2 霊になっても
俺は神藤二。さっきビルの屋上30階から誰かに突き落とされて死んだはず。何故こうして立っているかって?知るかよ。聞きたいのはこっちの方だ。だってほら。
―投身自殺?こんなところで?
―なんかあったのか?
―昼間から邪魔くさいな……ったくよぉ
倒れている俺の周りにめちゃくちゃ人がいるだろ?こんなに人から注目されるなんて小学、中学、高校の催し物以外に無かったのに。
死体になって初めて人から注目されるなんて皮肉なものだ。救助も行われず即死らしい。まあそうだろうな。一応死体は救急車で運ばれるらしい。その後身元を調べられて……それからも色々あるっぽいけど。それよりも実家の親はこれを見てどう思うんだろう?都会で頑張っていた一人息子が自殺なんて。
ブルーシートで俺を囲い周りの野次馬が見られないようにする。まあ立っている俺がすぐ横にいるから完全には隠せてないけどな。
「でも、ってことは…… 俺は幽霊ってことか?」
なんてオカルトチックな話だろう。生まれてこの方そんなものを信じて来なかった。夏の特番でよくある怖い話特集とかも嫌いではないからよく見たものの結局は合成、CGっぽい写真や動画が並ぶばかり。だからこそよりオカルトなんて無いと信じて来なかったのだが。
「へぇ〜。一概に居ないなんて言いきれないもんだな」
そうこうしているうちに死体は救急車に乗せられて病院へ運ばれようとしている。
「俺の死体勝手に持ってくなよ!俺も乗せてくれ」
しかしその声は遅く。そもそも死人の声は周りに届くはずもなく。身体は救急車の中へ、幽霊は外へ。
「そもそも俺の体なんだから勝手に扱うなよなぁ」
自分勝手な理論を振りかざす。死体がこんなビルの前にあったら人が集まるわ、警察が来るわで邪魔すぎて迷惑なのは分かっているが。
救急車が病院に向かっていくと野次馬達も収穫を得られなかったのかそそくさ各々の方向へ向かって出かけて行った。
「人の死体見て楽しいか?このバカどもが!」
聞こえないのは分かっているから暴言を吐く。聴こえるもんならこっち来てみろよ。
と、その時野次馬よりも後ろの方に居た女性を見た。
「あっ……エミちゃん……」
見覚えのある服。今日の朝に隣で見た服。俺の同期である村山恵美ちゃん。年は29、美人で人気がある。彼女とはたまにパートナーとして取材に行くことがあるけど本当にいい子でなにより仕事がしやすかった。
質問は的確、感はよく働くし周りにも好かれて何よりもコミュニケーション能力が高いのは凄いと思う。現場に行って取材をする上では必須技術みたいなもんだけど意外と難しい。
まあ色んな意味でエミちゃんと仲良くしたいなぁ、とか思ってたんだがそれも叶わずこの姿である。
でも仲良くしてるというか変な縁があるのかどうか。
いつも出社してくるタイミングが一緒だ。いつもビルの自動ドア前で会い、いつも同じエレベーターでオフィスまで行く。極めつけは帰る時間まで一緒な事。いつも時間を合わせてくれてるみたいで……
「……」
―お?
エミちゃんと目があった?そんでエミちゃん何か目逸らさなかった?もしかして俺が……ないか。
受け入れ難い事実だが本当に死んでしまったのはさっき分かった。問題はここからどうするのか、という事だ。
「あ、でも。まだ取材行ってないし。あれ俺の仕事だよな?誰が引き継ぐんだろ」
ここまで来てもまた仕事か、と自分でも飽き飽きする。でも今回の麗人神社での変死体事件はかなり興味をそそられるものだった。
「じゃ、一旦会社に戻りますかね」
と、ここで新たな発見。まず幽霊は普通に足があるということ。普通に歩くらしいが、これで残念ながらSFに良く出てくる飛ぶ幽霊だのは存在しない事が分かった。
そしてもう1つ。近くの土を踏みしめてみたら足跡が付かなかった。これも大きな発見だ。
「へぇ!これは学会に発表できるレベルじゃないか!」
幽霊学会とか心霊現象解明とかそんな人々がいるのなら声を大にして教えてあげたい。
だがここでアクシデント発生。
―おいおいおい……
自動ドアが開かないや。これは困る。霊だから反応しないとか辞めてくれよ……と困っている所にたまたま宅配便が来た。
「ありがとね、おっちゃん」
宅配便のおっちゃんに礼をいいエレベーター前へ。そしてエレベーターが来たからおっちゃんと一緒にエレベーターへGOする。
「おっちゃん、20階押しといて!なんて聞こえるわけないか」
―えっ
なんと言う奇跡。聞こえずともおっちゃんは20階を押してくれた。
「ありがとね」
おっちゃんと同時に20階へ。冷静に考えたら俺はエレベーターのボタンさえ押せないことに気づいた。だって足跡がないって事はそういうことだろ?
オフィス前でおっちゃんがドアを開けた隙に俺も同時に中へ滑り込む。
さて人生……というか幽霊初の仕事を始めますか




