第38話「青い去光」
■青島〉『μ! 聞こえるか? 翼刃を片方なくしたんだ。あれがなきゃ覇奴魔を倒せない。近くに落ちてないか?』
μに通信を送るも返事はこない。まだ傷心から立ち直れないのかと青島も胸を痛める。何百年ぶりにやっと会えた同胞だ。一度は争ったとはいえ、ショックは計り知れないだろう。
しかし今は慰めている場合ではない、σに報いる為にも、なんとしても翼刃を見つけ覇奴魔を倒さなければならない。
切り離されたとはいえそう遠くには離れていない筈だと、青島は周囲をくまなく探すも見つかるのは猿吠ばかりである。
「時間もフォトンもないってのに――邪魔なんだよ!」
翼刃に最低限のフォトンを装填し、襲いかかる猿吠を切り捨てていく。
フォトンと他のエネルギーの最大の違いは、圧倒的な燃費の良さにある。陽光からも月光からも変換でき、保存場所も取らずパワーも段違いだ。
さらにフォトンチッドからも変換出来るので、本来ならまず間違いなくエネルギー不足など起こらない。
しかし青島の場合は少し事情が違う。
翼刃とμの両足は、征歴の技術とは比べ物にならない出力を誇る。つまりそれだけ使うエネルギーも桁違いなのだ。
今まではμが綿密な計算の元調整してくれていたが、σ戦で空閃を撃った際の大量放出からの、先程の奇襲の失敗で底をつきかけているのだ。
これ以上のフォトンの浪費は防がなければ、待っているのは敗北と死だ。
どうにか襲い来る猿吠を蹴散らしたところで、青島はついにお目当てのものを発見した。
遺跡の壁に突き刺さっていた翼刃に手を伸ばす青島だが、なんとすんでのところで横から入ってきたエンホが翼刃を掻っ攫ってしまった。
「あっ、おいちょっと!」
苛立つ青島を小馬鹿にするように、ニンマリと笑う猿吠はすたこらと走り去ってしまう。
「待てええええ!」
慌てて追いかける青島。しかし瓦礫が積み重なり足場の悪い遺跡群の中では、猿吠との距離は一向に縮まらない。やむを得ず両足にフォトンを灯し、一気に加速するも……青島の手が翼刃に届く前に、猿吠は先程の巨大な覇奴魔の元へ辿りついてしまった。
両肩にσ、そして翼刃を持った猿吠を乗せた覇奴魔は、青島を見下ろしながらゲゲゲゲゲと不気味な笑い声を上げた。
万事休すかと青島が諦めかけたその時、遺跡の影から滑るようにμの姿が現れた。
青いワンピースと銀髪が月光に煌めく姿は、余りに幻想的過ぎて戦場の時を止めるかのような違和感を青島に与える。
声をかけようとする青島に、μは唇に指を当てそれを遮る。たしかに見えていないとはいえ、心強い援軍が来てくれたことをわざわざ知らせるのは馬鹿げている。
そのまま容易く覇奴魔の懐へ潜り込んだμは、σのボディの元へ向かった。
μがどうする気かは分からず、青島は黙ってそれを見つめていた。周囲を猿吠が塞ぎつつあるのは気付いていたが、どの道逃げるタイミングは失われていたし、元々そんなつもりもなかった。
σの体を優しく撫でたμは、σの耳の辺りと自らの耳の辺りを指差す。最初は何のことか分からず首を傾げそうになる青島だが、ハッと先程の戦いを思い出す。
σはこちらの通信を傍受する機能を持っていた。もしあの戦いの後その機能をつけたままになっていたら……そして半壊したσの頭部からそれが漏れていたら……?
何故急に猿吠が翼刃を持ちだしたかがこれで分かった。
あれ程老獪な覇奴魔なら、人の言葉を理解していてもおかしくはない。恐らく青島が武器を探しているのを傍受した覇奴魔が、部下に探させたに違いない。
μが来てくれたことで一縷の可能性が開けるように思えたが、蓋を開けてみればさらなる絶望だけだった。μとの連携も当てに出来ない以上、最早青島に勝機はないのでは……何か他にμから助言を貰えないものかと視線を送るも、μは黙ってこちらを見つめ先程のように懇願する仕草を取った。
後は自分でどうにかしろということなのかと焦る青島が見たのは、青いフォトンの粒子になり消えていくμだった。




