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『歴史喫茶 イツワ珈琲』  作者: 称好軒梅庵
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3杯目 三種の神器?

 後漢の建武十三年二月、劉秀りゅうしゅうによる天下統一の祝賀行事が続く中、高密侯の鄧禹とううは長安からあるものを運ばせた。

 玉座の前に、絹の包みが三つ並べられる。


「陛下が中興なさいました漢王朝。これに更に箔をつけるためには代々引き継いでいく至宝が必要である、そうわたしめは考えました」


 こういう思いつきを実行に移すときの鄧禹は実に活き活きとしている。若い頃の彼を思い出して、劉秀は苦笑した。


「勿体ぶらずに見せてくれ、先生」


「ではでは、まず一つ目は〜、デデーン!“高祖の斬蛇剣”!」


 それは霜がおりるように鋭く研ぎ澄まされた、一振りの長剣であった。

劉秀の先祖にあたる高祖劉邦は、一亭長であったときに大蛇を退治した。

 劉邦はその夜夢を見た。夢の中で息子が殺されたと嘆く老婆に、劉邦は事情を訊いた。老婆は白蛇の母であり、父親は白帝であるという。白帝の子である白蛇が、赤帝の子に殺されたので泣いているのだ、老婆はそう言ったという。

 この夢は劉邦が白を貴色となす秦王朝を倒し、赤を貴色となす漢王朝を興す事を暗示していたのだと解されている。


「で、これがその大蛇を斬った剣である、と」


「高祖が行幸あそばされるときは、武士が必ずこれを捧げ持って随行したと言われております」


「そういう来歴のある剣は、やはり雰囲気があるというか、格好いいな!よし、次はなんだ」


鄧禹は二番目の包に手をかけた。


「二つ目は、ジャジャーン!“孔子のくつ”〜!」


「う、胡散臭い」


 それはくたびれた布靴であった。わずかに縁取りがなされただけで、質素なつくりだ。あえて目を引く点を挙げるならば靴の大きさか。


「孔子様もかなーり背の高い方だったと言われていますからねぇ。背の高い人は足も大きいので、信憑性の補完にはなっているかと」


「そんなん後からいくらでも……まあ、次行こう次!」


鄧禹は三つ目の包を開けた。その中には更に桐箱が入っていた。


「過剰包装だな」


「まあ、これは大っぴらに見せびらかすようなシロモノではないので。では、開けますよ!デロデロデロデロデロデロデロデロデーデン!」


「何その不吉な効果音」


「“王莽の髑髏しゃれこうべ”〜!」


「恐っ!」


鄧禹が高く掲げたのは金箔の貼られた人間のドクロだった。


「今は亡き更始帝が長安を占領した際に獲得したものです。更始滅亡後、赤眉の手に渡り、陛下が赤眉を許された後に、ついに我々の所有するところとなりました」


「いかに大逆を犯した者とはいえ、いつまでもそのように晒すのは如何なものかな」


「いつまでもこうしておく事で抑止力になるのではないでしょうか?乗っ取りを企むとこうなるぞ、と。それにですねぇ、せっかく加工した人の努力を無にするのもどうかなーと」


鄧禹が髑髏の耳に指を突っ込むと、タガが外れるような音がした。鄧禹は頭蓋骨を布の上に置くと、その上半分をおもむろに取り外した。頭蓋骨上部をひっくり返して捧げ持つ。


「なんと、酒杯になっております」


「えぇぇ、蛮族じゃあるまいし、趣味悪くないか〜?誰だよ作ったやつ」


「頭蓋骨の中に説明書きの竹簡が入ってますね。“この者、簒逆の罪により永久に鬼首を現世に留めるなり。異朝をとぶらうに、匈奴単于は怨敵月氏王の首を酒杯とし、国宝として、漢の使者との盟約に用いる。勇壮かつ雅な風習であると感じ、その例に倣うなり。記 繍衣御史しゅういぎょし 申屠建しんとけん”」


「懐かしいけど全く思い入れのない名前が出てきたな。“格好いいと思って真似しました”って言われると無碍にしづらい感じはあるが」


鄧禹は杯をひらひらさせている。


「それか、宴に使われます?」


「それで酒飲むのは、変な病気にかかりそうだからイヤ」


 ともあれ、他の候補は更に胡散臭いものであったので、この三つが後漢王朝の至宝として代々受け継がれることとなった。


 晋の元康五年十月、宝物庫に火がかかり、歴代の宝が焼失した。その中には漢から魏に、魏から晋に受け継がれた三種の宝物が含まれていた。闇夜に燃え盛る宝物庫、その中から光り輝く一振りの剣が天に向かって昇っていく様を、多くの兵士が目撃したと言う。

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