第33話「戦乙女と戦士」
「…………」
『…………』
何か言わなければならない。そうは思っても青島は何を言えばいいのかはさっぱり分からなかった。あれ程言いたいことがあった筈なのに……。
自分達が人間ではなかった。そして人類に従わなくてはならない。しかしその為に仲間を消さねばならない……何が正しくて何が間違っているのか。思考を放棄せず賢明に考えたところで、明確な答えなど出る筈もない。
「……最初から、俺を利用する気だったのか?」
どうにかこの言葉だけを絞りだすものの、実のところ答えはどちらでも構わないとさえ思っていた。μにどんな理由があるにしろ、助けてもらったことには感謝しているし、μにどんな思惑があったにしろ、一緒に戦おうと決めたのは青島なのだから。
『……こんなこと言っても信じて貰えないでしょうが、自分でもよく分からないんです。何故タツヤを助けようと思ったのか、これからどうするべきなのか、私がどうしたいのか……』
はっきりとせず言葉を濁すなどμらしくないと思うのと同時に、青島は前にも似た様なことがあったと思いだす……σを回収してどうしたいのかと、青島が尋ねた時だ。
「もしかしてμお前……いや、お前も迷っているのか?」
青島の言葉にμはハッと驚いたかと思えば途端に押し黙る。もしかしたら、迷うという感覚自体がよく分からないのかもしれない。
「実は、俺もどうしたらいいかよく分からない。そういえば……俺さ、やっと分かったんだ。違うな……μ、俺も分からないつもりになっていただけなんだ」
『分からないつもり、ですか?』
μは青島の言葉に首を傾げながらも、青島が黒沼のおかげで分かった事を、四苦八苦説明している間、口を挟まず黙って聞き続けてくれた。
青島の思いが全てμに伝わったかは分からない。今はそれどころではないと言われたら、青島だって頷くことしか出来ないだろう。しかし言うだけの事は全て言えたと青島は思った。
「……μ、お前はどう思うんだ? 本当にヴァルハラ計画を続けるべきだと思うか?」
『……ヴァルハラ計画は、既に破綻している……と、私は、そう思います』
ゆっくりと、言葉を選ぶように呟くμ。今度はそれを、青島が黙って聞く番だ。
『……私が誤作動により、電脳幽体として再起動したのは、西暦が終わってすぐでした。その時点で既に、計画は修正が困難なレベルでズレ始めていたのです。この地域を指揮する筈の私もσグも故障中で、最後の一人がどうにかデブリの製造には成功したようですが……いないということは、彼女もどこかで機能停止したのでしょう』
西暦が終わってすぐということは、青島の想像よりも遥かに長い期間を、μは独りで放浪していたということになる。崩壊していくヴァルハラ計画を、どうする事も出来ずに見せつけられ続けていたのだ。
『自分の体に戻ることも出来ず、ようやく増え始めたデブリに見つけても貰えず、さらに果てしない時間を過ごしました』
きっとだから、時にゲートまで赴いてまで、ひたすら自分を見つけてくれる人を見つけてくれる人を探し続けていたのだろう。
『……ずっと、見続けていました。ヴァルキリーギアの力を借りずとも、懸命に生き続けるデブリの姿を……貴方たちデブリは人類ではありません。でも、既に一つの生命としてこの世に息づいていると判断します。そして……そんなデブリを軽んじるやり方は、やはり間違っていると思います』
「μ……」
『実を言えば、ヴァルハラで眠っている真人類が、まだ生き続けている可能性はそう高くありません……余りに時間が経ち過ぎました、しかしだからといって諦めることも出来なかった。だからその答えを求めたくて、私はσを回収したかったのです……私も、自分で考える事を逃げてしまったのですね』
いっそ可能性が0だったら、μも諦める事が出来たのだろう。あるいはμ青島たちの様に人間寄りの精神構造で作られていたのなら、限りなく0であれば諦める事も出来たのかもしれない。
しかしあまりに高性能な機構戦乙女は、僅かでも可能性があるのならそれを掬い取ってしまう。故に何も出来ないのに、諦める事も出来ずにμ|は放浪を強いられたのだろう。
『しかし、悩むことに疲れた私はσ|に判断を委ねてしまった。これではタツヤの言う通りただの兵器と一緒です。誇り高き機構戦乙女にあるまじき愚行でした。タツヤ、先程は一方的な提案をしてすみませんでした』
「仕方ないさ、誰だって迷う事はある。人もデブリも……機構戦乙女だって」
『タツヤ、改めてお願いしたい事があります。一緒に……一緒にシグを止めて頂けないでしょうか。この地に眠るあの方は、σ以上に機械的に人類に奉仕します。最悪この地域のデブリ全てを、一度初期化する事も検討するかもしれません』
「そんな事絶対させてたまるか。止めようμ、一緒に……今度こそ本当に一緒にだ」
μの赤い瞳には、新しい決意が輝いていた。青島もまた、兵器ではなく兵士としての務めを果たすべく、かけつけてきた伍行たちに今起きた事を説明するのであった。




