地を狩る影
――そういうわけで、僕はとあるパーティにお邪魔させてもらっている。
「緒方海里です! よろしくおねがいします!」
「よろしく! 俺はマグ=ギャビンだ」
ニカリと白い歯を見せる彼は、肉屋で働いているそうだ。
他のメンバーは同じく肉屋のサルサラ、青果店のグラピー、靴屋のヤカン、服屋のテルモッタとナーミン。皆バラバラだが、それもそのはず。彼らはモンスターを狩るために一時的に協力しているだけで、正式なパーティを組んでいるというわけではないのだ。
酒場の主人――ドルカが言っていたように、国の中で発生した依頼を、小遣い稼ぎに国の者がやっているのである。
……ところで。
「どうしてあなたもいるんですか?」
「いいじゃない、べつに」
パーティにお邪魔させてもらっているのは、僕だけではなかった。女の子がもう一人、先日僕に腕相撲で負けた彼女がいる。
「アタシも少し稼ごうかなーって。それについていけば、アンタが本当にモンスターを倒せるほど強いかわかるでしょ?」
「まだ疑ってるんですか……。あの勝負で僕の力は分かったでしょう」
「いーや、まだアタシはアンタを認めたわけじゃないからね」
「認められたら何かあるんですか?」
「一杯おごったげるわ」
「だからまだ飲めないですって」
「そうだった、まだお子様だったわね」
彼女は得意気に笑った。
「そうだ。言ってなかったけど、アタシはカリンカ=ロルン。カリンカでいいわ。よろしく、オガタ」
「どーもよろしく、カリンカさん」
「カリンカでいいって言ってるのに」
かわいくないとでも言いたげな目だ。別に彼女にどう思われたところで、どうというわけでもないのだが。
「ほら見てみろオガタ、どーよこれ!」
マグがうさぎのようなモンスターの首を掲げて言った。
「すごいですね」
「だろ? こいつはすばしっこいんだ。獲るにはまず周りから数で追い込んでいかなきゃなんねぇ」
「それと、角で突いてくるから真正面に立っちゃダメだよ」
「なるほど」
彼らが教えてくれるので一応真面目に聞いてみてはいるが、地上のモンスターはどうにも弱々しい。まぁ、僕が今まで戦った奴らが強すぎただけだとは思うけれど。
狩りをするというので意気込んでいたが、ここでの狩りは地下のそれに遠く及ばない。
攻撃は痛くないし防御ももろい。動きものろければ気配もまるわかりだ。
的じゃないんだから、もっと抵抗すればいいのに。僕が近づくと、どいつもこいつも毛を逆立てて吠えるばかり。
これなら、そこまで気を張らなくてもよさそうだ。
「なんか、アンタが行くとモンスターが皆逃げちゃうんだけど」
カリンカが言った。服が汚れていないところを見るに、おそらく彼女はまだ何も獲れていないらしい。
「じゃあ、僕は向こうに行きますね」
「ちょっと、一人で行くと危ないわよ」
「そこまで離れたところには行きませんよ」
僕が藪をかき分けていくと、カリンカも後ろからついてきた。
「一人だと心配だし、アタシも行くわ」
「別に危ないことなんてしませんよ」
「どうだか。なんかアンタ、調子にのってるみたいだし」
「調子に?」
思い返してみれば、たしかに少し油断していたかもしれない。いくら弱いと言っても、相手はれっきとしたモンスターなのだ。気を緩めたところにガブリ、ということもありえないわけではない。
「すみません、カリンカさん。集中しま――」
「シッ!」
彼女は唇に人差し指を添えた。
「あれ、見て」
言われるままに視線を移すと、一つの木の上の方に、キチキチ声を出す青い生き物がいる。
「あれって……鳥? ですか?」
「そう、コカトリスだ」
「……! あれが!」
「アイツの嘴には気をつけて。あれに突かれると体が石みたいに固まっちゃうんだ」
「石みたいに……!?」
「魔力由来のものだから、しばらくしたら元に戻るんだけどね」
治るにしても、モンスターのいる所でしばらくの間動けなかったら死は免れないだろう。
「どうするんですか?」
「アイツら、まだこっちに気がついてない。真下に移動してこれで落とす」
カリンカの手の中に、火でできた槍のようなものが浮かびでた。
「……魔法!」
「驚いた? アタシだってこれぐらいはできるんだ」
彼女は自慢気に僕を見ると、そろりそろりとコカトリスに近づきはじめた。
その時、僕の背筋に汗が伝った。ぞくり、ぞくり。嫌な汗だ。
【敵意感知】に反応はない。周りに他のモンスターの影もない。
何の予感だ?
答えはすぐに、僕らの目の前に姿を見せた。
カリンカの真下、地中から大きな牙と口が現れたのだ。
「なッ!?」
「カリンカさん!」
彼女の体は容易く飲み込まれ、すぐに地面に潜り消えていった。
「くそッ!」
敵意が感じられないはずだ。奴は最初から弱い方狙いだった。
「ニィィイズヘェッグ!」
ドウドウドウと大地を鳴らして、その龍は唸りを上げた。
「地面に潜る奴だったら、こっちにもとびきりのがいるッ!」
キルシュムに着いてからはずっと地中に隠していた、ニーズヘッグの子龍。まさかこんなことに使うとは思ってもみなかった。
「ルグオォォォォォッ!」
ニーズヘッグの顎はすぐに奴をとらえた。
悲痛な鳴き声が地上まで吹き出し、しばらく地面を揺らす。逃がす気はない。
しかし、何かおかしい。地響きの波が段々と大きくなっている。揺れの源がこちらに近づいているのだ。
この手応えからして、ニーズヘッグの牙は奴の体を捕らえて離していないはずだ。だとしたら何故? 二匹いるのか?
――いや、ちがう。
地面が大きく割れ、奴が姿を表した。今度は口と牙だけでなく、その長い体をくねらせて。
「まったく、トカゲには縁があるみたいだね」
尾のない蜥蜴が、空に吠えた。




