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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
五章/矜持´真実
30/42

第30話「兵士の務め」

VG‐02 15/D 対光子生物兵器・ヴァルキリーギア高速機動型十五号機、通称μ(ミユ)。高速戦闘を主眼に開発された十五番目の機構戦乙女(ヴァルキリーギア)

シリーズ最速の機動力を誇り、推力増強兼主武装である翔竜剣(ドレイクスラッシャー)の威力は試作段階ですら驚異的な性能を示した。

二対の大剣翼刃(セイバー)は、連結することでフォトンジェットによる加速と突き出した大剣の回転で威力を爆発的に高められ、蹴爪(ラプター)μ(ミユ)の健脚を発揮するのに適した兵装であるのに加え、加速時にはつま先を覆うように展開してスパイクとしての機能をも果たす。




VG‐04 23/G 対光子生物兵器・ヴァルキリーギア対地銃撃型二十三号機、通称σ(シグ)。銃撃戦を主眼に開発された二十三番目の機構戦乙女(ヴァルキリーギア)


 シリーズ最速の早撃ちを誇り、専用の自動拳銃XP220カスタムを最大8丁同時に射撃する事が出来る。

 他のシリーズと違い特殊兵装が乏しいものの、様々な追加兵装(オプション)をつける余裕を持ち、状況を選ばず安定してスペックを最大限に発揮出来る為、燃費が激しく得意な相手と苦手な相手がはっきりと分かれやすい04系の中でもっとも信頼された機体となった。




 ――――富士基地 古代資料保管部 兵器関連科のデータより一部抜粋








 ゲートに戻った青島は、自室で待機を命令されていた。

 本来なら拘束されてもおかしくないのだが、伍行がヘッドギアさえ没収すればその必要はないと指示した為、手錠をかけられることもなく部屋の外に見張りがいるだけである。

 伍行の判断は正しかったと言えるだろう。これからどうすればいいのか、どうしてこうなったのか……μ(ミユ)のいない青島にはそれを判断する事が出来ない。

 故に青島は一人ぼんやりと、何もすることなくじっとしているのであった。

 人伝に聞いた話によると、あの後σ(シグ)は意外にもあっさり奪還者(リテイカー)側の要求に従い、大人しく独房に入っているらしい。

 牢に入っているとはいえ、σ(シグ)もまた拘束はされていない。もっともσ(シグ)の場合は、錠をかけたところで無意味だからというのが理由なのだが。

 σ(シグ)がその気になれば、ゲートはおろかクレイドルも一日で殲滅出来るだろうに、一体何を考えているのやら。

 ヘッドギアを没収したところで、どのみち青島以外の人間にμ(ミユ)を見ることは出来ないので、μ(ミユ)がその後どうなったかは定かではないらしい。

 心配ではあるが今の青島にはどうする事も出来ず、ただ部屋で時を浪費しているのであった。

 そうやって過ごす事数日後、青島の部屋に黒沼が訪れた。黒沼とは軍隊蜂のコロニーを落とした時以来だ。たかだか一カ月なのに、青島にはひどく昔のことのように感じてしまう。


「久しぶりね青島君……話は聞いたわ」


「どもっス……黒沼さんも今回の奪還に参加していると思ってたから、いなくてびっくりしたッスよ」


 青島は笑いながら席を勧める、黒沼はそれに座るとじっと青島を見つめた。


「どうしたんスか? 俺の顔になんかついてます?」


 軽く冗談を吐く青島だが、黒沼は笑わずじっと青島の眼を見つめ答えた。


「何かあったの? 青島君、なんだかすっかり別人みたいになったわね」


「……色んな事があって、色んな人がいて、色んな意見を聞きました。そのどれもが正しいと思ったんです、でもその通りにやろうとしているのに何故か上手くいかなくって……すいません、訳分かんないこと言って」


「ううん、そんなことないわ……青島君は、それがどうして正しいと思ったの?」


 黒沼の質問に青島はこの一月にあった事を振り返ってみる。

 深く考えるなという人がいた。命令する者とされる者、自分達はされる者なのだからただそれに従えばいいと。例えそのことに納得がいかなくても……。

 その一方で、命令する者ですら道具であると言い切る者もいた。道具は用途を果たす為に存在する。命令する道具、される道具、各々の務めを果たせと……。

 そして青島は、世の中に疑問を持っていた。何故妹は生まれながらに、生きる事を否定されなければならなかったのか。妹の用途とは何だったのか。何故自分達は戦っているのか……。

 最初はただ黙って従うことに納得がいかなかった。例え自分が道具なのだとしても、それぞれが最善を尽くそうとしてはいけないのだろうか。必死に生きようとすることはいけないことなのだろうか。

 しかし青島は失敗した。最善を尽くす為に敢えて命令に背いた結果の失敗だった。これが最初の棘だったのだと、今にしてみれば思える。


「私もね……教官試験を受ける時に、今の青島君と同じ様な壁にぶつかったの。それまでは教わった事を完璧に覚えていれば、それでいいと思ってた。でもね、答えを暗記するだけじゃ……試験で百点は取れてもそれだけなの」


「百点取れるんなら、それで問題ない(・・・・)んじゃないっスか?」


 問いかけて気がつく……そういえば、最近似た様な話しがあった。黒沼は微笑みながらそっと首を横に振る。


「百点は目標であってもゴールじゃないんだと思う。人に教える為には百点のそのさらに先へ行かないと……この問題はどういう意図で作られたのか、作った人は何を知って欲しかったのか、それが分からないとただ答えを提示するだけで、教えたことにはならないんだって最近やっと分かったの」


「百点の……そのさらに先……ッスか」


 青島の力を認めてくれる人に出会った。初めは疑ったものの、その人と一緒ならなんだって出来る、そんな風に思える人と出会った。

 それでも青島は失敗した。こんな筈じゃなかった……どうしてこうなったのか、それはは今でも分からない。

 だから青島は考えるのをやめた。最適な判断を下してくれる人に思考を委ねた。ただ言われた通りに敵を倒せばいいと。

 そしてまた失敗したのだろうか? 青島はただ言われた通りにやったにも関わらず?


「あれ……」


 ふと疑問に思う……何かを疑問に思うのがとても懐かしいことに思えた。

 自分はどうしてそれが正しいと思ったのか。命令に背いた結果失敗したから……しかし失敗が全て間違いとは限らないのではないか? もっと上手にやれば違った結果が出たのではないか? たとえ部分的に間違えていたのだとしても、その全てを否定するのは正しいことなのだろうか?


「あ……兵士の務めって……」


 伍行は務めを果たせ、用途を満たせと言っていた。兵器の用途は敵を殺すことだ、そして兵器を使うことが兵士の用途だと言っていた。

 しかし何も考えずに敵を殺すのであれば、それは兵器の務めであり兵士のすることではないではないだろうか?

 伍行は言っていた、σ(シグ)や青島は何も間違ってはいなかったと……兵器としてなら(・・・・・・・)


「命令に従うのは大事なことだと思うわ。でもその命令がどういう意図で出されたのか、指揮官は何をして欲しいのか考えずに盲目的に従うだけじゃ、テストで百点を取るのと一緒なんじゃないかしら」


 小此鬼は言っていた。それでいいのかと。

 熊野は言っていた。必ずしも不満がない訳ではないと。

 伍行の部下は皆迅速かつ的確に指示に従うので誤解していたが、彼らは別に伍行を盲信している訳ではなく、自らが考え信頼に足ると判断した伍行の指示だからこそ、信じて遂行していたのではないだろうか。

 それこそが、兵士の用途を満たしているということなのではないだろうか。


「あの時……結果的に失敗だったし危うく死ぬところだったけど、伍行隊長の指示に背いてでも私を助けようとしてくれた青島君は、間違いなく立派な兵士だったと私は思うよ」


 青島は霧が晴れていくような爽快感を一身に浴びていた。

 いやきっと、すぐ目の前に答えはあったのだ。一歩前に進めばいつでも出られたのに、座り込んでいただけなのかもしれないと青島はしみじみ思う。そして一刻も早く、この爽快感をμ(ミユ)にも伝えたい。いや、伝えなくては。だって青島はμ(ミユ)の相棒なのだから。

 一緒に戦おう……そう言った筈なのに、いつの間にかμ(ミユ)に全て委ねてしまっていた事を青島は深く恥じた。

 謝りたい、そしてまた一緒に戦いたい……今の青島ならばμ(ミユ)と共に、完璧のその先にだっていけると思った。


「黒沼さん、ありがとうございました。俺、行かないと! あ、でも……」


 今の青島は実質軟禁状態にある……加えて言えばμ(ミユ)が、正確には青島のヘッドギアがどこにあるかもさっぱりだ。

 しかしうろたえる青島に、黒沼はニッコリと微笑みかけた。


「そういえば、ここに来た用件をまだ伝えてなかったわね。青島君はこれから私と一緒に来てもらいます、貴方と十五号機の尋問(・・)をする為にね」


「え? それってどういう……黒沼さん?」


「もう、相変わらず察しが悪いんだから……まぁ、その方が青島君らしいのかもね」


 事態を飲み込めず目をパチクリする青島、黒沼はそれを見てさらに笑うのであった。


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