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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
二章/邂逅´共闘
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第7話「電脳幽体」

 役職(光子色)――名前――身長――年齢――ライセンス――特殊兵装


 分隊長(五色)――()(ぎょう) 祐作(ゆうさく)――175cm――28歳――A‐5――オートマタ五体※

 副隊長(緑)――(くま)() (たけし)――180cm――40歳――B‐2――高出力補助擬腕(ハイパワーサブアーム)

 衛生兵(緑)――知多(ちた) 丹阿(にあ)――157cm――32歳――B‐4――光子(フォトン)治療(ヒーリング)装置

 衛生兵(白)――(りく) 光太郎(こうたろう)――177cm――27歳――B‐5――光子治療装置

 強襲兵(赤)――牛頭(ごず) 富則(ふみのり)――177cm――29歳――C‐1――高圧縮フォトンアックス

 狙撃兵(黒)――黒沼(くろぬま) 小夜子(さよこ)――160cm――25歳――C‐1――FB(フォトンバレット)M89XA1

 電脳兵(黒・青)――毒島(ぶすじま) 才可(さいか)――150cm――25歳――C‐2――光学迷彩

 狙撃兵(赤)――影山(かげやま) (はじめ)――168cm――26歳――C‐2――FM‐X21改

 強襲兵(赤)――小此鬼(おこのぎ) 拓弥(たくみ)――165cm――25歳――C‐4――高周波フォトンブレード

 支援兵(白)――(くれ) 雅人(まさひと)――181cm――27歳――C‐5――フォトンシールド

 強襲兵(赤)――雷電(らいでん) 太郎(たろう)――171cm――23歳――E‐1――NベネリFM33

 偵察兵(青)――青島(あおしま) 竜也(たつや)――169cm――22歳――E‐4――なし


 ※従来のライセンス基準では禁止だが、特別許可が降りているため問題なし

 ――――『関東西新宿区第参要塞都市 人事部ファイル』より最新データを一部抜粋








「お兄ちゃん、今日はどこへ行ってきたの?」


 ――クレイドルの外壁を昇ってきたんだ。すごい景色だったぞ。


「お兄ちゃん、今日は何を見てきたの?」


 ――見てみろ、猛獣の牙だ。きっと近くで奪還者(リテイカー)が倒したんだろうな


「……お兄ちゃん、私はいつになったらお出掛けしていいの?」


 ――……体が良くなったらな。その時は一緒に行こう。


「……お兄ちゃん、私はもう何も見にいけないの?」


 ――……今はまだな。それまでは兄ちゃんが代わりに色々見つけてきてやるさ。





  ……近いけど遠い記憶、青島にまだ妹がいた頃の走馬灯。

  青島の妹は生まれつき体が弱かった。

  青島が見てきた外の出来ごとを毎回楽しそうに聞いていたが、結局青島の妹は生まれてから一度もクレイドルはおろか、ベッドから出ることすら叶わず命を落とした。

  妹の死後なによりも青島を苦しめたのは、親をはじめとした周りの誰もが、妹の死に苦しまなかったことだった。どの道あの体では奪還者(リテイカー)どころかろくに働くことすら出来なかったから仕方ないと……働けない人間に価値はないと婉曲に言われた事が辛かった。

 それからというもの、青島は征歴の世の中に対して心の隅で否定的な感情を抱くようになっていたのかもしれない。生きる為に戦っているのか、戦う為に生きているのか……どうして誰もその事に疑問を持たないのか。これではまるで、プログラミングに従って戦うオートマタと一緒ではないかと。

 しかし征歴の世の中は結果が全てだ。命令無視をした青島がこうなったということは、やはり間違っていたのは自分ということなのだろう……。


 意識が戻った青島は、ゆっくりと自分の状態を確認する。どうやら即死はしなかったようだが、視線をおろすと両足が見るも無残な状態になっていた。周囲に散り積もった動植物の残骸が、クッションになってくれたおかげで死なずには済んだようだが……。

 青島は自分が落ちた空洞を見上げるも、ズームの倍率をかなり上げたところでようやく自分が落ちたであろう亀裂を発見し、あまりの高さに絶望した。両足がこの状態では自力では登れないし、助けがくるとも到底思えなかったからだ。


「俺、ここで死ぬのかぁ……」


 絶望で停止した思考がポツリと益体もない言葉を吐き出す。何も考えたくないのに嫌な想像ばかりが脳内を埋め尽くし、青島は零れる涙を止める事が出来なかった。


「もう一回やり直せるなら、もうゴチャゴチャ悩んだりしないで……今度はもっと上手く戦うのに……なんてな」


 今度こそ、道具は道具らしくただ命令に従って……なとどあり得ない事を考えながら泣きじゃくる。

 そうして泣く事数分後、今更どうでもいいとは思いつつも、やはり涙でグチャグチャになった状態のままは気持ち悪いので、顔を(ぬぐ)おうとヘッドギアを外そうとした瞬間、


『貴方はまだ戦いた――』


 青島の耳に凛とした女性の声が引っ掛かる。しかし周囲をいくら見渡しても、声の主が見つからなかった。こうも暗くては当然かもしれないが、それにしても先程はきちんと聞こえた女性の声が、今は全く聞こえてこないのも妙である。

 そのまま耳をすましていると、僅かではあるがやはり声が聞こえるような気がした。


「誰だ! どこにいる!」


『………………』


 やはり誰かが何か言っているようだが、声が小さすぎてよく聞こえない。しかし注意深く聞いてみると、おかしなことに音源はかなり近くのようだ。もしやと思い、脱ぎ棄てていたヘッドギアを再び装着すると、


『やっと気付いたようですね』


 声どころか青島の眼と鼻の先で、銀髪の少女がこちらを覗きこんでいた。ヘッドギアはおろかマスクもつけず、遺跡の奥深くに突如出現したた少女は、まるで幽霊のようにすら感じた。


「うわぁ! え? いつの間に、なんで――痛ェ!」


 慌てて身をよじろうとして両足の痛みがぶり返す。その間も銀髪の美少女は、真っ赤な瞳で黙ってこちらを覗いていた。


「イテテテ、そんな近くにいたなら、もっと大きな声で喋ってくれればいいのに」


『条件を満たす音量は出していました。聞きとれなかったのは貴方の所為です』


 銀髪の少女は立ちあがるとムッとしたように眼を細めた。しかし青島としてもいわれのない中傷を受ければ腹も立つ。


「俺の所為? だったらわざわざ通信じゃなくて、直接声をかければよかったじゃないか」


『……視線はそのままで、ヘッドギアを外してみて下さい』


 青島はわけが分からないと不満には思いながらも、銀髪の少女の有無を言わさない凄みに負けてしぶしぶヘッドギアを外した。すると不思議な事に、ヘッドギアが外れるのと同時に目の前にいる筈の少女は、影も形もなくなったではないか。

 暗いとはいえ流石にここまで近くにいれば見える筈だし、そもそも気配が全く感じられないのも異常である。ヘッドギアを着ければ、少女は依然として目の前に立っているというのにだ。


「どういうことだ……?」


『不思議なのはこちらも同様です。ヘッドギア越しとはいえ、電脳幽体(サイバーゴースト)である私を貴方はどうして視認出来るのですか?』


「サイバー……ゴースト?」


 青島は聞き慣れない言葉をメモリーバンクで検索してみると、高次の意識体は稀に体が無くなっても、ネットの海に意識を焼きつけて生と死の狭間に取り残されることがある……等となんとも怪しげな文章が検索に引っ掛かった。


『その反応は当然です。私自身、どうして自分がこのような状態になったのか説明出来ません……しかし今は私の事はどうでもいい。もう一度質問します、貴方はまだ戦いたいのですか?』


 宝石のような深紅の瞳が、青島を真っ直ぐに見下ろす。確かに今青島の体に雑談を交わす余裕はない。原形を留めていない両足の感覚は既に痛みを通り越して曖昧(あいまい)になってきていて、こうしている間にもドクドクと青島の体から血液を垂れ流していた。


「……あんたにこれがどうにか出来るのか?」


『出来るから声をかけたのです。もっとも、聞こえるとは思っていませんでしたが』


 青島は息を飲みながら少女を見つめる。何故マスクを着けずに無事でいれるのか、電脳幽体(サイバーゴースト)とは何なのか、聞きたい事は山ほどあったが今は一刻の猶予もないのも事実だ。どの道これ以上失うものなど無いのであれば……、


「俺は、まだ戦いたい……こんな所で死にたくない!」


 青島は少女の瞳を真っ直ぐに見返し、なんの飾り気もないまっすぐな気持ちをぶつける。

 少女は目を瞑り何が考えるような仕草を見せると、ふわりと背を向けて、


『分かりました。それでは貴方に私の体(・・・)を差し上げましょう』


「君の……体? どういう――」


『質問は後です。まずは意識が落ちる前に、もう一頑張りして貰わなければなりません』


 ぴしゃりと青島の言葉を少女の言葉が遮る。それと同時に重低音を響かせながら少女が光に包まれた。少女の背中側の壁がゆっくりと開いていったのだ。


『こちらの部屋まで這って来て下さい。計算では失血死する前に辿りつけますが、医療キッドを使えば成功率はさらに上昇するでしょう』


 少女に言われ、装備の中に治療道具があったことを思い出す。今は手にして(・・・・・・)いないので(・・・・・)うっかり失念していたのだ。

 思念操作でヘッドギアの画面を操作すると、青島の手に光子(フォトン)の光が螺旋状に展開される。光が散開すると中から痛み止めや包帯など、治療に必要な道具が一式ずらりと出現した。

 フォトン技術の基礎にして最大の奇跡。そして人類再建の要。それが物質の光子(フォトン)化である。

 今は一部の化合物に限るものの、かつての文明では人や物を問わず一旦フォトンに変換して、あらゆる場所に転送したり、データとして保存して持ち運んだりする事が可能だったそうだ。

 施設を建てる為の資材や、奪還者(リテイカー)たちの追加兵装(オプション)も、フォトンに変換する事で一度に大量に持ち運べる。

 もっとも今の技術では、一度に運べる容量はそれほど多くない上に、超長距離の物資転送はエネルギーの問題が解決しておらず、奪還者(リテイカー)の奪還待ちとなっている。

 薬の用途や包帯の巻き方などは講習で習っていたものの、いざ実践となると、しかもこれほどの重傷の対処を本当に自分が出来るのだろうかと、青島が手をこまねいていると……、


『自信がないのでしたら私が指示を出しましょうか?』


「……悪い、頼む」


『ではまず……』


 名もしらない少女の指示に従いながら、青島は両足の処置を施していった。少女はこういった状況に慣れているのか、実に的確な指示を出していく。やはり命令に従うことが自分の用途ということだったのかと、どこか悲しげに青島は手を動かし続けるのであった。

 少女の完璧な指示のおかげか、どうにか痛みを抑えつつ青島は光っている部屋へと体を引き()っていった。


「なんだここ……」


 部屋は青島の想像よりも狭く、壁は一面計器で埋め尽くされて、それぞれが絶え間なく動き続け光を放っていた。中央に重苦しい空気を纏った、巨大な棺桶のような箱が鎮座(ちんざ)している所為か、まるで墓場のようだと青島は思った。

 少女が操作盤のような機械の前に立つと、棺桶がひとりでに蓋を開く。ヘッドギアの観測装置が、棺桶から溢れ出ているのが冷気だと知らせていた。


『この中に入って下さい。後の処置は私だけで出来ますので』


 一瞬戸惑う青島であったが、少女の言葉を信じ……正確に言えば半ばやけくそに両腕のモーターにフォトンを灯し、最後の力を振り絞って腕の力だけで棺桶の中へ入り込んだ。

 衝撃を予想して目をつぶるものの、棺桶に転がりこんだ青島を何かがクッションとなって受け止めたので痛みはなかった。

 目を開いた青島は驚きで言葉を失う。

 青島を受け止めたのは、銀髪の少女の体だったからだ。


「おい! どういう――」


 振り返ろうとするものの、棺桶のふたは重い音をたてて再び勝手に締まってしまい、どうすることも出来なかった。

 パニックになりめちゃくちゃに暴れようとしたがそれだけの力は残っておらず、青島の意識は真っ暗に途切れていった。

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