TS人狼少女と年下少年:試作三人称短編小説(設定含む)
TS(性転換)系の小説をなろうでチラホラ見かけるので、自分も書いてみようと思いまして、今回は書いてみました。
不慣れですが宜しくお願いします。
静粛なる森に青色の外套を羽織った1人の少年が居た。
今年で11歳となる少年であるが、その背は低く一見すると少女と見間違うかの様な幼い顔立ちをしている。
少年の名前はキュレン、冒険者を志す者である。
意識を集中させるため目を閉じていた少年は、静かに息を吸い、ゆっくりと手を前に出すと、その目を開き魔法の詠唱を開始する。
「イニィシャル・シールド――」
「あっ! キュレン、見っけ!」
「うひゃあ!? ク、クリティナさ――わぷっ!」
しかし、藪の中から突然と現れた少女によってキュレンは抱き締められ、彼の魔法詠唱は失敗に終わる。
少女と少年では頭二つ程の身長差があるため、キュレンは少女に抱きすくめられると、その顔は彼女の柔らかい胸に埋もれてしまう。
「もう~クリティナさん~......」
「エへへ、キュレン~♪」
キュレンは抱き着いてきた少女に抗議をするが、彼女は気にしていない素振りで、更に抱き締める力を強めていく。
肩先まで伸びた銀色の髪に、見る者を魅了する透き通るような白い肌。
獣を思わせる切れ長の瞳は、まるで月を模倣しているかのような黄金色に輝いている。
その姿を見た誰しもが、その少女を美しい人と評するだろう。
だが、クリティナと呼ばれた少女は正しくは人間ではない。彼女は、この世界で人狼族と呼ばれる亜人種であった。
その証拠に、彼女の頭頂部には人狼族特有の鋭い二対の耳があり、彼女の穿く白いホットパンツの後ろからは、豊かな毛で覆われた銀色の尻尾が左右に激しく動いていた。
「もうっ、どこ行ってたんだよー? いきなりどっか行くからさー、愛しのクリティナお姉さんは心配してたんだからなぁ?」
「い、愛しのって......ちょっと魔法詠唱の練習をしたかっただけですよぅ......。 と、とにかく、離れてください~......」
キュレンはクリティナの抱擁から懸命に逃れようとするが、彼女の髪や身体から漂う甘い匂いに、ついその身を預けそうになる。
しかし、キュレンとて年頃の少年であり、どうしても恥ずかしい気持ちの方が勝ってしまい、彼女の腕から何とか逃れようと手足をジタバタと動かしてしまうのだった。
「えー? キュレンー、逃げんなよー。そんなことされたら、お姉さん悲しいじゃんか~......」
「お、お姉さんって……クリティナさんは元は男の人なんですよね!?」
クリティナ曰く、自分は異世界からの転生者であり、元の世界では男だったという。
キュレンも故郷に住んでいた頃、転生者の話は聞いた事はあるので、多少なりとも知識は有していた。
とはいえ、自分には縁が無い話だと思っていたのだが、自分の傍に居る見た目は人狼族のお姉さんが、実は転生者であり、しかも生前は男性であったという事実に最初は驚きを隠せなかったのだが......。
「むっ? まあ、確かに前世では男だったけど、今じゃあ立派な女だぜ? ……また見せてやろうか?」
そう言うと、クリティナはキュレンを抱き締めていた手を解くと、自身の胸元を少年の目線に合うように前屈みになろうとする。
「わーわー! みみみみ、見ませんから! 何度も言ってますけど、見ないですから! それに前に見たのは、クリティナさんが突然お風呂に入ってきたからで―― ちょ、ちょっとそれ以上は止めて下さいー!」
大胆なクリティナの行動に、キュレンの方は慌てて両手で顔を覆うと、自分は何も見ていないと主張するかの様に、真っ赤にした顔を左右に激しく振るうしかなかった。
そんなキュレンの様子を見ていたクリティナは、腹を抱えて満足そうに笑っているのだった。
「アッハッハッ! いつもだけど、本当にキュレンの反応は可愛いなー♪」
「もうっ......クリティナさんは、そんなことして恥ずかしくないんですか?」
キュレンから、そう呆れ混じりに指摘されたクリティナは、少しだけ目を丸くしてはいたが、すぐに苦笑いを浮かべると自身の頬を軽く指でかいているのだった。
「ん~? まあなー、まさか大学の帰りにトラックに轢かれて、気付いたら神様に転生させられて、そんでもって生まれたら女でしたーって、私も最初はビックリしたし恥ずかしかったけどな。まあ、今じゃ慣れたしなー、仕方ないんじゃね?」
クリティナは手を頭の後ろに組むと「ニシシ」と笑いながら、あっけらかんと話してみせる。
「だいがく? とらっく? あの......前から良く仰ってましたけど、それってどういうものなんですか? それって、生前のクリティナさんにとって何か......大切なもの......ですか?」
一方で、キュレンは、彼女の話す聞きなれない単語の数々について疑問符しか抱けず、つい小首を傾げてしまう。
だが、クリティナは、そんな少年の問いかけには答えず、彼の様子を見てニヤリと笑うと「キュレンー!」と少年の名を呼びながら飛び掛かり、彼の頬に愛しそうに何度も頬ずりをするのだった。
「そんなに私のことが気になるのかー!? もうっ、可愛いやつめ! 仕方ないな~! お前と私の深い仲だ! 今日は、お姉さんが添い寝をして話を聞かせて――「お、お断りします!」――え~……?」
「えー? じゃないです! 大体、僕達はまだ出会ってから半年ですし……。そ、そんな深い関係じゃないですからね!」
「そこは大丈夫だ! 愛の前には出会った日数なんて関係ない!」
クリティナは親指を上げて笑顔でキュレンにそう告げる。
「えぇ!? そ、それにクリティナさんは今は女性ですけど、元は男の人じゃないですか! ……今は、その、人狼族の綺麗なお姉さんですけど......」
「そこも気にすんな! 愛の前には年齢や性別や種族なんて関係ないって! ってか、今の私は17歳の人狼族の女だから何も問題はないな!」
ふんすっ!と鼻息を立てながら、クリティナは腰に手をあてると、服の上からでも分かる自慢の双丘をキュレンに向かって突き出してみせた。
「うう......確かに今は女性ですけど......」
(もう、何て言えば良いのか分かんないよぅ......)
キュレンは、自身の両手で顔を隠しながら、目の前の人狼族のお姉さんにどう言えば良いのか分からず、答えに屈してしまうのだった。
「ふっふーん♪ じゃあ、問題がないということで、いつものスンスンサワサワさせろー!」
クリティナは、もう待ちきれないと言わんばかりに口元に涎を垂らし、両方の手をわきわきと動かすと、そのまま少年目掛けて再び飛び掛るのだった。
「うわぁ!? クリティナさん待って――」
「待たないー! おりゃー、捕まえた! それではさっそく~......、スンスン……ハァ~、キュレンの匂い……今日も良い......。サワサワ......それに肌の触りも......最・高っ!」
クリティナはキュレンを抱き締めると彼の匂いを嗅ぎ続けながら、その青い髪を撫でくり回す。そして、彼女の白くしなやかな指が少年の頬を幾度となく撫でていく。
最初は耳の辺りを触り、次第に頬から項にかけて、優しくそして慈しむように......。
キュレンは初め何とか逃れようと体を動かすが、くすぐったい感触で背中から首筋に電流が走るかのような感覚に捕らわれてしまい、上手く抵抗が出来なかった。
更に、抵抗できないキュレンに追い討ちを掛けるかのように、彼女の唇からは、優しく甘い吐息が自身の耳に吹きかけられ、少年はゾクリと身震いをして思わず目を閉じてしまう。
「んんっ......! えっ? あの、クリティナさん? はう……やっ、変なところ触らないでくださいぃ……」
「フへへッ......よいではないか、よいではないか~」
生前、テレビで見た悪役の台詞を真似しながら、彼女はキュレンの肌の至る所を触ろうとする。
「もうっ! 良い加減にして下さい! イニィシャル・シールド!」
「うわっ!? キュレン!?」
クリティナは、急に何かに弾かれる感覚に陥り慌てて後ろへと飛び退くと、すぐさまキュレンの方へと視線を向けて驚愕する。 キュレンの周囲には、透明な緑色の薄い板の様な物が展開されているのが見えたからだ。
「キュレン! いきなり何すんだよ!? ――ってか、それは!?」
「変なことしようとしたからですよ! ど、どうですか、クリティナさん!? 僕だって努力したから初級とはいえ防護魔法が使えるようになったんです! いくらクリティナさんでも簡単には突破は不可能ですからね!」
「へー、やるじゃん! でもなー、突破は不可能、ねぇ......?」
キュレンの言葉を聞いたクリティナは切れ長の瞳を細めていく。
その瞬間、少年はビクリと自身の身体を震わせてしまう。なぜなら少年は知っていたのだ、彼女のその目付きは敵を前にした時の目であると。
「えっ? あの......クリティナ......さん?」
彼女の雰囲気が先程とは違うのを察したキュレンは、だらだらと背中に冷や汗をかきながら彼女へと問いかけるが、彼女は無言で、展開されたシールドの前まで近付くと構えを取る。
「ふんっ!」
クリティナは一度だけ息を吐くと、右手を振り上げてシールドの中央一点を軽く殴りつける。
ビシッ! パリィンッ!
すると、シールドは、硝子の板が割れるかの如く、勢い良く亀裂が入ると、盛大な音を立てて粉々に砕け散ってしまったのだった。
「えええぇぇぇええええ!?」
キュレンとしては、毎日の鍛錬でようやく身に付けた(初級とはいえ)防護魔法が軽く殴られただけで、こうも簡単に突破されてしまうとは思いもよらず唖然としてしまう。
「ふっふっふっ、キュレン~? 前に言ったよなー? お前の初級魔法なんざ俺には意味がねえって。まあ、それよりさ~、キュレン君~? 初級とはいえ、防護魔法を使ったら近くに居る俺にだって少しの傷は付くんだけどな~? そういうのは危ないのは分かっているか~? 力を身に付けたのは良いけど、その力を変に振舞うようだったら......お仕置きしちゃうぞ?」
「――!」
(クリティナさん、本気で怒ってる!)
彼女は、とある一件以来、女性としての生き方を受け入れた為、最近では自分の呼び方を「私」と改めてはいるが、ちょっとした拍子や怒り等の感情が高ぶると、前世の頃のように自分のことを「俺」と呼んでしまう時があるのだが――今がまさにその時であった。
つまり、今の彼女は多少なりとも怒っているとキュレンは察してしまう。
「キュレン~? 覚悟は出来たか~?」
クリティナはそう言うと、眼光を鋭くして口元からは鋭い犬歯を覗かせる。
その様子はまさに獲物を前にした肉食獣そのものであった。
「ひぃっ!?」
キュレンは、彼女の冷ややかな視線と言葉だけで自分の服が濡れる感覚へと陥りそうになってしまう......何処がといえば、主に下の部分が......。
(クスクスッ、キュレンの奴さすがに反省してるな? でも、ごめんな? これは、お前のためなんだから)
人狼族のお姉さんは、キュレンに対して強めな態度で出ているが、その実は、愛する年下の少年を傷付ける様な真似はしない。勿論、お仕置きなど論外である。クリティナにとっても、少年が新たな力を身に付けてくれるのは自分のことのように嬉しい。ただ、力を身に付けたからといって、それらを無闇矢鱈と振る舞うのだけは避けて欲しいと願っているからこそ叱るのだ。
それが少年にとっては正しい事であると信じて、そして過去の自分の様にはならないで欲しいと願いながら。
......というのは建前で、本当の所は彼女は転生前から負けず嫌いな根性であった為、キュレンの「突破は不可能」と言う言葉で少々ムキになってしまったのだが、流石にそれは内緒ではあった。
そうとは知らない哀れな少年は、ただただ彼女の怒りに怯えているのであった......。
「うう......ごめんなさい、クリティナさん......。僕、頑張って防護魔法を得たから、嬉しくなっちゃって......。でも、そうですよね......、力は変に使っちゃダメってクリティナさんがせっかく教えてくれたのに。それにクリティナさんを傷付けるつもりなんて――。すみません、なにか言っても、どれも言い訳に過ぎないですよね――分かりました。お、お叱りは受けます......。でも、その、――あんまり痛くしないで下さい......」
いつもは自分に甘いクリティナとはいえ、今回は本気で自分に怒っている。勿論、非があるのは自分だ。新しい力を得たからといって、それを考えも無しに使ってしまった己の浅はかさをキュレンは今更ながら後悔し、反省もしている。
だが、そう自覚はしているが、まだ11歳の少年にとってお仕置きという言葉は怖く、クリティナに対して懇願してしまう。
目を閉じ、頭を両手で抑えて、その小さな体をプルプルと震わせて懇願する様は、まるで追い詰められた小動物のようだった。
「ごめんさない、反省してます......」
「.............」
「お叱りは受けます。あの、お仕置きも......」
「..............」
「.........あ、あれ? クリティナ......さん!?」
彼女から、いつまで経っても反応が無いのを不審に思い、恐る恐る目を開けたキュレンは、目の前の光景に唖然としてしまう。
なぜかというと彼の前には、両手を頬にあてて「可愛い可愛い可愛い!」としきりに連呼して自分を見ているクリティナの姿がそこにはあったからだ。鼻血を垂れ流しているというオマケ付きで......。
更には、彼女の黄金色の瞳にはハートの模様が浮かび上がっている気がするのだが......流石にそれは見間違いだと少年は思うしかなかった。というよりも本気でそう思いたかった。
「え? あの、クリティナさん......?」
「ごめん! もう我慢無理! キュレン! 大丈夫だ、何も痛くしないから! むしろ痛いのは俺だけだと思うから――!」
「あ、あわわわわ......!」
目が据わり笑顔を浮かべて近付いてくるクリティナのあまりに異様な雰囲気に、キュレンは頬を引きつらせ後ずさりしてしまう。それに、彼女の囁く言葉の意味も分からなかったが、このままだと自分の大切な何かが失われるような気がして怯えてしまうのだった。
「キュ、キュレンー――大丈夫だから、お姉さんに全部任せろって、キュレンは空を見ていたら大丈夫だからな?――ウヘヘヘ......」
(ひいっ!? クリティナさん、正気じゃない!? ど、どうしよ?どうしたら良いの!?)
キュレンは必死に頭を働かせ、目の前の脅威を乗り越えようとする。
(あっ!)
咄嗟にあることを思い付いたキュレンは、人狼族の少女が鼻息荒く自分に手を伸ばそうとした瞬間、キュレンは腹部を押さえ苦悶の表情を浮かべてみせるのだった。
「アイタタたー、急にお腹が痛いなー」
「え? キュ、キュレン!? 大丈夫か!?」
「ううぅー、体もなんでか痛いー。死んじゃいそ~」
キュレンが出した解決策、それは――仮病。
常日頃からキュレンに甘いクリティナは、ちょっとしたことでも心配してくれる。
それを逆手に取ったクリティナだからこそ通用する嘘であった。
(嘘はいけないけど、今だけは仕方ないよね)
クリティナに嘘を付いているのは心苦しく感じてしまうのだが、今はとにかく彼女が正気に戻るのを願って演技を続けていくキュレン。
ただ、キュレンの演技はお世辞にも良いとは言えず、台詞も棒読みである為、誰が見ても演技だとバレてしまうのが欠点だった――クリティナだけは除くが......。
「うー......痛いな~」
「え? 嘘!? キ、キュレン死ぬなー! 死んだら世界を巻き添えに俺も一緒に死んでやるー!」
泣きそうな顔で錯乱したクリティナは、右手を空に掲げると、彼女の手を中心に謎の黒い球体が集まってくる。
それは魔力感知など高度な魔法を取得してないキュレンでも、相当危険な物であると判断出来るほどで、慌てて彼女の行動を止めようとする。
「ひいっ!? クリティナさん待って――! あっ! な、治りましたー! クリティナさんが心配してくれたので、お陰で治りましたよー!」
「ハッ! 俺は一体何を!? ......あっ、キュレン! もう、体は大丈夫か!? 痛くないか!? え? もう痛くないって!? 本当か? 本当に大丈夫なんだな!?」
クリティナが正気に戻ると同時に黒い球体は四散していく。それを見てホッと安心するキュレン。
一方、正気に戻ったクリティナは慌ててキュレンに駆け寄ると、自身の手で彼の体を隅々まで触り異常が無いかを確かめていく。
「だ、大丈夫ですよ! あっ、そうだ! 今日は帰ったら、ゆっくりお風呂に浸かろうかな~って思いますけど、アハハ......」
クリティナがここまで取り乱しながら自分の事を心配してくれるのは、とても嬉しいのだが、これ以上は、また同じことの繰り返しになりそうな気がしたので、キュレンは何とか会話を変えようと試みる。
それを聞いたクリティナは、左右の耳をピクリと動かすと、ニヤリと口元を歪めて愉快そうに口を開くのだった
「うーん、治ったと言っても心配だしな~。そうだ! 今日は一緒に風呂に入ろっか? なんなら背中も洗ってやるよ♪」
「ええー!? そそそ、そんなっ! クク、クリティナさんと一緒にお風呂だなんて! ままま、まだ恥ずかしいですよ!」
クリティナからのとんでもない発言に、キュレンは恥ずかしさで顔を真っ赤にして腕を上下にブンブンと振って叫んでしまう。
その様子を見ていたクリティナは更に口元を歪めている。
「ふーん、そっか、なるほどねー。うんうん、そっかー。んふふふ」
「な、なんですか? なんでそんなに笑っているんですか!?」
「だってさー、キュレン? さっき一緒に風呂に入るのは、まだ恥ずかしいって言ってたよな? ということはだ! いつかは一緒に入る機会はあるって自分で言ってんじゃん♪」
「えあっ!? いやその......僕は、あの、一緒に入るとか、あの、そにょ......あああああああああ!」
自分までもが、とんでもないことを言ってしまったのに気付いたキュレンは、舌を噛んだり頭を抱えたりして取り乱し、最後には恥ずかしさのあまりその場にうずくまってしまう。
それをまた愉快そうに見ていたクリティナは、遂に我慢ができずに吹き出してしまうのだった。
「ぷっ! アハハハハッ! 本当にキュレンは可愛いなー♪」
(キュレンと出会えて、俺は本当に幸せ者だな......)
クリティナは、心からキュレンとのやり取りに喜びを感じている。
これは過去の自分では感じられなかったほどの喜びであると思い出しながら......。
人狼族に転生してからの彼――否――彼女の人生は波乱に満ちていた。
生まれた時にすぐに両親からは見放され、物心ついた時には、とある傭兵団の団員として、日々、過酷な訓練を強いられてきた。
それに自身に生えた耳と尻尾の違和感が彼女を苦しめる。
彼女は何度も逃げ出そうとする度に、その幼い身体に容赦なく鞭を入れられていった。
やがて、彼女は逃げることを止めてしまう。
例え逃げた所で、自分にはどこにも居場所など無いのだと分かったからだ。
彼女は九歳の時、初めて戦場に立たされた。
生前には経験したことのない本気の殺し合い。
生前の価値観が通用しない戦場の空気。
目の前の敵からの容赦の無い殺意。
彼女は訳も分からず、泣きながら戦うしかなかった。
戦わねば、殺さねば、死ぬのは自分であると――身体が、本能が訴えてきた。
気付いた時には争いは止み、彼女の目の前には1つの骸が地面に倒れ伏していた。
そして自身の手には赤い染料がこびりつき、自分の口には今まで味わった事のない鉄が錆びたような味。
その瞬間、彼女は吐いた。身体全体からの震えは止まらず、まるで誰かに殴られたかの様な痛みが全身から伴われた。
彼女はそれからも幾度となく戦場へと立つことになる。
彼女は傭兵団の団員としてではなく傭兵団の「道具」として拒否することは許されなかったのだ。
しかし、時の流れは残酷で、幾多の戦いを経験することで、人狼族の少女は人だけではなく、生命を持つ者を「殺す」という事に戸惑いは無くなっていた。
彼女は鬼神の如き敵中を突き進み、戦場を跋扈する。
既に感情など捨て去った。生前の価値観などは、無に等しい。
それが傭兵である人狼クリティナにとって唯一の生きる道であったのだから......。
だが、感情を捨て去ったはずなのに、一方で不快な感情のみが彼女には残った。
それは自身の身体の成長。
生前では決して訪れたことの無かった部位の発達。
どれだけ心が拒絶しても、どれだけ強く願おうとも、彼女の身体は段々女性としての成長を遂げていった。
そして不快なことのもう1つは、自身に向けられる視線。
彼女が成長するにつれ、団員である男達が自分へと向けてくる好奇と舐め回すような視線の数々。
生前の記憶故か、男達に自身の裸など見られても彼女は特段気にはしなかった。
しかし、己の肉体が発達にするにつれ、段々とそれらの視線が気になる自分が居るのにも気付いた時、彼女は戸惑いを隠せなかった。
生前では向けられたことのない視線は、とにかく不愉快で、吐き気を催す程の悪寒を彼女へともたらしていく。いつしか彼女は、己の素肌を隠す為に、重い鎧をその身に纒うようになっていた。
己の中の不快な感情も消え去ることを願いながら......。
彼女は生き残る為に、常に心を殺し、耐え続けた。
戦場では無慈悲に敵を屠り、団員の男達からの下劣な視線に耐える日々。
だが、そんな日々を繰り返していた彼女にある時、転機が訪れる。
それは彼女が十五の誕生日を迎えた時、彼女に眠る真の力が覚醒したのだ。
覚醒した彼女は力を頼りに傭兵団からの脱走を図った。
傭兵団も道具であり重要な戦力であった彼女をそう簡単に逃すはずもなく、彼女への追っ手は執拗に立ちはだかった。
しかし、既に彼女の力は並の人間では抗えない程に成長を遂げており、人間の追っ手は容易く蹴散らされてしまう。
「情けは自身の命を失くすと思え」
常日頃から、そう教えられてきたこそ、目の前に居る敵は排除する。
そこには慈悲も無く、哀れみさえない。
彼女は、自由の為、己を縛り付けていた者達から抗ったのだった。
追っ手を退け晴れて自由の身になった彼女は、着ていた鎧を脱ぎ去り自分の居場所を探し求めて旅に出た。
彼女には、人狼族の肉体に加え、神から得た絶大な力をその身に宿していたが、それがまた彼女にとっては不幸であったのを、この時はまだ知るよしもなかった......。
前世からの記憶故か、はたまた彼女自身にある優しさ故か......、旅の途中、彼女は救いを求める者を放ってはおけなかった。感情など既に捨て去ったはず。だが、彼女は人々を見捨てることは出来なかったのだ。
彼女は自身の力を振るい多くの人々を助けていった。まるで、自分の居場所はこの世界であると主張するかの様に......、今まで得られなかった幸福な日々が訪れるのを夢見ながら......。
しかし、彼女の人為らざる力を前にした人々にとって、彼女を見る目は、奇異と恐怖に溢れていたのだった......。
ある日の雨の夜、彼女は人気のない森の中を彷徨っていた。
足取りはおぼつかず、瞳には生気という光さえ宿していない。
――自分には、どこにも居場所がない――
そう理解した時、彼女は遂に我慢が出来ずに泣き崩れた。
「なぜ、自分は、この様な運命を強いられねばならないのか」と
「なぜ、自分は、男ではなく女として転生させられたのか」と
彼女は、神に世界へと訴え、泣き叫び続けた。
だが、神は彼女への訴えには答えず、世界は彼女の怒りを嘲笑うかのように、彼女の身体に激しく雨を降らし続けるだけであった。
自由の身となり二年の歳月が経った時、既に彼女は自分という存在が分からなくなっていた。
戦場から離れても戦いに明け暮れる日々。
戦いの日々に嫌気が差したはずの彼女は、皮肉にも戦いのみが彼女の心を満たしていたのだった。
ある日、彼女はいつものように森で魔物の集団と戦う日々を送っていた。
低級な魔物など自分の敵では無い。
その油断により、彼女は久々に軽い擦り傷を負ってしまうが、彼女は気にはしなかった。
多少の傷は暫くしたら治る、それが彼女の力でもあったのだから。
しかし、ここで彼女は彼女の人生を変える存在に出会う事になる。
それは人間族の少年であった。
最初に自分を見ている少年の目は、怯え、そして恐怖をはらんでいた。
それでも、少女は気にも留めなかった。人という存在は、そういう者なのだから。
少年を無視し、新たな敵を探そうとした矢先、少年は少女の元へ駆け寄ると、彼女の傷を治そうと癒しの魔法を行使する。
少女は驚き、拒絶した。しかし、少年はそれでも食い下がり、彼女を治そうとする。
少女は諦め、素直に少年の好意を受け入れたが、それは少女にとって、この世界に転生してから「初めての経験」で戸惑うしかなかった。
――何故、自分にその様に優しくしてくれるのか?――
感情を失ったはず......そんな自分の心が揺れ動くほどの衝撃と動揺が彼女から溢れ出していく。
いつから流れていたのか自分でも分からない、ただ気付いた時には自身の瞳からは一筋の雫が流れていたのだった。
「治って良かった......」
魔法を行使し息も絶え絶えに、少女の回復に喜び笑顔を向けてくる少年。
それと同時に、彼女の身体は熱を帯び、自身の胸の中が高鳴るのを感じてしまう。
しかし、彼女は分からなかった。自身のこの胸の高鳴りがどの様なものなのかを......。
その後、クリティナは「人狼族の恩義」という名目で少年の傍らに居る事にした。
彼女自身も、自分が何故、その様な行動に出たのか分からなかった。
それは気紛れだったのかもしれない。だが、あの時に感じた気持ちの意味を知りたかったのかもしれない。あの胸の高鳴りの意味を知る為に......。
少年との生活は、少女にとっては困惑と驚きに満ちていた。
戦いに明け暮れた日々とは違う穏やかな日常。
自分に対して、どう接すれば良いか分からず、戸惑いながらも優しくしてくれる少年。
今まで感じられなかった温かで心休まる日々。
少年と暮らす日々の間に彼女は段々と感情を取り戻していった。
更には寡黙であった筈の自分が、今では少年に対して冗舌に話せることにも驚いてしまう。
人狼族の少女は、いつしか少年と暮らす生活に幸福と安らぎを得ていたのだった。
しかし、そんな暮らしの中で、少女は1つだけ自身でも認めたくない物もあった。
それは少年に対しての自身の胸の高鳴りである。
生前の記憶とはいえ、自分が年下――しかも、同性の事が気になるとは絶対に認めたくなかったのだ。日々、胸の高鳴りが大きくなるのを感じながらも、それだけは認めたくなかったのだ......。
そんな彼女であったが、ある時、1つの決断を下すことにした。
それは、己が転生者であり、元は男という存在であった事実を、共に暮らす少年へと打ち明けるというものだった。
彼女にとって、共に暮らす人間族の少年は、最早かけがえのない存在になっていた。
だからこそ、彼には嘘を付きたくないと強く思い至ったのである。
しかし、真実を告げた後の少年の反応がどうなるか怖かった。
拒絶、否定、罵倒、恐怖......、他の人間が自身へと向けてきた視線。
ようやく見付けた自分の居場所を失う絶望感――暗い感情のみが彼女を支配する。
だが、打ち明けた後の少年の反応は、少女の予想とは大いに異るものであった。
「びっくりしました......。でも、クリティナさんはクリティナさんだと思いますよ? えっと、優しくて、一緒に暮らせて楽しくて。その、上手く言えないんですけど、僕はクリティナさんと出会えて嬉しかったです。良かったら、これからも一緒に居たいです」
真実を打ち明けてもなお、自分を受け入れてくれる。
その言葉と同時に少年が見せた笑顔に、人狼族であった少女は、遂に自身の胸の高鳴りの意味を認めてしまうのだった。
それからの彼女は、女性としての生を受け入れ始めた。
無論、今までその様な事をしなかった為、容易では無かったのだが、愛する少年への想いを胸に、以前では考えられなかった女性らしい服装、言動、仕草を取り入れようと努めた。
他にも、忌々しいとさえ感じていた自身の身体の器官は、今では少年を優しく包み込む事が出来る。それがまた彼女にとっては幸福とさえ感じられる様になっていた。
なぜなら、少女は知っていたのだ。優しげな少年が時折、過去を思い出し人知れず泣いているということを......。
(キュレンは俺が守る。何があろうと絶対! この幸せを誰にも壊させはしない!)
そう心に決めた時、クリティナはキュレンの為だけに生きると決めたのだ。
心から愛する少年がいてくれるだけで自分は幸福なのだから......。
「そういえばさ、キュレン?」
「うう......、今度は何ですか? もう変なことは言わないで下さいね......」
「あはは、さっきは、ごめんな? いやさ、ほら、前に話したことは考えてくれた?」
「前に話した――あっ! えっと、クリティナさんと冒険のパートナーにならないかってお話ですよね?」
「うん。これから本格的に冒険者を始めるなら、俺も一緒に行きたいなと思って。でも、お前はさ、なんか――私に遠慮してるみたいだから気になって......」
「そ、それなんですけど......」
先週、クリティナから冒険者を始めるなら自分を冒険のパートナーにしないかとキュレンは誘われてはいたのだが......、キュレンからすると、圧倒的な力を所持する彼女の前では、自分などお荷物にしかならないと感じてしまい、どうしても彼女の返事に首を縦に振ることが出来ないのであった。
「あの……、クリティナさんからのお誘いはとっても嬉しいです。でも......見ての通り僕なんて弱いですし......。クリティナさんの足を引っ張りそうで......」
「なーんだ、そんなこと気にしてたのか? そんなの気にすんな! それに、なんかあったら私が守ってやるよ!」
「うっ……それは嬉しいですけど、なんだか複雑な気分……あっ、それに僕なんか体力ないですし……」
「そこも気にすんな! もしキュレンが途中でへたりこんだら、私がおんぶしてやるって!」
「う~ん、そっちの方が恥ずかしくて倒れそうです......」
キュレンは自分が彼女の背中におんぶされてる姿を想像してしまい顔を赤くしてしまう。
「それとも――俺みたいなやつは......嫌......?」
「え?」
弱々しく言うクリティナに、キュレンは戸惑いを隠せなかった。なぜなら、そこに居たのは、自分の知るいつも元気な人狼族の少女ではなく、悲しげな顔をした1人の少女であったからだ。
「あのさ――女の振る舞いも言動も全然出来てないのは自分でも分かってる! でも、どうしら良いのか、まだ分かんなくて......。だけど、お前との半年の生活は本当に楽しくて、俺の居場所はここなんだなと思えたんだ! だから――あの、俺はこれからも、お前と一緒に居たい。ううん、一緒に暮らしてるだけじゃなくて、一緒に冒険したりして、お前と笑ったり喜んだりしたいんだ! わ、我が儘なのは分かってる! 知り合って半年でこんなこと言うのは変かもだけど......、それでも――! ......ううん、ごめんな? やっぱり、俺みたいな奴なんかじゃ......駄目......だよな?」
そう言った時の彼女の耳は力無さげに横向きへと倒れ、黄金色の瞳は不安げに潤んで、キュレンを見つめていた。
その様子を見たキュレンは自身の拳を握り、彼女の言葉を強い口調で否定する。
「そんなことないです!」
「え......?」
「あのっ! 僕は、この通り見た目も弱いし、魔法職なのに魔法もあんまり使えません! だから、僕なんかじゃクリティナさんのお荷物にしかならないと思って――。でも、クリティナさんと会えて、一緒に暮らして本当に嬉しくて! 僕、クリティナさんと、これからもずっと居たいんです! その......、まだ短い間だから、ちゃんとお互いのこと分かってないこともあるけど! それでも! これから色々と一緒に冒険したいなと思っています! だ、だから、こんな僕で良ければ、これからちゃんとしたパートナーとして一緒に冒険に行きませんか!?」
顔を赤くしながら目を瞑り自分の想いを込めて叫ぶキュレン。
クリティナに伝える言葉に嘘偽りはなかった。
十歳の時、魔物の襲撃により故郷と家族を失った少年にとって、世界は生きる意味が見出せなかった。
絶望と怒りの感情が幼い心へと襲いかかる。
だが、まだ幼い少年には勇気が無かった、自分自身の手で世界から去るという選択を......。
少年は1人生きる為に森の近くの小屋に住み始め、そこから冒険者を始めようとした。
別に冒険者に憧れていたから始めたかったのではない。
冒険者になろうとしていたのも、生きる為に仕方なかったのだ。
少年には希望など無い。
しかし、全てに絶望を抱いていた少年に、とある光が差し込んだ。
それは1人の人狼族の少女であった。
恐ろしく、それでいて美しい人――彼女を初めて見た時、少年はそう思った。
とある日、森の奥深くに迷い込んだ時、少女と魔物の集団との戦いを見た少年は、少女の圧倒的な力に恐怖してしまう。
戦いを終えた後、彼女は光の無い瞳で自分を見てきた時、少年を恐ろしさで動けずにいた。
だが、彼女が怪我を負っているのを見た少年は自然と体が動き出し、彼女の元へと駆けていく。
自身には初級魔法の癒ししか使えない、そう自覚しているが、怪我をしている人を放ってはおけなかったのだ。そう思えたからこそ、彼女へと手を伸ばしたのだ。
自分には希望など無い。それでも、もし自分でも救える誰かが居るのなら救いたい。
それは自己満足と言われるかもしれない。だが、少年にとってはそれで良かったのだ。
暫くしてからの後、人狼族の少女が自分の住む小屋を訪ねて「恩義を返したいので一緒に暮らして欲しい」と言ってきた時には驚いたが、家族を失った寂しさもあり、少年は笑顔で彼女を迎え入れた。
最初の頃は、感情も無く、口数の少ない少女に接するのは容易では無かったのだが、いつしか彼女は感情豊かに少年と話せるようになっていたのだった。
ただ1つ、少年には理解が出来なかったことがあった。
それは、自分と違い圧倒的な力をその身に宿しながら、何故、自分の様な子供と一緒に居てくれるのかと。
だが、真実は知りたくなかった。まだ数ヶ月だが、少年にとって彼女は、母のように――姉のように――そして更には大切な存在として......、彼女は少年にとってかけがえのない存在になったのだから。
彼女と共に暮らせれば、それだけで良い.......。
この幸福が続くように、神に対して、そして世界に対して、日々、そう願い続けながら。
暫くの後、少女から彼女自身の真実を告げられても少年は驚きはしなかった。
自分と共に暮らし、笑い合ったのはクリティナであり、生前の彼女では無いのだから。
それよりも自分に嘘を付かず、ありのままの真実を話してくれたことの方が少年は嬉しかったのだ。
(僕は弱い......。それでも! どんな時でもクリティナさんと一緒に居たい!)
少年は思う、例え自身が弱くても、自身の命に変えても大切な少女を守りたいと。
だからこそ叫ぶのだ。自分の気持ちを、想いを、愛する少女へと伝える為に。
涙を堪え彼の様子を見ていたクリティナは、キュレンの前で膝を折り目線を合わせると、彼の頬にそっと手を添える。
「俺――ううん、私は言ったよね? 君とのパートナーを望んでるって。だから、これから色々と冒険しよう? さっきも言ったけど、キュレンが危ない時は私が守る。でも、私が危ない時はキュレンが守って欲しいな? 私からの願いはそれだけだから......」
「クリティナさん……こ、こちらこそクリティナさんが危ない時は僕が守ります! 何があろうと、どんな時も! だから、その、僕で良ければ宜しくお願いします!」
「良かった......。じゃあ、改めて宜しくね? 私のパートナー!」
「は、はいっ! こちらこそ、お願いします! 僕のパートナー!」
お互いの気持ちを打ち明けた二人は笑顔で見つめ合う。
暫くの時が過ぎ去った時、森の中から、一羽の白い鳥が彼らの上を羽ばたいていく。
そこでようやく、クリティナは立ち上がるとキュレンに向き直り、彼に優しく声を掛けるのだった。
「そ、そろそろ帰ろっか? 行こうぜキュレン!」
「あっ、クリティナさん......!」
「ん? どうした、キュレン?」
「えっと、その、良かったら......手、繋いでみても、良いですか......?」
キュレンは、恥ずかしそうに顔を赤く染め上げ、両手の指を絡め合わせると、おずおずと自身の手をクリティナに向けて差し出していく。
しかし、クリティナはその手を見つめてはいたが、急にぷいっと横を向くと腕組みをしながら黙り込んでしまう。
「え......? あ、あの......クリティナ......さん?」
そんな彼女の様子に、キュレンは自分がまた何か彼女を怒らすような事を言ってしまたったのかと不安に駆られてしまい、差し出した手を引っ込めようとした、その時であった。
「......んっ!」
そう言うと、クリティナは、無表情ではあったが、横目でチラチラとキュレンの様子を伺いながら、自身の片方の手をキュレンに向かって差し出す。
彼女の後ろでは、美しい銀色の尻尾が左右に忙しなく動いており、彼女の今の気持ちを代弁しているかのようだった。
それを見たキュレンは、顔を綻ばすと、とても嬉しそうにクリティナの手を握り返すのだった。
「あっ......」
「ななな、なんだよ!? なんか変か!?」
「クリティナさんの手、凄い汗。顔も真っ赤ですし。あの、もしかして、緊張......してます?」
「うっせ! わ、笑うなよ!? あと、顔は見んな! 良いな!? 絶対、見んなよ! もし笑ったり、見たりしてみろ!? マジで手を離すからな!?」
「クスッ......は~い」
「あっ! キュレン! お前、今さっき笑ったろ!?」
「ふふっ、笑ってないですよ~だ♪」
「だ~か~ら~、わ〜ら〜う〜な〜! は~な~す~ぞ~!?」」
クリティナの言葉とは裏腹に、お互いの手を繋ぐ力は強くなる。
二人は手の汗など気にせず、その手を決して離さないと、お互いに強く想い合い、自分達の家へ帰るための歩みを進めていくのだった。
終わり
(おまけ)
「ハァハァ……綺麗な髪、それに美しいまでの白く透き通った肌と御・御・足……ああ――あの方こそ、アテクシめの理想のお姉さまですわ~ん♪ ハァ~......お姉さま~ん! お待ちに~嗚呼あああん! ジュルリ……あっと涎が♪」
二人の後ろでは、両手に草を持って何やら不穏な言葉を呟きながら体をくねらせている怪しい人影が、ゆっくりと二人の後を付けていることに、二人はまだ気付いてはいなかった。
(おまけ2)
「そういえば、クリティナさん? 前から気になってたことがあるんですけど」
「ん? 何だ、キュレン?」
「あの、前に頂いた物は穿いてみないんですか?」
「ああ、前に助けた婆さんがくれたスカートか? う~ん......、いや、あれは穿けねえ......。無理だって......なんか恥ずいし......」
「そういうところは変に恥ずかしがるんですね。でも、せっかくだし、穿いてみるのはどうですか?」
「無理無理無理! だってあれ下がスースーするし無理だって! あんなの穿いて歩いたらヒラヒラして気になるし!それに、その......女物ってまだちょっと抵抗があるし......」
「そうですか......。僕はちょっと見たかった気がします、クリティナさんのスカート姿。だって、クリティナさんなら似合いそうですし」
「ほ、本当か!? うっ、でもな~......う~......ちょっと考えとく......」
――――――――――
キャラ設定
クリティナ:人狼族17歳 転生者 人狼族の肉体と神の加護により力は強い。
過去の苦い経験から加護の力はあまり使いたがらない。キュレンの危機や助けるときは別。
転生後も生前の男性としての記憶を保持していた為に、自分の身体と心について悩むが、今では女性としての生をなんとなくだが受け入れている。ただ、男性的な言動や振る舞いをしてしまうことも多々有り。女性的な服にはまだ抵抗もある。
身長170cm 転生前より低いのを若干だが気にしている。
キュレンがとにかく大好きで甘やかしたい。
キュレン以外には乱暴な口調が多い。
(とはいえ自分からは過剰なスキンシップを取るが、手を繋ぐことなどは初心で緊張したりする)
人狼族の恩義:恩を返す為に一緒にいたりする。
キュレン:人間族11歳 現地人の少年 10歳の時に故郷の村が魔族の襲撃により壊滅、天涯孤独の身となり冒険者を始めようとしていた。臆病で気が弱いが常に礼儀正しく普段から敬語を使う、とはいえ年相応。
属性:魔法使い・初級魔法程度しか使えないので、冒険も満足にはいかないのが悩み。
クリティナのスキンシップには戸惑っているが、実は満更でもない。
??:種族不明?歳 見た目10代前半の少女 理想のお姉さまとの恋を目指し諸国を旅している。
森で偶然見掛けたクリティナの美しさに魅了され奇行的ストーカーを繰り返す。
ゴスロリ服の各所に鎖を巻いた独特な服装をしている。
自称「愛探しの旅人」
拙い文章ですが、読んできいただきありがとうございました。
三人称は難しいですね。
去年から人狼(狼娘)キャラで何か書けないかなと思ったり、色々な要素も入れようかなと試した所、出来たのが今回の小説です。
でも、実際に書いてみると、TS要素薄かったり、もう普通に人狼族のお姉さんとのおねショタ物で良かったのでは?と思ってしまいました。
文中ではキュレンの頬を触る辺りの演出も書いてみましたが、健全な内容なので問題ないはずです、多分(笑)
もし調子に乗ってあれ以上書いてしまったり、二人のお風呂の場面でも追加しようものなら消されそうですしね...(;゛゜'ω゜'):グフゥ-
TS系なら女性物の服を恥ずかしがるかなと、最後におまけで入れてみました。
やっぱりスカートかなと思いましたが、ドレスでも良かったかも?海だったら水着とかも?
色々と設定は作りましたが、短編という事で長編はございません。
もし、こんなのTS系としては内容が薄い!というご意見、こんなのおねショタじゃない!というご意見、様々なご意見・ご感想ございましたらお待ちしています。宜しくお願い致します。