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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
三章/極光´虚無
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第19話「兵士の呪い」

  出発はもうしばらく先になるらしく、することもないので青島はクレイドル内をぶらぶらとうろついていた。もっとも監視つきで、指定された区画から出る事は出来ないのだが。

  聞いた話では、旧都庁の遺跡泥棒狩りは順調らしく、青島を含めた伍行分隊の合流は本拠地を潰す段階かららしい。

  青島の隣をふわふわと浮かぶμ(ミユ)の姿は、最早見慣れつつある。以前は本体のあるコクーンタワー周辺しか動けなかったμ(ミユ)だが、今では青島のヘッドギアに自らの一部をインストールしているので、活動領域は飛躍的に増して喜んでいた。


■青島〉μ『コクーンタワーの奪還が一日で終わっちゃったからな、次はいよいよ旧都庁って訳だ』


『西暦に製造された私としては、人同士で争っているというのはいささか疑問ではあります』


 青島が生まれた時には既に遺跡泥棒は深刻な社会問題になっていたので、あまり疑問に感じたことはなかったが、μ(ミユ)からしてみれば理解不能なことなのかもしれない。


■青島〉μ『西暦末期では、はみ出し者はどうやって生きてたんだ?』


『人類全てが戦争に従事していた筈です……しかし今になって思えば、きっとただ単に“それどころじゃなかった”というだけで、自らの用途に疑問を持ち反発していた者は、少なからずいたのかもしれません』


 μ(ミユ)の言葉は青島の胸に刺さっている小さな棘を刺激した。

 青島は半ば脅迫的に、自らに言い聞かせる……今の自分はもう違う。

 兵士の務めは用途を果たすこと。

 μ(ミユ)の指示をこなしさえすれば、何も問題はないのだと。


『タツヤ? どうかしましたか、バイタルがやや乱れているようですが』


■青島〉μ『なんでもない、大丈夫だから』


 気まずそうに返事をするのと同時に、青島は居住区の中にある公園に辿り着く。

 公園といっても遊具も街路樹もなく、とってつけたように設置されたベンチには誰も座っていないので、広場と言った方が正しいかもしれない。資料に載っているような、西暦の戦前の公園とはまるで趣が違う。

 ベンチに腰掛けてどこを向くでもなく、青島はぼんやりと想い出を揺り動かす……青島の妹は、こんな殺風景な公園に足を運ぶことすら出来なかった。

 そもそも、青島の妹のように成長途上で命を落とす子供は実は珍しくない。征暦という過酷な環境は、ただ成長するというだけでも試練に変える。

 もっともそれくらい乗り越えてみせなければ、大人になり兵士になっても、どの道すぐに死んでしまうというだけの話なのかもしれない。


■青島〉μ『西暦末期でも、子供ってすぐに死んじゃってたのか?』


『そうですね。人類は繊細で、とても脆い……何もしなくても次々に死んでいってしまう。ここまで漕ぎつけるのは、さぞ同志達も苦労したでしょう』


■青島〉μ『やっぱそういうもんなのか』


『ですが同志達は幸せです、務めを果たして機能停止出来たのですから。役割を果たせぬまま死に損なっている私とは違います』


 寂しそうにどこか遠くを見るようなミユの横顔を、青島はぼんやりと見つめる。

 もしかしたら青島の妹も、青島に出会う前のμ(ミユ)のように果たせなかった務めに縛られて、誰にも認識されることなくどこかをさ迷っているのだろうか。

 務めとは何なのか……まるで呪いのようではないか。


■青島〉μ『ミユの仲間、回収出来るといいな』


 少しでも寂しさが紛れればと、青島は気休めと思いつつも慰めるものの、ミユの答えは青島の想像とは異なるものだった。


『……実を言うと、自分ではよく分からないのです。私一人ではどうすればいいのか分からないので、判断を仰ぎたいだけなのかもしれません……誇り高きヴァルキリーギアが聞いて呆れますね』


 ミユの言わんとすることが伝わり切らず、青島はきょとんと首を傾げた。しかしミユは誤魔化すように、ただただ寂しそうに微笑みかける。


■青島〉μ『ま、まぁ俺にはμ(ミユ)がいてくれれば問題なしさ。これからも頼りにしてるぜ、μ(ミユ)


 丁度夕日も沈みだしたので、青島はそそくさと寄宿舎に戻り始める。

 μ(ミユ)が心配そうに青島の背中を追っていることには気がついていたが、今は何も言わずその場を後にする事しか出来ないのであった。

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