ままならぬ人形
「待て!」
海里が手をかざすのを気にもとめず、ニーズヘッグは目の前の肉に食らいついた。
「“待て”だって言ってるのに」
やっぱりだめかな。ある程度の知能があるなら、躾とかできるかもと思ったんだけど。
ニーズヘッグはバリバリと肉をたいらげると、今度は海里に口を開けて迫った。
「おすわり!」
体が傷つかない程度に、奴の頭を地面に叩きつける。まったく、僕と繋がっている限り僕には逆らえないとなぜ理解できないんだ。
この間モンスターを倒した時、血や肉が口に入っていたらしく、ニーズヘッグはまた魔力不十分で動き出した。
イレーヌさんのことがあったので、こいつにも知性があるのではと思ったのだけれど、やはりモンスターはモンスターだ。そもそも脳がこちらの言葉を理解するよう作られていない。
躾るには、動物に芸を教えるのと同じように飴と鞭――――こいつに飴を与えると際限がないので基本鞭だが――――体に教え込むしかない。
でも、こいつは何度やっても聞かないのだから困ったものだ。
「やっぱりある程度腹一杯にしなきゃだめなのかな」
「ダメナノカナー」
唸る僕を真似るように、イレーヌさんは首を捻った。
こっちはこっちで、相変わらず自分から言葉を話すことはしない。
一度死んだからなのかは分からないが、彼女の精神は赤子のように幼くなっている。そもそも精神や意識などというものが有るのかすらも疑わしいが、無いと言い切ってしまうと僕の心が辛い。
「オガタさん! 私は元気ですよ!」
彼女の体を操作して声を出してみると、余計な空しさが喉の奥で膨らんだ。
「おままごとの方がマシだね……」
苦い気持ちを飲み込んで、また息をはく。
空は青くて、どこまでも続いていた。




