3 物体
オフィスに滑り込み、まずは自分の机に移動。
いつもと同じ光景が見える。この職場での不満ポイントの1つ、壁際の挨拶しない部長。コイツは凄くムカついててエミちゃんと俺が一緒に入ってきた時にエミちゃんにしか挨拶をしない。本当に見上げた小太りだ。
だからいつも俺も無視して机に向かう。横を通り抜けるとエミちゃんの机が見える。どうやらエミちゃんは今いないみたいだ。
「さっき下にいたのに……どこいったんだろ?」
ま、それは後にして今は麗人神社の方が先だ。手帳を取ろうとした時に気づいた。これ、エレベーターの同じで触っても意味無い?と。つまり手に取れないという事だ。恐る恐る手にしてみると意外な事に手に取れた。
「あれ、マジか」
それならそれでいっか。取材に必要なペンと手帳、資料とか色々詰まったいつも使う茶色のバッグを持っていく。これは入社祝いに母親が買ってくれた高級品。父からも見た目だけでも、とコートを貰った。コートは今の時期は着ないけど冬場は重宝するものだ。
そして立ち去ろうとした時もう1つ、というより1番の問題かもしれないものが頭に浮かんだ。
物は掴めた、手帳とペンはバッグに入れてそれを肩に掛けた。じゃあ今周りからはどんな光景なんだ?つまり幽霊がバッグを肩にかけたところで周りから見ればバッグが浮遊してるように見えるんじゃないか?という事。超常現象として見られては困る。
「どうしようかな〜」
困ったけどオフィスはよく見ると小太りとその他数える程も居なかったし小太りなんか寝ていた。昼時で助かった。皆昼食の時間で外に出ているみたいだし人が増える前にさっさと出ていきますか。
「お邪魔しました〜」
もう俺の居場所は無くなってしまったのだから一応形だけの挨拶を済ませておく。
エレベーターは不便なのが分かったから今度は階段から下まで降りよう。で、麗人神社まで行ってみるか。階段で行こうとしたその時、エレベーターから恵美がおりてきた。
「あっ、エミちゃん……」
「え?」
まさか……声が届いた?今の「え?」は明らかに聞こえたでしょ!もいっかい呼んでみよう。
「エミちゃん、エミちゃん!」
「――!」
すると今度は急いでオフィスの中に入ろうとした。
絶対声聞こえてる反応じゃん!走って恵美の前に如何にも行かせないという風に手を広げてみた。
「きゃっ」
何故か急に立ち止まる恵美。これは聞こえてるどころの話では無いようだ。
「もしかして……エミちゃん。俺のこと見えてる?」
「……」
立ち止まって下を見たまま答えない。周囲から見ればエミちゃんが1人で何をしているのか分かったものではない。
「ねぇエミちゃん!俺のこと見える?」
「…………見えます」
まさかの救世主!というよりエミちゃん凄くない?霊が見える、いわゆる霊能力者?!
「うわマジかよ!エミちゃん凄い!」
1人で騒ぐ28才。まあどれだけ騒いだところで周りには聴こえない。
「神藤くんやめて……うるさい」
「お、おおう。ごめん」
いや、どれだけ騒いでも良いけど例外を見つけてしまった。目の前で鬱陶しいそうに俺を見るエミちゃんがいるんだった。
「なに?エミちゃんって……そういう見える系の人?」
気になって仕方ないこの事実。聞かずにはいられなかった。
「なんだろうね……神藤くんだけ見えちゃう……みたいな?」
「え、俺だけ?」
「え?いやごめん何でもない」
今のナシね、と取り消そうとする。まあ視えてしまう人は大変なんだろう。
すると恵美の方から提案があった。
「神藤くん……屋上いかない?」
「ん?いいよ」
恵美はエレベーターのボタンを押してくれた。




