出会
特に何もすることも無く、1週間が経った。
「1週間経ったが、何かあったか?」
「いや、何も無いよ。この部屋個室だから特に話す相手もいないし」
「そうか。じゃあすぐにここを離れられるな。荷物は用意してある。着替えてここを出るぞ」
明智が差し出したリュックサックの中には女子高生が着てそうなカジュアルな服が入っていた。
(今の俺は女だったな…。ベッドから動くこともなかったから鏡見てないけど、JKみたいな見た目なのか…?)
リュックサックを渡した明智が退室した。ここで着替えろってことか。
目で見ただけでは少し大きく感じたが、着てみると身体にフィットし、とても動きやすかった。
(素材が割と丈夫な感じなんだな。まあ警察が用意するような物だから防弾チョッキみたいな素材でも使ってんのかな)
着替え終わり、病室の外にいる明智に声をかけた。
「どう?」
「…まあ似合ってるんじゃないか?サイズは目測で持ってきたから、合うかどうか心配だったが、大丈夫だったようだな」
服が身体に合わせているような感覚だったから大きさでも変わるんだろう。
「支度が済んだらさっさと行くぞ。12時までには着いておきたい」
「行くって…どこに」
その俺の言葉を聞いた明智はニヤリと笑い、こう言った。
「お前の仲間のところさ」
病院の駐車場に停めてあった黒いGT-Rに俺たちは乗った。明智が運転をするらしい。
(GT-R…異世界じゃなさそうだな…。てことはそのまま場所だけ移動しただけか、それともタイムスリップしただけか…)
病室内にも少し近未来的な物は多々あった。壊すのが怖いから手は出さなかったが、そういった点から予測するに、俺がいた時代よりも未来なのだろう。
駐車場から出ると、ビルが建ち並ぶ都会に出た。カーナビには『日本 東京都 千代田区』と表示されていた。
(千代田…。俺が死んだところとあまり変わらないな。と言うよりまさにここだった)
「お前がどの時代から来たのか分からないが、およそこの辺に縁があることはわかった」
運転席から声が聞こえてきた。なぜ分かった?
「さっき通った通りでお前、目を背けただろ。多分そこで何か嫌なことでもあったんだろう」
目を…背けた…?ああ、多分俺が死んだところを通ったんだろう。無意識のうちの行動だったのか。
「ああ。あそこでわたしは…俺は死んだ」
「前から思ってたんだが、『俺』ってよく言ってるが、前世では男だったのか?」
「まあそうだ。まさか女の身体に入れられるとは思ってもなかった。今は矯正しようと『わたし』ってのを使うようにしてる」
運転席からは返答がなかった。余計な情報は必要ないということだろうか。
しばらくすると、とある建物に車を入れた。目的地なのだろう。車は地下へと進んでいき、数十秒すると前に進んだ。車1台が丁度ぴったり入るような構造だ。どうやって出るんだ?
「ここが目的地だ。『解錠』」
明智がそう叫ぶと、壁に青い線が入り、壁が後退して行った。
「すごいシステムだな」
「俺の声紋に反応している。どこで感知してるかわからんが、どこかにセンサーがあって、特定の言葉を発すると、あのようにドアが現れる」
指をさした方向には確かに扉があった。出るためのものだろう。
「さ、行くぞ」
扉の横には3×4の0~9の数字と"Delete"と"Enter"が表示されているホログラムのようなものがあった。
明智がそれに触れると扉に赤い*が6つ表示され、それらが青く光ると鍵が開いた音がした。
「めちゃくちゃかっこいいじゃないか」
「一昔前では考えられないような技術だろう。これが我が国の技術の進展だ」
成人しているが、少年の心は持っている。かっこいいものを見ると興奮するのは必然だ。
無限に続くんじゃないだろうかと思うほど長い廊下を歩いていると、終着点に先ほどの扉とは打って変わって年季の入った扉が見えた。
「ここが目的の場所だ」
「あれ、そういえば警察署じゃないのか?」
「まあ、そうだな」
扉を開けると、よくある探偵事務所のような見た目の部屋がそこにはあった。
「探偵…?」
「よう、新人連れてきたぞ」
くつろいでいた4人の男女に声をかけた。
「新人…?」
死んだ紅い目の白髪の少女。
「おわっ!そんな可愛い娘どこで!?」
黒髪ショートの健康的な見た目の少年。わたしを見て驚いているらしい。
「黙れシゲヤス。美少女に反応するな」
明智と同じスーツを見に纏ったポニーテールの女性。少年を咎める。
「まあまあ、人の好みはそれぞれだからさ」
優しい目のメガネの男性。2人をなだめている。
「この人たちは…?」
「紹介するよ。彼らは…」
明智が紹介するよりも早く、俺の手を掴んできた者がいた。先程の少年だ。
「オレ、大隈重保!よろしく!」
「あ、ああ…」
「チッ、退け重保。邪魔だ」
「酷いなぁ、明智さん。若い者同士仲良くしようとしてるだけじゃないか」
明智の肩を叩き、元の場所に戻った。
「仕切り直しだ。…さっきの彼は大隈重保。見た目と中身の年齢や性別は同じだ。君とは違うな」
「へえ…」
ポニーテールの女性がそう息を吐いた。
「なら、私と同じだな」
「ああ。そうだな。まあ年齢は違うけどな」
「そうなのか」
「彼女は細川阿頼耶。見た目は女だが、中身は男だ。精神が異性にあまり興味がなくて助かった」
「語弊があるな、その言い方では。同性にも興味が無い。恋愛対象としては、だな」
アラヤが補足した。LGBTだとは思われたくないらしい。そうであっても、別にいいと思うけど。
「で、そこのメガネは織田信薙。優しいから気軽に接していいと思うぞ」
「紹介にあずかりました、織田です。『器』も中身も同じ年齢性別だよ。よろしく」
手を出して握手を求めてきたから、手を握り返し、腕を降った。
ずっとニコニコしてるのが少し怖い。
「で、最後がミカエラだ」
白髪の少女が俺の前に立った。鼻と鼻が触れ合いそうだ。
「ななななな…!!!」
「あなたは…悪い人じゃない…。わたしはミカエラ・イヴ・トバルカイン。ミカエラでもミカでもイヴでも、呼び方はなんでもいいよ」
目に光がないが、感情の起伏が激しい娘だ。
「じ、じゃあミカ。よろしく」
「彼女は特殊でな、別の世界から来たってわけでも、別の時代から来たってわけでもなく、元からこんな感じなんだ」
「じゃあなんでここに?」
「まあそれは後だ。君の紹介をしなければな」
そうだった。俺自身の紹介をされていない。
「こいつは坂本龍華。度々言っているように中身と見た目の年齢と性別が違う。だから誰とでも仲良くなれるんじゃないか?」
「いや中身割とおっさんだからミカと話すのはキツいかもしれないよ」
腕を振って否定する。見た目がかわいくても、中身は30代のおっさんだ。女性に話しかけるとセクハラだとかになる時代を生きていたから、女性にはあまり慣れていない。
「どうであっても、最終的には仲良くしてもらうから…。もらわなければならないから、精進しろよ」
明智はそう言うと部屋の外に出ていこうとした。
「どこに行くんだ?」
「警察の本部から呼び出しだ。今が13:30だから…7時くらいにはここに戻ってくるよ」
扉が閉まり、中には先程の4人と俺だけが残された。
「龍華ちゃん」
中身が男だと知ってもなおちゃん付けをしてくるのは重保だ。
「なんだよ重保」
「おっと冷たい反応。まあいいや。龍華ちゃんはオレ達がどんな集団なのか聞いているかい?」
「は?わたしと同じようなこの時空の存在じゃない奴らなんじゃないの?」
ミカ以外の3人が目を合わせた。ミカはソファで寝ている。
「やっぱり、知らずについてきたんだな」
次に口を開いたのは窓辺でタバコを吸っていたアラヤだ。
「あの野郎、新しい奴を拾ってくる時はちゃんと説明しろと再三言っていたはずだろう。…チッ。私達はとある集団と戦闘を繰り広げる、戦闘集団だ」