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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
三章/極光´虚無
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第21話「青い極光」

■伍行》分隊員『来たぞ。各自警戒せよ』


 伍行の通信に身構える。青島はふと、もし自分のところに来てしまったらと考える。

 遺跡泥棒は人類に協力しないばかりか、奪還者(リテイカー)の死体から武器やパワードスーツを盗み、自分たちの為だけに転用している連中だ。

 しかも死体を漁るだけならまだしも、時に奪還者(リテイカー)から奪い取る為に、罠をはり陥れてくるような者もいる始末だ。

 見つけた場合は無警告で殺害が許可されている。征服種(レックス)同様敵として認識されているという訳だ。

 しかし青島には、彼らの気持ちが痛い程分かる気がした。勿論死体を漁り同じ人間を襲う事には共感はできないが、おそらく彼らの中に進んでその身を堕とした者など、一人たりともいないのだろうという確信があった。

 きっと彼らは人の領域に居場所がなかった為、追いやられたに過ぎないのだ。


「もしμ(ミユ)と出会ってなかったら俺だって……」


『タツヤがどうかしましたか?』


 μ(ミユ)の反応に、つい胸の内が漏れてしまっていたことに気がつく青島。監視者が近くに居なくて本当に幸いであった。


■青島〉μ『なんでもない……それにしても、誰もこないな。こっちには逃げてこな――』


 どこか安心したような気持ちは一瞬で打ち消される。打ち消したのは発砲音と逃げ惑う騒音。そして眼前に迫る、遺跡泥棒たちだった。


『来ましたね。しかしなんとお粗末な装備……全自動戦闘支援(ブリュン)誘導システム(ヒルデ)を起動するまでもないと判断します』


 μ(ミユ)の言う通り、遺跡泥棒たちの装備は非常に拙い。寄せ集めのパーツでつぎはぎだらけのパワードスーツ、本来なら廃棄されている筈の型遅れの武器。ボロボロのマスクに傷だらけのヘッドギア。

 人類圏から追い出された彼らは人から逃げ回り、人外からも逃げ回りただただ追いつめられていくだけの人生を送るしかない彼らの身を守る鎧は、逃亡者に相応しいと言わんばかりに貧相だ。


「それでも……生きているんだよな……」


『タツヤ? 戦わないのですか? ……まぁ私はどちらでも構いませんが』


 相手が小物過ぎて誇りに障ったのか、μ(ミユ)は案外好戦的ではないらしい……青島の両足がぐっと重くなる。物理的な重量ではなく、精神的な重みが青島に二の足を踏ませた。

 μ(ミユ)の眼中にすらない敵ならば放っておいても問題ないのではないか? しかしここで見逃して、μ(ミユ)はともかく伍行たちにどう報告すれば……

 グルグルと堂々巡りする思考が青島の足を止め、どうにも出来ずいたずらに時間が過ぎるも……最悪なことに、遺跡泥棒たちの方が青島に気がついてしまった。


「ちっ、こんなところに隠れてやがったのか!」


「こいつ、武器をしまってないのか。さては新兵だな」


「いいから今は、逃げることだけ考えろ!」


 所詮烏合の衆の限界か、遺跡泥棒たちは、各々が好き勝手な言い分をぶつけるばかりで統率がない。こうなっては致し方ないと、青島は翼刃(セイバー)を構え瓦礫から飛び出した。μ(ミユ)の両足の力なら、一度の跳躍で逃げようとしていた遺跡泥棒を飛び越え道を塞げる。

 青島はそのまま、翼刃(セイバー)にフォトンを溜めないで斬りかかった。

 とっさに腕につけた防具でガードする遺跡泥棒。

 本来ならばこの程度の防具では、なんの手ごたえもなく両断出来る翼刃(セイバー)だが、流石にフォトンを装填しなければただの刃物である以上、火花を散らすのが精々である。


「こっちにはまだ待ち伏せがいる。逆側の大通りを抜けていけ」


「!? ……お前、なんのつもりだ」


 鍔迫り合いで密着状態になった青島は、。μ(ミユ)にすら聞こえないよう小声で唯一の逃げ道を教えようとする。ボロボロのヘッドギアで顔は見えなかったが、声から察するに相手は青島と大して変わらない青年のようだ。


「こっちの事情だ。死にたくなかったら俺を信じてくれ……わざとやられるから、適当に振り払え」


 ヘッドギア越しとはいえ青島の気迫に押されたのか、遺跡泥棒は微かに頷き腕を大きく振り上げた。それに合わせて青島は、いかにもしてやられたように仰向けに吹っ飛ぶ。


「今だ! 逃げるぞ!」


 青年に続き、わらわらと遺跡泥棒たちが逃げていく……これでいいんだと、青島はホッと息を吐き遺跡泥棒たちを見送った。

 起き上がろうと思えば起き上がれたが、念の為起き上がるのも困難なように一度うつ伏せに倒れる演技をして、この場をやり過ごそうとする。

 ……しかし、その時不意に青島の頭部に衝撃が走り、青島は今度こそ本当に吹っ飛ばされた。


「こいつはいい剣だ! こんなぺーぺーには勿体ないぜ!」


 後続の遺跡泥棒の一人が翼刃(セイバー)を奪おうと、手に持つフォトンアックスを青島へ振り下ろしたのだ。咄嗟にμ(ミユ)がパワードスーツを動かしてくれなければ、一発で昏倒していただろう。

 青島はわけも分からず、眩暈と混乱で描き乱れる視界をどうにか定めた頃には、目前には真っ赤に光るフォトンの刃が、青島の頭蓋を砕こうと迫っていた。

 あぁ、この斧の柄で殴られたのか。と……余りに情けなく、あっけない思いだけが青島の脳内を掠める。

 想いを裏切られた怒りも悲しみもなく、ただ虚しさだけが青島の精神を満たしたその時……青島の意識は青島の体から剥ぎ取られた。

 完全に尻もちをついていた状態から、ノーモーションで青島の右足が遺跡泥棒の胴体を蹴り飛ばしたのだ。

 あまりに精巧な作りなので本人すら未だ意識出来ていないが、青島の両足は超技術(オーバーテクノロジー)で構成された、正真正銘全身機械仕掛けの足である。

 本来人間ならば足の筋肉だけでは動きに限界があるものの、電気信号とモーターで動く人工筋肉と、内蔵された超小型フォトンジェットがあれば、踏み込み無しでも必殺の威力を持つ蹴りを放てるのだ。

 ただの蹴りで胴体が真っ二つになった遺跡泥棒は、自身に何が起きたのか理解出来ずに立ったまま絶命した。

 驚愕した遺跡泥棒達は、ある者は一目散に逃げ出し、ある者はたまらず青島に襲いかかってくる。

 そこからの動きは、全自動戦闘支援(ブリュン)誘導システム(ヒルデ)に青島が合わせたのか、μ(ミユ)が無理矢理青島を動かしたのか……青島自身にもよく分からなかった。

 ただ一つ言えることは怒りが、純粋な怒りが青島の体を支配していた。

 しかしそれは青島自身の怒りではない。青島の心には虚無感しかない。青島の心が空っぽだったからこそ、μ(ミユ)の爆発した怒りの全てを青島の体に満たせたのだ。


『【エラー発生】お ♯♯、よ×も【緊急停止】タ%Yを=! ~ブ@の癖NNNNN! 死+も*●【失敗】償{_!』


 ノイズが混じり、支離滅裂となったμ(ミユ)の感情が垂れ流される。暴走したμ(ミユ)を止める術が青島には分からず、また止める気すら起きずμ(ミユ)の激情にただ黙って従った。


『全▼【警告】>殲滅’E誘”#♭テム【深刻ナエラーヲ確認】起動! %‘ろ! 【警告】【無視】【対象】|¥リ! 【殲滅】』


 青島のパワードスーツが、全身から眩い光を放ちながらギアを上げていく。

 見ただけで人の心を塗りつぶしそうな青い極光を全身から放つ青島は、青い閃光そのものとなり遺跡泥棒たちを蹂躙していく。


『【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】【殲滅】』


 切り裂き、踏みつけ、蹴り飛ばし、細切れにし、頭を潰し、胴を弾く。

 過剰防衛ではないか? ここまでする必要性とは? これが自分の務めなのか? ……等という疑問は、今の青島の脳内には存在しない。

 敵は倒す……兵士として最もシンプルな思考さえ、狂おしい程に輝く青い極光が塗りつぶしてしまっている。

 μ(ミユ)の言う通りに動く。これが今の青島を動かすたった一つの原理であった。

 そこまでμ(ミユ)に心身共にシンクロした所為か……青島の思考に怒り以外の何か(・・)が流れ込んできた。




「……μ(ミユ)、さっきの作戦……どうしてあんな無茶な突撃をしたの?」

α(アルフ)……人間達は無事撤退出来ました。完璧だった筈です、何か問題が?」


 眩しくてよく見えないが、どうやら白い少女がμ(ミユ)を窘めているようだ。


「可愛い妹が怪我をしたのよ? 問題がない筈ないでしょ?」


「……この程度の損傷、問題と言うには大袈裟だと判断します……戦時中なのだから、少しでも損傷を抑えろと言うのであれば善処――」


 白い少女は、μ(ミユ)の唇をそっと指で塞ぐ。


μ(ミユ)……私達ヴァルキリーギアはとても優れた兵器よ。私達ならば命令を完璧にこなすことは難しくないわ。でもね、私達はただの兵器じゃない、誇り高きヴァルキリーギアなのだから、それに満足してはいけないの」


α(アルフ)、貴女の命令は抽象的過ぎて意図が分かりません。具体的な指示を要求します」


 白い少女の顔が、徐々に光で薄れていく。それに伴い白い少女の声が、青島には聞こえなくなった。


「…………………………」


 どこか寂しそうな笑顔を最後に、流れ込んできていた光景は、青い光に完全に塗りつぶされていった。

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