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そして僕は死者を抱く  作者: 貧弱眼鏡
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罪を抱いて

青く空の光る地上の世界。しばらくぶりに浴びる陽の明かりは夢みたいに体に()みわたった。自分の知っているものとは違う太陽だとわかってはいるが、やはりこの日の下で生きてこそ人間って感じがする。


さて、これからどうするか。


地下から地上に来る時に使った親ニーズヘッグの死体はもう捨てておいていいだろう。もったいない気もするが、頭一つ外に出しただけでもこんな巨大なんだ。連れていくことはできない。


「行こうか、イレーヌさん」


僕は彼女の体を()(かか)え、子供の方のニーズヘッグに乗った。




ようやく人の世界に出られたというのに、心だけがまだ地下にあるみたいに沈んでいる。なにか重いものが胸にのりかかっているのだ。


出た場所から一番近かった国――キルシュムと言うらしい――は北方に突如現れた巨龍の話で持ちきりだった。


「二人なんですけど、部屋は空いてますか?」

「はいはい空いております。おう? お二方とも随分(ずいぶん)とくたびれた格好をしてらっしゃいますが、何かあったので?」

「少し、いやだいぶ危ない目にあいまして」

「はは、それはお可哀想に。奥方様を早く綺麗にしてあげてくださいよ。せっかくの美人が台無しだ」

「そんな関係じゃないですよ……」


イレーヌの顔は綺麗だった。死んでいるなんて思えないほどに。

不思議なことだが、この黒い光で殺した相手は死体になっても腐らないらしい。その証拠に、殺して一ヶ月以上経っている子トカゲがまだピンピンしている。本来なら筋肉が硬直するなり機能が壊れるなりするはずなのに。


まるで魂だけ食いつぶされたみたいだ。イレーヌの顔を見てそう思った。


「ごめん、イレーヌさん。あの杖もペンダントも売ってしまいました。お金が必要だったんです」


宿代と僕の体を覆う服の代金、合わせて12シラル。手に残ったお金は9シラル。容易には使えない。


汚れた体を洗うために、彼女の服を脱がせた。

見てはいけないと思っていても、彼女の手を動かすためには僕が見ていないといけない。

ドクリと、背徳感にも似た興奮が背筋に沸き上がった。


どうしてこんな気持ちになるのだろう。どうして相手は死体なのに、体はどうしようもなく綺麗な人間なのか。


彼女の胸に手を伸ばそうという時、ハッと我にかえった。


「……さすがに最低すぎるな」


ふわりとした体つきに、白めの肌が傷をよく目立たせた。

こんなやわらかそうな腕で、どうしてあんな勇気が出せるのだろうか。


彼女の手はとても冷たかった。だからこそ、僕の体の温度が分かる。僕は生きている。


これまで殺したモンスターの悲鳴が頭に響いた。奴らも生きていた。生きていたのだ。


僕が、殺した。


モンスターも、ニーズヘッグも、イレーヌさんも。


彼女の手を冷たくしたのは僕なんだ。

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