声を出す人形
あれから数日たった。
町は復興できただろうか、もう彼らと会うことはできないのだろうか。心の中で引きずり続けている。
僕の方は、進展はないが、まぁ健康ではあった。不満があるとすれば、お腹いっぱいになるほどご飯が食べられないということぐらいだ。
どうやらスキル【死体操作】は僕から死体に魔力の操り糸を伸ばすようなものらしい。一度操った相手は、その後も繋がり続けるようだ。そのパイプを通して、僕から溢れた魔力は彼らへと届く。
ニーズヘッグどもは体の大きさから、流石にちょっとやそっとのマナじゃあ動けないとは思うけれど、それでも心配なのには変わりない。
「お前も止まるまでだいぶかかったしなー」
海里はニーズヘッグの鼻の上辺りを撫でた。
堅くてざらざらだ。それに少しちくちくする。
「アー……」
「またですか……」
イレーヌさんの体はあの日から動きっぱなしだ。マナを消費するようなことをしないし、少しでも不足したらすぐに唇を寄せてくる。僕は彼女との冷たいキスが習慣になりつつあった。
今日も人里は見えない。行き当たりばったりで進んでいるから仕方ないが、やはり寂しいものがある。たまには誰かと話したいものだ。
「あれ、コカトリスかな」
少し遠くの空に、青い鳥の群れがいるのが見えた。
コカトリスの肉は生でも旨い。いいものを見つけたぞ。
「ニーズヘッグ!」
海里はトカゲの尻尾へ乗り、そのまま大きく振らせて空へ飛び上がった。
「よっと」
素手で二羽を掴みとると、甲高い悲鳴が響く。
おお、うるさい。けれど、これで今日の夕食は確保できた。
くるりと体を捻って姿勢を整えようとした時、ポケットからグローブが零れてしまった。まずい、取ろうにも両手がふさがっている。
海里はニーズヘッグを突進させた。グローブを拾えるような器用な手足ではないが、落ちていったグローブの場所を知らせる目印にはなるのだ。
着地で舞った砂煙を凪ぎはらっていくと、ニーズヘッグはその場にちょこんと座り込んでいた。
「よしよし」
さて、グローブはどこかな。そう思った僕の前に、グローブが差し出された。
「……ウ」
「イレーヌさん? 拾っといてくれたの?」
驚いた。グローブにマナの残り香でもついていたの
だろうか。
「ありがとうございます、イレーヌさん」
「アー」
頭を撫でると、彼女は少し喜んでいるように見えた。
「……アリ、ガト」
「……うん?」
「ウン」
「……」
「……」
なにやら、聞こえたような。
「……わーい」
「ワーイ」
「喋ったぁ!?」
「シャベッター」
どういうことだ、喋れるのか。ゾンビってそんなものなのか。
ただ真似しているだけ……いや、それ真似する知性あるってことじゃないか。そういえば、初めて彼女の死体が動くのを見た時にも何か言葉のような嗚咽が漏れていた気がする。
もしかして、ある程度の知性はある、のかもしれない。
「ごほん」
気を取り直して、彼女と向かい合って座り込んだ。
「えーと、僕がわかりますか? おがた、緒方海里です」
「……?」
やっぱり、わからないか。
「僕は海里。か、い、り」
「ボクワ、カイリ」
「うーん」
彼女は瞳孔の開いたまん丸の目で僕を見つめた。吸い込まれるようで、それでいて少しきらめいていて。こんな状況でなければ、僕も少し照れていただろう。
こんなこと、前にもあったような……どこかでこんな顔を見た気がする。
「かいり」
自分を指差して言った。
「……カイリ」
「うん、えらい」
海里が頭を撫でてやると、イレーヌは彼の手をとり、頬ずりをした。
ああ、そっか。弟――千里が小さかった頃に似てるんだ。何でも真似をしたがって、褒めると嬉しそうにして。
懐かしいなぁ。もっと色々かまってやればよかった。
「ァ~ムゥ」
「イレーヌさん指食べないでそこからマナ出ない痛ッ! 噛まないで血が出るから!」
イレーヌは何も知らない子どものようだった。
彼女の口から指を引き抜くと、綺麗な歯形がついている。
「はは……」
なんだか、手のかかりそうな事実が発覚したもんだ。でも、嫌な気分じゃない。子ども同然だとしても、会話の相手ができたんだもの。
それに、もしかしたら言葉を教えれば、もっと話せるようになるかもしれない。そうなれば、寂しくはなくなる。こんな生活だけれど……少し、楽しみだ。




