第8話「機構戦乙女」
目を覚ました青島は、真っ白で何もない空間に一人立っていた。
どうして自分がここにいるのか、そもそも自分は誰だったのか、何をしていたのかも考えられずぼんやりとただ立っていると、白い空間が徐々に青く染まっていく。
晴天の様な透き通った青色が空間を埋め尽くすのと同時に、青島の前に銀髪の少女が現れた。
「ようやく落ち着いて話が出来ます」
語りかけてきた少女を見て、ようやく青島は自分の身体に意識が戻るのを感じ取る。遺跡に潜り、命令を無視して死にかけた事、不思議なサイバーゴーストの少女と出会った事……少女の身体が入った棺桶に入れられた事……、
(あんた! ……俺の足……治ってる?)
驚いて自分の足を見ようとするも、青島は酷く奇妙な感覚に襲われた。自分の足、いや足だけではなく自分自身の体全てが見えてはいるのに、何故か透き通ったような感触でしか認識出来ないのだ。
ただ漠然とそこに体があるのは分かるものの、どんな形かどんな色かさえ分からない。そもそも自分が、声を出していなかった事に気付くのにも時間がかかった。
「今貴方の意識は、私の意識と共有する為に電脳空間にいます。無理に認識しようとする必要はありません」
(俺もサイバーゴーストになったってことか?
「その質問に対する答えはノーですが……現実世界での私が、今の貴方と同じ様な状態ですので、イエスと言えなくもありません」
(あんた……結局何者なんだよ。俺をどうするつもりだ?)
「私の正式名称はVG‐02 15/D 対光子生物兵器・ヴァルキリーギア高速機動型十五号機。通称、μといいます」
ペコリと頭を下げるμを、青島は黙って見つめていた。返す言葉が見つからなかったし、とてもではないがミユの言っていることを鵜呑みに出来なかったからである。
(対光子生物兵器? ヴァルキリーギア……オートマタみたいなもんなのか?)
「誇り高きヴァルキリーギアを、あんな低次の兵器と比べられるなど心外です」
ムッと拗ねる仕草が余りに人間そのものなので、とてもではないが目の前の少女が兵器だなんて思える筈がない。
「言いたい事は理解出来ます……そうですね、丁度時間です。いつまでもここにいるのはよくないですし、説明するより見ればすぐに納得出来るでしょう」
μの言葉と同時に青一色だった世界が今度は黒く染まり出す。
(おい! どうなってんだよ!?)
「心配はいりません。貴方に戦う体を差し上げただけです』
μの声が段々と遠のくのに合わせて、輪郭が徐々に歪んでいき、やがてそれに合わせて青島の視界も意識も、黒一色に塗りつぶされていった。