辿り着いて
二週間くらい歩いただろうか。モンスターが出ないからか、戻るのは楽なものだった。
「むんむん。ペンダントにビンビンきてますね! きっともうすぐですよ!」
「走ると危ないですよー」
結局、僕はまだ彼女にあれを話せないでいる。
奥に進むにつれ、洞窟の幅は広くなっていた。もともと大きい空間ではあるが、ここまでくるともうちょっとしたドームだ。
「見てくださいオガタさん! すごいです! 広いです!」
はしゃぐイレーヌに駆け寄っていくと、そこは巨大な部屋のようだった。
辺りはゴツゴツとした岩が転がるばかりだが、部屋に散乱した骨や毛皮、そして中央に眠るように固まった大岩のような巨体は見逃しようがない。
着いてしまった。僕の目覚めた場所に。
「ペンダントが……」
道案内は、部屋のまんなかを指し示して止まった。
「これが地龍様……」
イレーヌは大きく上を見上げて、ほぅと息をはいた。
「ありがとうございました、オガタさん」
「……ここで、お別れですか?」
「そうですね。オガタさんまで村の風習に巻き込むわけにはいきませんし」
「自分一人が犠牲になればいいってことですか?」
困ったようにイレーヌは笑った。
「……どうしてイレーヌさんは逃げないんですか?」
「私だって逃げたいですよ」
「でも、逃げていない」
「だって、もし私が逃げたら、誰が犠牲になるんですか?」
「それは」
「村で私の次に魔力が多いのは、私のお姉ちゃんなんです。こう見えて一番は私なんですよ」
やわらかな笑顔が、痛々しくてならなかった。
今すぐ手を引いて連れ出してしまいたいのに、彼女に触れられないのがとても悔しかった。
「早く行ってください。今は地龍様も寝ていらっしゃるようですが、起きてしまえばこの辺りは危険です」
言ってしまおうか。いや、それを伝えたとして、彼女はどうやって村の皆に話すのだろう。そもそも、信じてもらえるか分からない。
村を出た時点でそこに彼女の居場所はない。身を捧げたはずの彼女がのこのこ戻っていったら、きっと悲しいことになる。
ニーズヘッグが死んだと言ったことで、信徒に酷い目に合わされるかもしれない。
イレーヌは、もう村には戻れない。
「さようなら、オガタさん」
僕が彼女と逃げようとしても、彼女はそれを断るだろう。
彼女がニーズヘッグの死を村に伝えない限り、村からは生け贄が出続ける。きっと彼女はそれに耐えられない。
「イレーヌさん!」
それでも、彼女が目覚めないニーズヘッグのために、こんな所で一人ぼっちに幕を下ろすなんて僕の罪悪感が耐えられない!
「そのトカゲは、ニーズヘッグはもう――――」
言いかけて、僕は固まった。
金の瞳が、僕が殺したものより一回りも二回りも大きい瞳が僕を見つめていたのだ。
僕らが立っていた場所は地面なんかじゃなかった。今足をつけているこの場所そのものが巨大な龍――本当のニーズヘッグだったのだ。