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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
六章/飛翔´起動
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第39話「誇りの戦い」

 そんな馬鹿な……と呆然する青島の前で、μ(ミユ)は完全にその姿を消失させた。

 一体何故……あれが最後の助言だったとでも言うのか……驚愕と絶望が青島の脳内を渦のようにかき乱す。

 かき回された思考は、走馬灯のようにμ(ミユ)との思い出をフラッシュバックさせた。

 最初は視界の端に偶然引っかかり、後を追っても霞のように消え去ったかと思えば、青島に新しい足と命を与えてくれて、共に戦うようになり、一度はただ依存するだけになりかけたが、遂にはパートナーとなり……、

 ヘッドギアの中で涙があふれ出す。マスクを振り払って泣き叫びたい感情を青島は必死に抑えつた。

 しかし青島が泣き叫ぶことすら許さないのか、ゆっくりと地響きをたてながら覇奴魔(ハヌマ)が接近してくる。周囲を見渡すと、どうやら猿吠(エンホ)の包囲は完了したようだ。

 青島は死を明確に感じ取った。震えを通り越して凍りつくような寒気が全身を襲い、余りの寒さに思考すら停止しそうになる。

 楽になるのは簡単だ、このままここで立ちつくしているだけでいい。あの大木のような腕ならば即死だろう。

 死ねばμ(ミユ)にまた会えるだろうか……そんな想いが青島の脳内を掠めた。

 しかし……そんな惨めな終わり方は、μ(ミユ)は決して許さないだろう。何よりも彼女の誇りがそれを許さないという確信があった。

 考えることをやめるのは簡単だ。しかしそれは二度としないと誓った。青島は最後の瞬間まで兵士であり続けなければならないのだ。それが誇り高き機構戦乙女(ヴァルキリーギア)のパートナーである青島の誇りなのだから。

 パートナーという言葉でふと引っかかる。つい先程、μ(ミユ)に初めて言われた言葉だ。

 その時の話しの内容を連鎖して思い出す。

 μ(ミユ)は自分が懇願する仕草をしたことを、かなり根に持っているようだった。あの(・・)μ(ミユが)、いくら絶望的な状況だからといって、それをまたここで安易にやるだろうか?

 ……もしかしたら、まだ何かあるのかもしれない。諦めるにはまだ早いと青島の眼に決意が宿る。

 青島は死ぬ訳にはいかない、μ(ミユ)とそう約束したのだから。残されたフォトンを全身に溜めて、青島は最後の攻撃の段取りを練る。

 残ったフォトンで、先程のようなアクロバティックな奇襲は出来ない。ならば残された手は今度こそ空閃(スカイレイ)を撃ちこむしかないだろう。フォトン残量から威力は落ちるだろうが、覇奴魔(ハヌマ)を仕留めるには事足りる筈だ。両手が弾け飛ぼうと、死ぬよりはずっとマシに決まっている。

 問題は翼刃(セイバー)は今、敵の手にあるということだ。

 一か八か奪い取るしかない……覇奴魔(ハヌマ)を狙っていると見せかけた突進で翼刃(セイバー)を奪還し、そのまま近距離で空閃(スカイレイ)を撃ちこむ……なんともお粗末な作戦だが、それが青島の限界(・・)だった。

 振り絞った青いフォトンが淡く光る。青島は片翼の翼刃(セイバー)を固く握りしめた。

 青島が捨て鉢に特攻してくるとでも思っているのか、覇奴魔(ハヌマ)はにんまりと意地悪い笑みを浮かべていた。

 青島もじりじりと歩きはじめ、互いの距離がどんどん詰まっていく。


 50メートル……まだ遠い。


 

 30メートル……まだ遠い。覇奴魔(ハヌマ)に集中する余り、青島は周囲の音が消えたように感じた。






 20メートル……ここまでくればお互いが一息で攻撃出来る。しかしまだだ、奇襲を成功させるにはまだ遠い。μ(ミユ)のように正確な計算は出来ないが、この距離では成功のビジョンがイメージ出来なかったのだ。

 しかし覇奴魔(ハヌマ)はどうしたことかそれ以上近づいて来ようとしない。そればかりか青島が詰める距離をじわじわと外してくる始末だ。

 戦う為に生まれてきた生物の勘か、あるいはこれほど巨大に成長するまでに培った経験か、覇奴魔(ハヌマ)は決して青島の間合いに入ろうとしてこなかった。

 集中力が切れるのが先か、体力が尽きるのが先か……いずれにしろこのままでは結果は目に見えている。

 自信はないが覚悟を決めるしかない。既にフォトンは限界まで装填してある。後は解き放つだけだ。

 荒い自分の呼吸も、輝くフォトンのうねりの音も耳に入らず、耳が痛くなるような静寂の中に青島はいた。

 一瞬でも気を抜けば覇奴魔(ハヌマ)の腕に薙ぎ払われる、それを避けられたとしても先程のようにもう片方の腕で今度こそ殺されるだろう。

 慣れ親しんだ筈の、全身に纏ったパワードスーツの重みが耐えきれなかった。μ(ミユ)から貰った両足が石のように重い。

 視界がぼやけ、もしかして本当に呼吸が止まっているのではないかと錯覚しそうだった。


「グオオオオオオオオオオオオッ!?」


 それ(・・)を見て動いたというより、ほとんど反射で動いたようなものだった。

 嵐の前のような静寂を撃ち破ったのは、青島もそして覇奴魔(ハヌマ)も予想だにしていなかった、σ(シグ)の銃撃だったのだ。

 猿吠(エンホ)に羽交い絞めのように持ち上げられていたσ(シグ)にそこまでの余力があったとは、青島は勿論覇奴魔(ハヌマ)ですら思いもよらなかったに違いない。

 あの狡猾な覇奴魔(ハヌマ)が敢えて自身の傍に置いた以上、最早反撃する力は残っていないと思っていた。

 顔面を撃ち抜かれた覇奴魔(ハヌマ)は、猿吠(エンホ)ごとσ(シグ)を握りしめ地面に叩きつける。しかし叩きつぶされた猿吠(エンホ)の血が舞い散る時には既に、もう片方の肩に乗った猿吠(エンホ)も青島の手で首を刎ねられていた。

 慌てた覇奴魔(ハヌマ)が、咄嗟に両腕で防御を固めるももう遅い。奪還し連結した翼刃(セイバー)は、青島から供給されたフォトンを爆発させ、青い暴風を解き放った。


「いっけえええええええええええええええええええええええええ!」


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