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未来の世にて  作者: 斬緋藍染
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精神移植

「なあ工藤」

「なんです?先輩」

 蝉の鳴き声がさんざめく夏の暑い日、俺は営業に出ていた。

「お前、神って信じるか?」

「かみ…って神様ですか」

「ああ、そうだ」

「なんでそんなこと聞くんですか」

「いや、ちょっとな」

 昨日、宗教の勧誘があった。神は信じますか〜とかなんとか言い始めて、そう言えば神っているのか?と考えてしまったのだ。

「神様ですか…。いたらいいですよね」

「へえ。なんで?」

「なんでって…言われたら、そうですね。いい事をしてたら救われそうじゃないですか」

 ま、そうだよな。神がいようといなかろうと善行をするのは人として当然のことだが、それが理由になってでも善行をしようと思うのは良い事だ。

「そう言う先輩はどうなんですか?」

「俺か?俺はだな…」

 勧誘があってから考えはしたが、結局結論は出なかった。

「どっちかと言うと信じてる側なのかなぁ…?」

「なんですか、その答え…」

「いやぁ、俺もよく分からなくてさ。俺も子どもの頃は信じてたよ。でも今になっているのかいないのかって聞かれたら、うーんってなるかな」

「ま、どちらにせよ、信じてた方がいいと思いますよ。ないよりあった方が大体のものは得するじゃないですか」

 そうだな。金も権力も愛情も…。無いよりはあった方がいい。…最後に関しては無かったら悲しいが。

「俺もこれからは信じるようにするかなぁ…」

 宗教には入らんが。

 そんなことを話していると、目の前からナイフを持った男が走ってきた。

 うわ…面倒くさ…。どうせあれだろ?ライトノベルとかの主人公ならここで刺されて異世界に転生みたいなやつだろ?やだやだ。俺はそんなのごめんだ。物語の主人公になんかなるつもりは無い。

 そんなことを思いつつ、男の手を見るとバッグを持っているようだ。あんな巨躯の男には縁がないような女物。おそらく引ったくりだろう。

「チッ、引ったくりかよ。せっかくの機会だ。さっき話した神サマに見てもらえるようにヒーローになってくるか…」

 と、思うのは父親が警官だったからとかいういらない情報を入れてみよう。

 男は全速力で俺に向かってくる。ナイフの先は俺の腹を狙っている。

 殺す気はないのか。その程度の覚悟なんだったら犯罪なんかしなきゃいいのに。

 腰を屈め、受け止める準備をする。多少のケガなら大丈夫だろう。

 直後、突進してきた男を受け止めることが出来た。

 が、ナイフは腰を屈めたせいで胸を貫いている。それも不幸なことに左側を。

「うぁぁぁァァ!!」

「せ、先輩!!」

「工藤!そいつを押さえろ…!」

「は、はい!」

 工藤が倒れ込んでいる男の頭を押さえつけた。

 近くに交番があったことが不幸中の幸いと言ったところだろうか。すぐに男は確保され、連れていかれた。

 しかし――

「先輩!先輩!」

「あぁ…多少は…大丈夫だと…思ってたんだが…無理だったか…」

「もう喋らないでください!いま救急車が来ますから!」

 どうせ助からないよ…。死ぬ前に善い行いが出来て良かった。これで、神も俺を見捨てないでくれるだろう…。


『楽観的だな、貴様は』

 薄れゆく意識の中、そのような声が聞こえてきた。

『1度きりの善行でなにが見捨てないでくれるだろうだ。図々しいにも程がある』

「誰だ…」

『私が誰かだと?貴様らが神として崇めるものだ』

 神…。かなりタイムリーだな。

 目の前(今の俺は精神のみの存在だから目などは無いが、意識を向けている方向という表現で使わせてもらう)には、巨大な人型のモノがいた。

『しかし、貴様の過去を探るに善行をしたのはこれが最初じゃないらしいな。これは13歳の頃か。踏切で蹲っている老婆を外へと案内。ハッ。この老婆はその3ヶ月後に死んでいる。死期を多少遅らせただけに留まったな』

「だが、電車が停止して遅延することを防いだだろ」

『ほう。貴様は電車が止まってしまうからこの老婆を助けたというのか?違うだろ?老婆が危険だと思ったから助けたのだろう?遅延を防いだのは結果論でしかない。これだから人間は。楽観的に捉えすぎなのだよ。貴様らは』

 なんという神だろう。こんな奴を崇めていたとは…。みんながみんなこういう奴では無いのだろうが、運が悪かったな…。

『…まあいい。先程の刃物野郎に比べれば数億倍も善い人間だ。よって救済してやろう』

「本当か!」

『残念ながら、貴様の肉体は既に貴様の精神を受け入れる器を崩壊させた。故に、元の世界に戻ることはできない』

 そんな…。じゃあ、本当に…。

『転生だ。いや、意識だけを植え付けるのだから移植と言うべきか。まあそういうことだ。すぐに始めるから何かお前の後輩と思しき奴に言い残したいのならすぐに行ってこい。それを言うだけなら崩壊までに間に合う』

 そう言って神は俺の身体を投げ飛ばし、肉体へと戻した。


「うっ…あ…」

「先輩!」

「工藤…すまないが、俺はここまでだ」

「なんてことを言うんですか!!」

「最後に…妻や娘…俺に関わってきた人みんなに…愛していると…伝えてくれ…。もちろん、お前も…」

 意識が再び途絶えた。

 ホモではない。死ぬシーンなのだ。多少痛い言葉を言ってもいいだろう。


『貴様…男色か…?』

「違うわ!」

 思っていた通りの事を言われた。

『それはさておき、器が用意出来た』

「どんな器…肉体なんだ?」

『それは移ってからの楽しみにしておけ。器に入ればそいつの情報は全て流れ込んでくる。ま、せいぜい頑張るんだな』

 また投げ飛ばされた。扱いが雑だな!

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