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そして僕は死者を抱く  作者: 貧弱眼鏡
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一時の光

まずい。とても。


ニーズヘッグは死んだ。その事実はもう変えられない。

僕はそれを言うべきだろうか。


「い、いくら神格化されてるといっても、昔からいる奴なんですよね!? だったらもう死んでるんじゃ」

「だったら……いいですね」

あ、大丈夫そう。あとは流れでさらりと言ってしまえば――。


「でも、それ以上に悲しむ人がいます。ウチのお姉ちゃんも地龍信仰にかなり傾倒(けいとう)していますから。まぁ、そもそも地龍(ニーズヘッグ)様は自身の体を修復できるそうなので寿命があるかすら怪しいですが」

「……そう」

言えない。どうしよう、ダメそう。




「すみません、後味の悪い話をしてしまって」

イレーヌは立ち上がり、服についた砂を払った。

「私、もう行きますね。ありがとうございました、私の命を無駄にしないでくれて」

「そ、そんなことは」


「あなたの進む道に、どうか幸福が訪れますように」

そう言って、彼女は笑った。


どうしてそんな顔ができるのだろう。これから死ぬというのに。

決まっている。彼女が優しいからだ。生け贄も信仰も肯定(こうてい)しているわけではないのに、村の人のために身を捧げようとしているのだ。


「待ってください!」

諦め、といえば簡単だが、彼女の自己犠牲を僕は放ってはおけなかった。

「なんですか、オガタさん?」

「僕もついていきます。一人だと、またモンスターに襲われないか心配です」

「え、ええぇ! いいんですか!? ……じゃなくって、悪いですよ!」

「いえ、いいんです。僕がそうしたいんです!」

僕はイレーヌと目を合わせた。

「そ、そうなんですか! ……えと、だったら、よろしくお願いします!」




さて、どうしよう。戻ったらニーズヘッグ生き返ってないかな。

ゲームのダンジョンボス的なアレだったら、一定期間が経てば復活することも多い。けれど、この世界はゲームではなくリアルだ。死んだ奴が生き返ることはないと思う。そのことは道端に広がる、僕の食べ残しが証明していた。


「すでに地龍(ニーズヘッグ)様が目覚めているのでしょうか……? こんなにもたくさんのモンスターの死骸があるなんて」

「こんなに食べてたら、もうお腹いっぱいなんじゃないですかね」

「それはないです、あれが求めているのは魔力(マナ)ですから」


「さっきも言ってましたけど、そのマナって何ですか?」

魔力(マナ)ですか? 私もそんな詳しくは知らないんですけど、魔法を使うための燃料(エネルギー)になる、って習いました。知能のある生き物なら誰でも持っているらしいですよ」


おそらく、ゲームで言うところのMP(マジックポイント)だろう。さっきも少し話にでていたが、どうやらこの世界には魔法が存在するらしい。

科学に慣れた自分としては、あまりにも空想の世界すぎて実感が湧かない。まぁ、魔法でもなければこの体に蔓延(はびこ)った黒い光の説明がつかないが。


「だったら、イレーヌさんも魔法が使えるんですか?」

「簡単なのでしたら」

彼女は自分の目を指差した。なんだろうとのぞきこむと、彼女は頬を少し赤らめた後、数回まばたきをした。

「そんなに見られると、なんだか照れますね」

イレーヌがえへへと笑うと、僕もなんだか恥ずかしくなってきた。


「ほら、わかります?」

彼女が(まぶた)を閉じる度に、彼女の目の色が変わるのが見えた。

「本当だ、すごい!」

「これは、暗い所でも目がきくようになる魔法です! 他にも水の中でもよく見える魔法とかあるんですよ!」


さらに! と彼女は楽しそうにつづける。

「これは道案内の魔法を()めて作ったペンダントです! こうやって魔法を物に籠めることもできるんですよ!」

「なるほど! 応用もきくんですね!」

「そしてこれはモンスター避けの魔紋(ルーン)が刻まれたスタッフです! モンスターのいない道を教えてくれるんですよ! 自信作です!」

「すごい! ……けど、なんでそれ持ってるのに襲われてたんですか?」

「そっ、それは……(にお)いを嗅ぎ付けられてしまって」

「そうですか、(にお)いを」

(くさ)くないですよ!!」

「わかってますよ!?」


上機嫌に話を進める彼女に、どう切り出そうか迷っている内に歩は進んでゆく。


彼女の行く道は、僕が歩いてきた道筋とほぼ重なっている。

やはり、彼女の目指す場所は黒い亡骸が残るあの場所なのだろう。

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