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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
六章/飛翔´起動
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第38話「青い去光」

■青島〉『μ(ミユ))! 聞こえるか? 翼刃(セイバー)を片方なくしたんだ。あれがなきゃ覇奴魔(ハヌマ)を倒せない。近くに落ちてないか?』


 μ(ミユ))に通信を送るも返事はこない。まだ傷心から立ち直れないのかと青島も胸を痛める。何百年ぶりにやっと会えた同胞だ。一度は争ったとはいえ、ショックは計り知れないだろう。

 しかし今は慰めている場合ではない、σ(シグ)に報いる為にも、なんとしても翼刃(セイバー)を見つけ覇奴魔(ハヌマ)を倒さなければならない。


 切り離されたとはいえそう遠くには離れていない筈だと、青島は周囲をくまなく探すも見つかるのは猿吠(エンホ)ばかりである。


「時間もフォトンもないってのに――邪魔なんだよ!」


 翼刃(セイバー)に最低限のフォトンを装填し、襲いかかる猿吠(エンホ)を切り捨てていく。

 フォトンと他のエネルギーの最大の違いは、圧倒的な燃費の良さにある。陽光からも月光からも変換でき、保存場所も取らずパワーも段違いだ。

 さらにフォトンチッドからも変換出来るので、本来ならまず間違いなくエネルギー不足など起こらない。

 しかし青島の場合は少し事情が違う。

 翼刃(セイバー)μ(ミユ)の両足は、征歴の技術とは比べ物にならない出力を誇る。つまりそれだけ使うエネルギーも桁違いなのだ。

 今まではμ(ミユ)が綿密な計算の元調整してくれていたが、σ(シグ)戦で空閃(スカイレイ)を撃った際の大量放出からの、先程の奇襲の失敗で底をつきかけているのだ。

 これ以上のフォトンの浪費は防がなければ、待っているのは敗北と死だ。

 どうにか襲い来る猿吠(エンホ)を蹴散らしたところで、青島はついにお目当てのものを発見した。

 遺跡の壁に突き刺さっていた翼刃(セイバー)に手を伸ばす青島だが、なんとすんでのところで横から入ってきたエンホが翼刃(セイバー)を掻っ攫ってしまった。


「あっ、おいちょっと!」


 苛立つ青島を小馬鹿にするように、ニンマリと笑う猿吠(エンホ)はすたこらと走り去ってしまう。


「待てええええ!」


 慌てて追いかける青島。しかし瓦礫が積み重なり足場の悪い遺跡群の中では、猿吠(エンホ)との距離は一向に縮まらない。やむを得ず両足にフォトンを灯し、一気に加速するも……青島の手が翼刃(セイバー)に届く前に、猿吠(エンホ)は先程の巨大な覇奴魔(ハヌマ)の元へ辿りついてしまった。

 両肩にσ(シグ)、そして翼刃(セイバー)を持った猿吠(エンホ)を乗せた覇奴魔(ハヌマ)は、青島を見下ろしながらゲゲゲゲゲと不気味な笑い声を上げた。

 万事休すかと青島が諦めかけたその時、遺跡の影から滑るようにμ(ミユ)の姿が現れた。

 青いワンピースと銀髪が月光に煌めく姿は、余りに幻想的過ぎて戦場の時を止めるかのような違和感を青島に与える。

 声をかけようとする青島に、μ(ミユ)は唇に指を当てそれを遮る。たしかに見えていないとはいえ、心強い援軍が来てくれたことをわざわざ知らせるのは馬鹿げている。

 そのまま容易く覇奴魔(ハヌマ)の懐へ潜り込んだμ(ミユ)は、σ(シグ)のボディの元へ向かった。

 μ(ミユ)がどうする気かは分からず、青島は黙ってそれを見つめていた。周囲を猿吠(エンホ)が塞ぎつつあるのは気付いていたが、どの道逃げるタイミングは失われていたし、元々そんなつもりもなかった。

 σ(シグ)の体を優しく撫でたμ(ミユ)は、σ(シグ)の耳の辺りと自らの耳の辺りを指差す。最初は何のことか分からず首を傾げそうになる青島だが、ハッと先程の戦いを思い出す。

 σ(シグ)はこちらの通信を傍受する機能を持っていた。もしあの戦いの後その機能をつけたままになっていたら……そして半壊したσ(シグ)の頭部からそれが漏れていたら……?

 何故急に猿吠(エンホ)翼刃(セイバー)を持ちだしたかがこれで分かった。

 あれ程老獪な覇奴魔(ハヌマ)なら、人の言葉を理解していてもおかしくはない。恐らく青島が武器を探しているのを傍受した覇奴魔(ハヌマ)が、部下に探させたに違いない。

 μ(ミユ)が来てくれたことで一縷の可能性が開けるように思えたが、蓋を開けてみればさらなる絶望だけだった。μ(ミユ)との連携も当てに出来ない以上、最早青島に勝機はないのでは……何か他にμ(ミユ)から助言を貰えないものかと視線を送るも、μ(ミユ)は黙ってこちらを見つめ先程のように懇願する仕草を取った。

 後は自分でどうにかしろということなのかと焦る青島が見たのは、青いフォトンの粒子になり消えていくμ(ミユ)だった。

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