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そして僕は死者を抱く  作者: 貧弱眼鏡
9/19

決意

僕はなんて馬鹿なんだ。この世界でようやく近づいた温もりだったのに。

彼女はとっくに覚悟を決めていたのに、勝手に守ろうと言ってついてきて。彼女のことを気にせずニーズヘッグに挑んで、そして、自分のために彼女を死なせた。


本当は彼女のことを守ろうとなんて思ってなかったんだ。ただ誰かの側にいたかったから。ただ寂しかったから。


――さようなら、オガタさん。


「うあああアアアアッ!!」

僕は叫んだ。奴に、ニーズヘッグに負けない声で。


殺してやる。

イレーヌは死んだ。だからもうどうでもいい。ただ僕が殺したいから殺すんだ。


心にどす黒い感情が満ちた時、黒い光はより一層深く燃え上がった。


「殺す! お前のそのでっかい目ん玉を真っ黒にしてやるッ!」


ニーズヘッグは(すく)まなかった。重く構えて僕を見下ろしている。


「グオオオオオオン……」

こちらを誘うように奴は鳴いた。


「お高くとまりやがってッ!」

僕は走った。奴の足に向かって。


少しでいい。【受け流し】か【緊急回避】で体に触れることができればそれで終わりだ。


「ガァアアアアッ!」

その時、ニーズヘッグは鋭い咆哮(ほうこう)を放った。


耐性があるから前のように気絶することはないが、その圧は人の体が受け止めきれるものではない。


体が浮き、そのままの勢いで僕は壁に叩きつけられた。

「ぐっ! ううううぅ……」


内臓か骨かよくわからないけど、きっとどこか壊れている。そんな痛みだった。

だが、そんなことはどうでもいい。心の方が痛いのだから。


僕はまた走りだした。

その様子を見て、奴はまた吠える体勢に入る。


「その攻撃、ここに来たばっかの時にも見たぞ」

構わず僕は走った。


奴は大きく息を吸い、次こそは息の根を止めてやる、という顔で僕を睨んだ。


しかし、二度目の咆哮は発されなかった。僕を(かば)うように、黒く大きな影が奴の目の前に立ちはだかったのだ。


「その姿にさっきの叫び声、やっぱり親子だったみたいだな」


僕が盾にしたのは、僕が始めに殺したトカゲ。岩のように黒く輝くそいつは、この巨大なニーズヘッグの子供ではないかと予想したが、当たっていたようだ。


「【死体操作(ネクロマンシー)】か……便利なもんだな。こいつだけ食わずに捨てておいてよかった」


本当は皮が固くて食べられなかっただけだが、それが後に効をなすとは思いもしなかった。


イレーヌさんを殺した時に会得したスキル――【死体操作(ネクロマンシー)】は文字通り死者を操るものらしい。


子供がたてついたことに動揺したのか、ニーズヘッグは後退った。


「どうした、子供には手をあげられないか!」


僕は死体の尾に乗り、力まかせにそれを振らせた。

「ラアアアアッ!」

勢いのまま飛び上がり、ニーズヘッグの顔面へと拳を突き立てた。腕を、手を、爪先を伝って黒い光が奴の体に染みていく。


「ゴォオオオアアアアアア!」

奴の悲鳴が響いた。子供を殺した時とは比べ物にならないほどの絶叫に、四方八方から岩の崩れる音が聞こえる。


痛い。苦しい。【音波耐性】の上からでも音圧に塗り潰されそうだ。

けれど、放してやる気はない。


「お前もさっさとあっちへ()けぇ!」


黒い光が(まゆ)のように奴を包んだ。

ニーズヘッグは最後にビクリと震えて、そのまま動かなくなった。




砂と岩に埋もれた穴から子供のニーズヘッグが()い出した。そいつが口を大きく開けると、中からイレーヌさんの遺体が滑り出た。親のニーズヘッグが事切れる時、咄嗟に彼女を口の中に隠したのだ。


「すみません。あなたのお願い、聞けませんでした」


僕は泣きながら、ただ無機質に頭へ響くレベルアップ音を聞いていた。

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