1 残念賞
初投稿よろしくお願いしますm(*_ _)m
暖かい春の日差しが直接差し込んでくる。
「今日の最高気温は20度です」
天気予報士の言葉を思い出す。最近では珍しく20度に達する本当に暖かい日だ。ビルの屋上だからほんの少しだけ地面とは違う温度と感じるのは気のせいなんだろうか。
俺、神藤二は報道の会社に勤める普通のサラリーマン。社内の空気は吸いすぎているから昼飯位は息抜きに、と晴れた出勤の日はここに来る。
「来月で29かぁ……ったく。冴えねえな……」
彼女とは2年前に別れそこから女付き合いとは音沙汰無し。真面目な人生を歩んできたからこそイマイチパッとする事も無いまま29歳を迎えようとしている。
こんな缶コーヒーを持って手すりを掴みながら外を見て早8年。仕事はとっくに慣れ後輩もどんどん入ってきた。出世欲がめちゃくちゃある訳じゃないけどもっと上にも行きたい。
きっと彼女をまた作って家庭を作って仕事して人生終わるんだろうな、と感慨深いものがあった。
―ずっと続いたら良かったね
「――?」
ココ最近徹夜が続いたし流石に疲れてるな、幻聴が聴こえた。ま、でもあの事件は今じゃ何処でも取り上げてるし早く取材行かないと。何せ神社での変死体事件なんてのは滅多にないしな、
ここから割と近くて取材しやすくてラッキーだった。車で10分の神社で事件というのは楽である。近隣住民の方は嫌な思いをしているだろうが。
「さてと、さっさと仕事終わらせて今日は家に帰りますかぁ」
缶コーヒーの残りを一気に飲み干す。少し甘いな無糖って書いてあんだろうがと悪態をつく。うーん、と背伸びをし疲れを軽くする。
「ふぅ……行くか」
―行かなくていいよ
また聴こえてきた……。やっぱ仕事し過ぎは良くない。流石に今日は家に帰ってゆっくり寝ようか。明後日は休みだし明日も頑張るのも良いけどずっと会社に居るのは良くない。
振り返ろうとしたその時だった。パッとしない人生に大きな出来事が唐突に。それはそれは突然に一大事が舞い込んだ。
「言ってるのに」
俺の体は宙に浮いた。
「ぇ?」
浮くはずが無い人体。何故か真正面に見える太陽。どんどんと上に行くビルの窓。要するに、だ。俺は屋上から落とされた。なんと言う不運。残念にも程がある。
「ぁ……」
さっきまでいた屋上を見る。そこには誰もいなかった、のに何故か太陽は一部隠れている。本来そこに何かしら物体が無ければ隠れないはずの太陽。こんな時にまで不思議はあるもんだ、と感心してしまう。
にしても意外と長い。ビルの30階って高いもんだなとこれにも感心。この高さから落ちたんだ、助かるワケもない。
脳裏によぎるのは彼女との思い出。2年前に別れたはずなのに。未練が結局あんのかよ、と人生最初で最後の走馬灯なるものにも悪態をつく。
「でも意外と楽し……」
―グシャ
でも意外と楽しい人生だった、そう言いたかったのであろう二の最後の言葉は中途半端なところで終わりを告げ彼の人生は幕を閉じた。
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「あーあ。落ちちゃったよ」
嬉しそうな声で下を見下ろす。
「なにいってんの?アンタが落としたくせに」
そう咎める声も喜びの声にしか聴こえない。
「可哀想だね〜」
「そうだね〜」
全く言葉とは違う表情が伺える。
「もういいや、どっかいこ」
一通りやるだけの事をやったのか、それらはどこかへと消えていった。




