道雪は既に島津の家臣。

 そこに噛み付くというのであれば島津と敵対するということでもある。

 元々一戦交えるつもりではあったのだし問題ないのではと思うかもしれないが、そんなことはない。

 言い方は悪いが龍造寺が領土を奪われたのは彼らが間抜けだったからだ。

 道雪が半端ねえ奴だから出来たことではあるが今は乱世。してやられる方が悪いのだ。

 そんな間抜けが噛み付いておきながら降伏する――滑稽にもほどがあるだろう。

 領土も減るし名声も下がる、良いとこなしだ。じゃあ徹底抗戦? 勝ち目が皆無なのに?

 理想は島津が道雪の降伏を蹴って、龍造寺が独力で領土を奪い返すことだが……それでは島津には旨味がない。

 労せず龍造寺を従属させられる選択があるのに、それを選ばない理由はないだろう。


『こうも見事にしてやられると悔しさを通り越して笑えて来るな』


 義久は道雪の降伏を受け入れると同時に隆信、道雪との三者会談を提案。

 その席で隆信は苦い顔をしながらも島津家の従属を申し出たことで九州統一が成った。

 とは言え先々のことを考えるなら隆信に何のフォローを入れないのはよろしくない。


『……此度のこと、何と言えば良いか分からぬが安心されよ。必ず名誉挽回の機は訪れる。この義久の首に懸けて保証しよう』


 隆信としても道雪に思うところはあった。

 だが義久にここまで言わせておきながら駄々を捏ねるのはあまりにも情けなさ過ぎる。

 義久の厚情に謝意を述べ、何もかもを飲み込むことを決めた。


 ともあれ、これで残る邪魔者は宗麟率いる大友家のみ。

 義久は直ぐさまカールに文を飛ばし挟撃して一気呵成に片付けてしまおうと提案しカールはそれを快諾。

 顛末は語るまでもないだろう。戦争には負けたし怪人に変身して個人の戦いに持ち込んでもヒーローには勝てず大友家は滅びた。

 そして、


「失礼致します。普通ならここで戦勝を祝う言葉でも送るところですが、殿下には無用で御座いますね」

「おう。こんなん殆ど作業だからな。それより義久よ。後ろの二人が?」

「ええ」


 義久に促され前に出た二人が膝を突き口を開く。


「龍造寺隆信に御座います。拝謁の栄誉に賜り光栄の極み」

「立花道雪に御座る。殿下の御慈悲に深い感謝を」

「堅苦しいのはなしにしようや。楽にしてくれ」

「いや、それは……」

「公の場じゃねえんだ。気にするこたぁねえよ」

「では、お言葉に甘えて」


 戸惑う隆信とは対照的に道雪はあっさり空気を弛緩させ立ち上がる。

 と、同時に流れるような動きで刀を抜き放ちカールの首筋にその切っ先を押し当てた。

 傍に控えていた久秀ですら反応出来ない電光石火の業。

 一気に緊張が高まるものの白刃に首を晒すカールは実に暢気なもので、へらへらと薄ら笑いを浮かべている。


「見たいか」

「そりゃあのう」

「で、殿下……な、何を……」

「カッツ、この爺様は異人の小僧がどれほどのもんか知りたいんだってよ」


 腕が立つとかそういうことではない。

 カール・ベルンシュタインという人間を見たいと言っているのだ。


(さて、どうしたもんかね)


 エロさを見せようにもこの場に居る女は久秀だけ。

 公衆の面前でセクハラをするのは流石に申し訳ない。

 人間を測るのならば喜怒哀楽を見るのが一番だが喜と楽はこの場で示せそうにはない。

 ならば、答えは一つだ。

 カールはかつての仇敵を脳裏に思い浮かべ眠りについた“怒り”を叩き起こす。

 復讐を果たし区切りをつけ新たな道を歩き出し幸せを得ようとも抱いた憎悪をなかったことには出来ないのだ。


「どうした? 震えてるぜ」

「ッ……!!」


 カタカタと揺れる切っ先にそっと手をそえ、微笑むカール。

 しかし、道雪にはまったく別のものが見えていた――炎だ。

 地獄のそれも生ぬるい漆黒の業火が人の形を取っているようにしか見えないのだ。


「十分みたいだな」


 脳内に裸エプロンのアンヘルを思い浮かべ憎悪を眠らせ軽い興奮と共に刃を圧し折る。

 カールは今、とてもむらむらしていた。


「どうだい?」

「…………十分に御座います。ええ、担ぐ神輿に不足はないと理解し申した」

「そっか。俺からすりゃケツの穴晒すより恥ずかしいことだからな。満足してくれて何よりだよ」


 これにて西国は平定され、残る敵は北条家のみとなった。

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[一言] この流れで カールは今、とてもむらむらしていた。 となるのは何故なのか。 そこに痺れる!
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