第26話「α」
『タツヤの気持ちは……私にも少し分かります』
食事を終えた後も気不味さからテントに戻らず、ベースキャンプの隅で一人ぼんやりしている青島に、ふとμが声をかけてきた。
『私も不器用だったもので……よく仲間と揉めたものです』
■青島〉μ『あー……それなんとなく察しがつく気がするな』
すっかり癖になったのか日常的にヘッドギアをつけている上に、なによりμと会話しているのを他の者に気取られたくなかったので、青島は思念チャットでμに答える事にした。
青島がくすりとほほ笑むと、ムッとした顔になるμ。
■青島〉μ『悪かったって、冗談だよ。ほんと俺と一緒だな……そう言えば、前から聞きたかったんだけど、ヴァルキリーギアっていうのは皆μみたいに感情豊かなのか?』
黙って命令に従うだけならば感情など必要ない筈なのに、西暦の科学者たちは何を思ってミユに感情を与えたのだろうか。
『私に感情など……私以外の姉妹も皆似た様ものです。ですがα……私達の長女である一号機ですが、彼女だけは違っていたように思えます。私達と違い、αには確かに感情があったと言えるかと』
■青島〉μ『αって……ミユの隊長だった?』
暴走時に流れ込んできたμの記憶を、青島はほとんど覚えていない。元々記憶出来る程鮮明な体験ではなかったし、あの時はそれ以上に激しい感情が青島に注ぎ込まれていたのだから、無理もないのかもしれない。
しかし、忘れてしまっていても精神に刻みこまれていたαという単語から、青島は半ば反射的に返事をしたのだ。
『よく分かりましたね? えぇ、隊長として私も頼りにしていました……彼女によく言われました。私達ならば命令を完璧にこなすことは容易だ。しかし私達は誇り高きヴァルキリーギアなのだから、それに満足してはいけないと』
■青島〉μ『どういう意味だ? 完璧じゃだめなのか?』
『実は今でもよく分かっていません。完璧以上の何か……もしかしたらそれが分からなかったから、私は今もこうして機能停止する事も出来ずに、彷徨い続けているのかもしれませんね』
寂しそうに笑うμの横顔を見て青島はふと思う……もしかしたら、μはその答えを求めて二十三号機を回収したいのではないかかと。
■青島〉μ『σ、無事だといいな』
今度は気休めではなく、心の底から思いを込めた青島だが、クレイドルで同じ言葉をかけた時同様μは何故か無言のまま、ただ寂しそうに微笑み続けるのであった。




