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『歴史喫茶 イツワ珈琲』  作者: 称好軒梅庵
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フラット・ホワイト

 ステンドグラスを覗き込むと、店内に置かれたリンドウのランプが灯るのが見える。私はいつものようにドアを開け、真ん中のカウンター席に腰をおろす。


「世の中大変だけれど、この店は変わらないものね」


「そんなこともありませんよ。こんな世界では、誰しもが何らかの犠牲を払う必要があります。……他人に強要されると腹は立ちますが」


「自分で言う分にはいいけれど、ね」


私は疲れ切っていた。ままならない本業のこと、命を絶った知人のこと、世界的な疾病の蔓延にも。


「お任せするわ」


マスターは頷くと、てきぱきとエスプレッソを作りはじめ、なにやら毳毳ケバケバしいカップに注ぐ。続いてスチームの音が響き、ミルクが投入される。

出されたコーヒーを眺める。スチームミルクとは言うもののもこもこした感じはない。口につけてみるときめの細かい小さな泡になっている。底の方にエスプレッソが鎮座しているのであろう。カフェラテの亜種的なものだろうか。


「フラット・ホワイトと呼ばれる、オーストラリアで人気の飲み方です」


オーストラリアは比較的歴史の新しい国ではあるが、コーヒーに対するこだわりに関してはヨーロッパの国々にも勝ると言われる。某有名コーヒーチェーンが撤退に追い込まれるほどにカフェがひしめきあっていると言う。

カップを眺めると顔の青いダチョウが描かれ、そのダチョウの口から吹き出しが出ている。


“ I'm not an ostrich.”


マグカップを眺めながら、私は「ぼろぼろな駝鳥」という詩を思い出す。


“何が面白くて駝鳥を飼ふのだ。


動物園の四坪半のぬかるみの中では、


脚が大股過ぎるぢゃないか。


顎があんまり長過ぎるぢゃないか。


雪の降る国にこれでは羽がぼろぼろ過ぎるぢゃないか。


………


これはもう駝鳥ぢゃないぢゃないか。


人間よ、もう止せ、こんな事は。”


檻の中にいるわけでもないのに閉塞感に包まれた世界のことを考える。檻の中の動物の心はいかほどに塞いでいるか、少しは想像できるようになった気もする。


「ああ、その鳥。ダチョウではなくてエミューです」


「えー、比喩的表現かと思っていたら本当に違うだけなの……」


「高村光太郎の詩を思い出して買い求めたものではありますがね……エミューといえば、彼らは人間と一戦交えた事があるのですよ」


リンドウのランプが静かに明滅しはじめた。

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