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そして僕は死者を抱く  作者: 貧弱眼鏡
2/19

闇に囲まれて

――レベルがアップしました――


無機質(むきしつ)なアナウンスが頭の中に木霊(こだま)した。

……レベル? 何を言っているんだ。

夢? こんなに冷や汗の出る夢があってたまるか。


確かにレベルと聞こえた。ゲームのプレイヤーレベルのようなものだろうか。俺はゲームの中にいるのか。そんな馬鹿な。

「誰か、誰かいるのか!? 教えてくれ! レベルって何だ!?」

叫びが反響(はんきょう)しても、答えは返ってこない。


「何だってんだ……」

そもそもここはどこなんだ。この体についた黒いモヤは何だ。

分からない。分からないことだらけだ。


僕は(かたわ)らに倒れている巨体を眺めた。

トカゲのような、と思ったがどちらかというと恐竜のようだ。

「なんなんだよ、こいつも……」

触ってみると硬い。とてつもなくゴワゴワしている。知らない感触だった。


ギュリギュリギュリ……不気味な小音が耳にあたった。咄嗟(とっさ)に辺りを見回し、音に意識を集中した。

何かいる。隠れている。


先ほどまでは黒だけだった視界は青く晴れ、今では暗闇の中の岩の影さえ見てとれる。

気味の悪い音は、その岩の後ろから聞こえていた。


獲物(えもの)を定めるように、奴らはちらちら顔を出した。

たくさんいる。毛が見えたが、全体がつかめない。


声を上げれば追い払えるだろうか。いや、奴らはきっと僕が叫んだのを聞きつけて狩にきたのだろう。大声で逃げるとは思えない。

じゃあ僕が逃げるか。逃げるにしても、完全に囲まれている。もしさっきのトカゲみたいなのがたくさんいるとしたら、逃げきれる気がしない。

気がしない……にしても。


「ただ殺されるよりは」

僕は走り出した。文字通り闇雲(やみくも)だが、目がきく分トカゲから逃げた時よりは走れている。


「ウケェェェェエエエ!」

影の中の一体が吠えた。それにつられて周りからも喉を絞めるような鳴き声が上がり、合わさり、耳を塞ぐほどの騒音になった。


五月蝿(うるさ)い。けど、さっきのトカゲに比べたらマシだ。

「ウキィイイイアッ!」

僕に飛びかかる姿が見えた。今度はよく見える。かわせる。


(するど)(とが)った爪が僕の横を過ぎていく。

猿だ。それも(ひど)人相(にんそう)の悪い猿だ。

どうやらこいつらは猿の群れで、僕を食べようとしているらしい。

だとしたら厄介(やっかい)だ。猿は(かしこ)い。トカゲのようにむやみやたらと突っ込んではこないだろう。


再び飛びかかってきた猿を避けると、今度は別の猿が避けた先に攻撃を仕掛けてきた。(あん)(じょう)だ。

まだ予測がついている分かわすことはできるが、次々に襲いかかかる奴らにいつまで対応できるかどうか。


こちらが動きを見ていることを察したのか、奴らは数匹、数十匹のかたまりで一斉にかかってきた。

まずい。避ける隙間がない。


諦めかけた時、体が動いた。

目の前の猿を蹴り、踏み台にして、奴らの小隊を跳び越えたのだ。


どうしてこんなことができたのかは分からなかった。だが、窮地(きゅうち)をとりあえず乗り越えた僕は走った。奴らが周りを大勢で固める前に。


「ウキュアイィィィィィケッ!」

猿の声が響いた。先ほどまでとは違う、悲鳴のような声。

思わず立ち止まり振り向くと、さっき僕が蹴った猿が苦しんでいる。喉を抑え、泡を吹き、白目を向きながら暴れ、痙攣(けいれん)したかと思うと、そのまま動かなくなった。


死んだソイツの体には、僕の体に()っているのと同じ、黒い瘴気(しょうき)のような光がまとわりついていた。


ギュリギュリ……と奴らが歯を(きし)ませる音がした。威嚇(いかく)じゃない、僕が奴に何かをして、奴が死んでしまったことへの復讐(ふくしゅう)の音色だ。


「ぐぁッ!」

僕がどうするか考えるよりも前に、一匹が僕の足に噛みついていた。

「くそ、放せッ!」

振り払おうとしても力が強く、顎を外すことができない。


そして、足を止めている僕を奴らが待ってくれるはずもなかった。

次々に奴らは牙を()き出しにして、僕の体めがけて突き立ててくる。腕に、足に、いくつもの痛みが走った。


その時、黒い光が(うごめ)いた。


僕を包んでいたそれは猿たちの体を巡るように広がり、噛みつかず様子を見ていた周りの猿たちまでも包み込んだ。


直後、数えきれないほどの断末魔(だんまつま)が耳をうった。

「な、なんだ……ッ!?」

泣くような、助けを()うような酷い声。まるで地獄だった。


目を開けると、猿はみな死んでいた。

立っていたのは僕一人で、他にあるのは亡骸(なきがら)だけだった。


言葉を失った僕の耳に、聞き覚えのある無機質なアナウンスが響いた。


――レベルがアップしました。データからスキルを作成します――

【予測】【緊急回避Lv2】【音波耐性Lv2】【回避】【生存本能】【敵意検知】を取得しました。

感想、批評いただけるとうれしいです。読めない字があるフリガナおけやボケとかでもいいです

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