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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
一章/奪還´用途
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第3話「伍行隊」

「役に立たないやつは処分……か……」


  その夜、食堂では夕食ついでに分隊員の顔合わせが行われた。しかし青島は食事にもほとんど手をつけずぼんやり伍行の言葉を反芻していた。

  新兵の間にはある噂がある。曰く、伍行分隊に配属されるのは将来有望なものか、落ちこぼれのどちらかしかいないと。事実……青島が周囲を見渡すと、たしかに周りにいる隊員は皆有名な隊員ばかりである。


「なんだァ? 隊長が言ってたこと気にしてンのか?」


「……小此鬼(おこのぎ)先輩。どうもっス」


 落ち込んでいる青島に声をかけてきたのは、今までの調査でも何度か顔を合わせたことのある小此鬼という隊員だった。背はあまり高くないものの、引き締まった体はあちこち傷だらけで、常に眉間にしわを寄せて不機嫌そうな三白眼で誰かれ構わず睨みつけ為、ついたあだ名は小鬼(ゴブリン)である。カッとなるとすぐ顔が真っ赤になるのも理由だとかなんとか。

  青島は勿論のこと、新兵の殆どは小此鬼に怒鳴られたことがあるので誤解されがちだが、実際のところ面倒見がよく根は優しいし、表情を直せばかなりの美女(・・)である。


「心配してくれてるんスか?」


「な!? ばっかてめぇ誤解すんじゃねぇよ! 折角の飯が不味くなるから、辛気臭ェ(つら)晒してンじゃねェって言ってんだよ!」


 明らかに狼狽しながらも、小此鬼は眉間にしわを寄せ青島を睨みつけたが、青島は既に小此鬼の弱点(・・)を知っているので飄々と返事をする。


「とか言って、なんだかんだで小此鬼さんは面倒見がいいっスよね。可愛い(・・・)ですし」


 特に強調された可愛いという単語を聞いた途端に、小此鬼の顔はカッと真っ赤になり目に見えてうろたえる。


「ば、馬鹿野郎! 俺が、か、かか可愛いとか、んな訳ねェだろ! ぶっ殺すぞ!」


「……ゴブリンはほんと褒められることに弱いし。戦場で試しに言ってみたら、どうなるかとても気になるし」


 狼狽する小此鬼を見つめながらぼそりと呟いたのは、同じく分隊の先輩である毒島(ぶすじま)だった。


「うっせェブス! そン時はてめぇも道連れにしてやっから覚悟しとけやこら! つーかその呼び方やめやがれ!」


「お互いさまだし。ボクだってブスじゃなくて毒島だし。っていうか、ゴブリンとはポジション違い過ぎるから、その可能性低いし」


「ンだとてめェ!」


 ぎゃあぎゃあと怒鳴る小此鬼には目もくれず、毒島は淡々と食事を続けていた。

 あくまで青島目線だが、毒島という先輩を一言で表すなら“変人”に尽きる。

 理由は知らないが、施設内でもヘルメットは決して外さないので素顔は見た事がない。現に今も、わざわざ外で食事を取る時に使うノズルを使って酒を飲んでいる始末だ。

 制服は男物のようだが、少々サイズが合ってないのかボディラインも判別出来ない。

 音声変換機能(ボイスチェンジャー)を使っているので、男か女かも分からないのだから驚きである。

 背は小此鬼よりも更に低く、パワードスーツを外した体は貧相でとても運動向きとは言えないが、毒島の受け持ちはデータ制御やハッキングなので問題ないらしい。


「二人ともみっともないですよ」


 もう慣れたものなのか、顔色一つ変えずに食事を取っているのは黒沼である。


「伍行隊長は厳しい御方だけど馬鹿じゃないわ。きちんとやっている人の事は、ちゃんと見ているから大丈夫よ」


「問題はちゃんとやれるかどうかってことだし」


 毒島の言葉に黒沼の表情が濁る。青島も思わず俯いてしまった。


「だからしけた面してンじゃねーよ。心配しなくても、最初は言われたことだけキチっとやりゃあいいんだよ。あれこれゴチャゴチャ考えるのは昇進するまでとっとけ」


 奪還者(リテイカー)はその働きに応じてS~Eに加え1~5の30段階のライセンスが与えられる。

 このライセンスというのが曲者で、奪還者(リテイカー)にとっての階級とはただの名誉や指揮権だけではなく、装備を始めとしたあらゆるフォトン技術デバイスへのアクセス権も兼ねている。

 つまりランクが上がれば上がる程、より高度で複雑な特別兵装の携帯を許可されるので、奪還者(リテイカー)はみな昇進に躍起になるものなのである。


「今はどうせ標準装備しか持ってねーんだから、やれる事なんてどの道限られてンだろ」


「青島君って、オートマタもまだ支給されてないんでしょ?」


「この間の研修で、お前にはまだ早いって……」


 オートマタとはリテイカーをサポートする機械人形である。

 大きさは大体どれも一メートル強とそれ程大きくはないが、様々なオプションとカスタマイズにより、戦闘を始めあらゆる面でリテイカーの動きをサポートする便利な機動兵器なのだが、扱いが難しいので、ベテランの中でも敢えて使わない者も少なからずいる。


「青島はなぁ、周りをよく見てはいるんだがなぁ」


 青島の隣の席にドカっと巨体が収まる。隊長達と何か話していたのか、皆に遅れること数十分の後、配給の食事をトレイに持った熊野が伍行分隊のテーブルに着いたのだ。


「ンだよ、また熊のおっさんも一緒かよ。あんたもいい加減分隊長やりゃあいいだろうに」


「ほっとけ鬼娘。隊長の仰る通り、兵士は兵士ごとに用途に応じて動けばいいんだよ」


 どうやら青島以外はほとんど見知った面子のようで、小此鬼だけでなく他の隊員たちも熊野と親しそうに挨拶を交わしていた。


「用途……熊野さんはそれでいいんですか? まるで道具みたいな扱いじゃないっスか」


 用途という言葉がふとひっかかり、青島はおずおずと熊野に尋ねた。


「全く不満がないと言えば嘘になるが……分相応って言葉があるだろう、優しく言えば向き不向きってところか……青島、やりたい事とやれる事ってのは、必ずしも被る訳じゃないんだ」


 熊野にも思う所があるのか、どこか神妙な顔で食事を口に運ぶ。

 クレイドルでも、熊野はかなり古参の部類に入る……にも関わらず、隊長を務めていないからには何かしらの事情があるということなのだろう。ましてや自分より遥かに若い、伍行の分隊にいるとなると尚更だ。


「まぁなんだ。伍行隊長の言葉を借りるなら、俺達下っ端兵士の用途ってのは、指揮官の命令を忠実に実行することだ。ヒヨッコ新兵の判断力なんぞ俺らも当てにはしてないんだから、まずは言われたことをきっちりこなすことだけ考えるんだな」


 青島は熊野の言葉に全面的に納得することは出来なかったが、それでも自分を励ましてくれていることは分かったのでとりあえず頷いておくのであった。


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